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    羽兎@hato_ht

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    イザ武。

    #イザ武

    首輪の先はベッドの中人が一人いなくなった所で、世界は淡々と流れていく。それはニュースになる事もないから、誰の記憶にも残る事はない。誰か訴えでもしない限り。それが武道だったとしても、彼を知る人間は、もう誰もいない。この世には。武道を残して死んでいった。

    「……ああ、今日、満月なんだ」
    武道の呟く声は、誰にも届かない。ここには誰もいないから。否、この部屋を知る人間は、誰もいない。たった一人を除いて。そのたった一人は武道を置いて出かけていった。仕事だと言って機嫌悪そうな顔で出ていったのは、数時間も前の事。否、どれ位の時が経ったのだろうかと、武道は部屋にあるたった一つの窓に手を伸ばすと、ジャラリと音が鳴った。武道が動く度にその音が部屋に響く。それこそ、白いシーツの海に映える事もなく、酷く重い。それこそ起き上がる事が億劫だと、寝返りをうつのも邪魔だと、音を鳴る代物―鎖を引っ張った。引っ張った所で取れる事はない。武道の首とベッドヘッドに繋がれているから。いつからそれが繋がれているのか武道には分からない。気が付いたらこの部屋にいた。それこそ、あの時、銃で撃たれた筈だった。死に際に直人の手を掴んで、彼をトリガーにして、タイムリープをする筈だった。筈だったのに、気が付けばここに居た。そして、首に鎖があった。そう、鎖。お前はイヌだと、この部屋の主が言ったから武道はそれに頷いた。今が昼なのか、夜なのか、分からないままに、ただ、飼い主の帰りを待つイヌのように、首輪をつけて部屋の出入り口を見るだけの生活になった。けれど、時々、頭が痛い。直人が、過去を変えてくれといったから。直人って、誰だっただろうか。頭がぼんやりとして、ドアを開くのを待つだけ、その人が俺の飼い主なんだと、誰かに教えられた様な気がした。
    誰かを探していた様な。誰かを待っていた様な。けれど、今はその誰かの事を忘れてしまった。飼い主が忘れてしまえと言ったから。それだけが武道の覚えている事。ベッドの上で教えられた事。そして、覚えていなければいけない事だった。早く帰ってこないだろうかと願ったとしても、飼い主が出ていったのは、少し前。否、大分前の事。時間を考えるのが、酷く億劫になる。何も考えるな。そう教えられた気がするが、何で考えてはいけないのだろうか。ぼんやりとした頭がその事を考えると、痛みが走る。だから、気が付かなかった。部屋に入ってきた事を。飼い主で、恋人である、彼―イザナが見てる事を、武道は気付かなかった。だから、呟けた。一言、マイキー君、君に会いたいと、呟いた。その声は部屋の中へと響き、その言葉は部屋の入り口に立つ彼の耳にも届いた。だから、声が響いた。響かせたのだ。イザナは。
    「タケミチ、お前、イイコにしてた?」
    その声に武道の体は震える。それは恐怖からか。それとも、何が起きているのかが武道には分からないが、ベッドがギシリと音をたて、そちらへと視線を向けると、その冷えた声をあげた主、イザナがベッドの淵へと座っていた。そして、その手には武道の首へと繋がった鎖が存在し、ジャラリと音を鳴らした。そして、引っ張られる様にして鎖が引かれると、武道はイザナの元へと体を起こすようにして側へと近付いた。否、近づくしかなかった。
    「イザナ、くん?」
    どうして怒っているのかが、武道には分からない。ただ、武道の見上げる先には紫水晶の光が闇の中でも輝いていた。それこそ武道が見上げた月の光を浴びてキラキラと輝くその姿にキレイだと、武道が手を伸ばそうとすると、ひんやりとしたイザナの気配があった。その気配に、武道の頭がぼんやりとする。それこそ、そうだったと、しなければいけない事があったと、武道はベッドから降りると、イザナの足元に、飼い主が帰ってきた事をイイコで待っていたと、フローリングの床へと武道は座り込んだ。
    冷たい。それは何も履いていないから。履く必要はないだろうと、何も履く事を許されなかった。シャツ一枚だけの生活。それが飼い主―イザナの望みだから、武道はイイコで守っているが、シャツすらも着せてもらえない時もあった。怒られたから。何を言ったから怒ったと、ちゃんとイイコにしていたからと、ベッドの側に、イザナを足元から武道は見上げた。
    「イザナ、くん。おかえりな、さい」
    「ン、タケミチ、イイコ」
    グイッと首が引き上げらえる。苦しくて、息ができない。俺は何時でもイイコだよと、武道が返事を返そうと、イザナの頬へと手を伸ばして、そっと唇に寄せた。己の唇。錆びた鉄の味がするのは、自分の口の中が切れているから。どうして、唇が切れてるんだろうか。ああ、考えるのが面倒だなあ。早く俺を君のモノにして欲しい。そう思う心が、武道の中に浮かんでは落ちていく。落ちていくしかなかった。武道の戻る場所―《東京卍會》は闇に消えたから。闇から闇へと、イザナと稀咲によって。葬られた。そして、武道が死者である事を、イザナ以外、誰も知らない。
    「なあ、タケミチ。俺もイイコにするから、俺のニイになって」
     イザナの唇が武道に下りる。そして、武道の首に繋がった鎖が外れた時、それが獣と獣の交わる夜の合図だと、武道とイザナの二人しか、知らない夜が始まる。

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