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    そのこ

    @banikawasonoko

    @banikawasonoko
    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    ビクトールさん、ノースウィンドウに帰る。フリックと帰ったのはなんかそりゃあそうよな、と思うんですけど、同時にフリックには話しててほしくないという願望。

    #ビクフリ
    bicufri

    2025-04-27

    遠くに街が見えてくる。目的地だ。岬から広がるように町があって、昔はトゥリバーからのサウスウィンドウをつなぐ交易路としてそこそこ栄えていた。10年前のあの日、何にも分からない内に全部が壊れた。
     生き残ったのは俺ぐらいで、俺もまたあの村に居続ける事を選ばなかった。もし、吸血鬼があの災禍を成したのだと知らなければ、一人で村に残ったかもしれないが、それも全部たらればの話だ。
     天気はとてもいい。空が高くて鳥が鳴く。最後に立ち寄った村で聞いた話によれば、野盗の類が住みつくことも特になく、ただそのまま朽ちていっているらしい。だってあんな事があった土地だろう、と眉を寄せる村人に俺は曖昧な笑みを見せた。
     轍も消え、草に埋もれかけた道を行く。
    「前はこの辺でダメになってな」
     門が遠く遠くに見える。これだけ遠目だと朽ちてるかどうかなんてなんもわかんないな。
     だから怖かったんだ。もしかしたら、何か、何かが起きて、みんな変わらず俺を迎えてくれるんじゃないかと期待して、その期待が確実に裏切られることが怖かった。
     確かめなければ夢を見ていられる。それがあまりにも非現実的で、淡く、ただの弱さだとしても、進むことが出来なかった。グランマイヤー市長にも、アナベルにも嘘をつき、逃げるようにジョウストンを出た。
     それが一年ぐらい前だ。今、もう一度、ここにたっている。かつて道だった、何にもない場所だ。
     立ち止まった俺に、少し先を行っていた男が振り返る。腰に剣を下げただけの簡素な旅装だ。かつてなら、こういう奴は外から来る人間ばかりで、自分の隣にあるなんて有り得なかった。
     有り得ない事が、今は現実だ。
     10年たった。だから何もかも変わっていて当然だ。
    「行くのか」
     わざわざ頼んでここまで着いてきてもらった。帰りたくないわけではない。ネクロードを倒したことをちゃんと報告すべきだ。そしたら、あの村でまた暮らしてもいいかもしれない。一人、畑でも耕して生きていく程度なら出来るだろう。
     フリックは促しもしない。思わず足を止めたまま、俺は遠く門のほうをみやった。見慣れたノースウィンドウを背に、フリックが気づかわしいげに俺を見ている。
     不思議な光景だった。過去と現在が両方視界に存在している。
    「……行く」
     重心を前にずらして、転げるように一歩踏み出した。追いつくまでフリックは待っていてくれ、隣に並んで歩き出す。
     もしかしなくても、ちゃんと話すべきなんだろう。俺がどうして旅をしているのか。復讐劇をどうして始めたのか。どうやって村は滅んだのか。始まりは確かにあって、ここまでずっと続いている。
     20歳までここにいた事は確実で、今この場にいるのも本当だ。
     でも、なんだろう。話して、どうなりたいのか。慰めてほしいのか、知ってほしいのか。
     こうして一緒に来てもらっている以上、話すべきだという事は分かる。話したくはない。知ってほしくはない。
     聞かれないのを良いことに、俺はただ黙って歩き続ける。
     目の前に現れたのが、10年分だけ荒廃した村の姿であったとき、思わず握りしめた掌が過去から何一つ繋がっていない、ただ俺のものある事がおそらく救いになると思ったからのだ。

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    そのこ

    DOODLEアナベルとフリック。アナベルさん、ビクトールはもう二度と隣に誰かを置かないと思ってたのにフリックがいてビビったろうな。これはビクフリの文脈です。
    2025-04-24


     定例の報告会の後、少し時間が余ってしまった。次の予定まで、アナベル自身も時間があったし、今日は一人で来たフリックもまたすぐに帰らねばならぬ事もないらしい。茶を淹れてしゃべるといっても、お互いにどうしても共通の知人の話になる。
     フリックはどうやら昔の話を殆ど聞いていないらしい。ただ故郷を滅ぼされ、誰にも頼らずに復讐の旅に出た。どうして誰も頼らなかったのか、忘れてしまうことは出来なかったのか。
     10年前のビクトールが、どれだけ暗い目をしていたか。
    「解放軍の頃はそりゃあ信用できない顔してたけどな」
    「でもするっと懐にはいるんだろう」
    「そう。だからこそ俺は嫌いだったけどな」
     笑うフリックの表情はどこか甘さが勝つ。容貌のやわらかさと言うよりも、ビクトールに向ける感情に、言葉ほどのとげのなさから来る甘さなのだろう。もう帰ってこないと思っていたビクトールが、隣国からたった一人連れ帰ってきた男は、その事実の重さと甘さには何も気づいていないようだった。
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