12/2君のことならお見通し 冬の夜。お偉い貴族悪魔と会食を終えたメフィスト様と私は並んで歩いていた。飛ばないのは私が微力のお酒で酔っ払っているからである。
元々弱いけど、最低限食前酒を舐めるくらいなら平気。けど今日は食後のデザートにもお酒が含まれていたのでちょっとぽやっとしている。飛べると言ったけどメフィスト様がダメだと言うので、こうして手を引かれて歩いている。
「もう酔いも冷めましたし、飛べますよ」
「ダメ。もうちょっと歩こう」
もちろん並んで歩くのはやぶさかでない。夜風は涼しく繋がる手は温かい。空は星でいっぱいで素敵な夜だ。
「星がいっぱいですね」
「こればっかりは昔と変わらないな」
「占星も古い学問ですものね」
「昔の王の付き悪魔で占星にすごくこだわる悪魔がいてね」
そんな話をしながらてくてく歩く。吐く息は白く、空は暗く、そして目の前にはメフィスト様が少し耳を赤くして歩いている。寒いもんなあ。
「メフィスト様」
「うん」
「戻りましたらココア淹れます」
「俺のはブランデー入れて。君のは生クリーム乗っけていいよ」
「こんな夜中に」
「こんな夜中だから、いいんだよ。厨房の棚の裏に隠してあるチョコとクッキーも食べていい」
何故それを知っている! 隠してある意味がないじゃない。メフィスト様はちょっと振り返って私の顔を見て笑ってから前を向く。
「俺が君のことで知らないことなんかないよ」
「私は、メフィスト様のこと全然わかんないのに」
「……そうでもないけどね」
そしてまた並んで歩く。家まであと30分はかからないだろう。帰ってお風呂を用意して飲み物をお出しして、ああ、どうやって風呂の同伴を断るか考えなくては。だってきっと、そろそろ言い訳が尽きる。なにより別にいいかなと思っている自分がいる。
まだなにも言われていないけど、誘われたら乗ろうか考えている自分に気付き、なんとなくメフィスト様の手を握り直した。
メフィスト様は何も言わない。たぶん、全部わかっているのだろう。