2/7シーツの波間に君 書類を確認してもらいたくて、秘書を探す。スケジュール調整を任せっぱなしなので、予定が重なった日は、彼女に聞かないと追加で予定を入れていいかどうか解らない。
「いないなあ」
書斎はもちろん、厨房にもリビングにもいない。寝室にも風呂場にもどこにもいない。
出掛けたはずはない。もし出掛けるなら必ず声をかけていくから。けれど、あまりにも見つからないと不安になってくる。あの娘が俺を置いていなくなるなんてこと、あり得ないってわかっているのに、それでも胸がざわつくのはどうしようもなくて。
「どこに行ったの」
呟いて窓の外を見る。洗濯物がはためいている。もしかして?
外に出て物干しの方を見に行くと、いた。
乾いたシーツの山に埋もれて眠っていた。珍しく尻尾が出ているけれど、くったりとシーツに埋もれている。
どうしたものか。外は別に寒くないし、日も当たっているから風邪をひくってことはなさそうだけど。俺の用事だって別に急ぐわけじゃない。気分転換を兼ねて好きな娘の顔を見に来ただけだ。
「……」
横に座って顔を覗き込む。すうすうと寝息を立てて寝ている。
顔を寄せて口付けても寝ている。疲れているのかな。最近はそんなに忙しくはさせてないと思うけど。
でも確かに庭は気持ちが良かった。日差しが穏やかに降り注いで、風はなく洗濯物がはためいている。シーツは柔らかくて温かくていい匂いがして、そりゃ埋もれたら気持ちが良いだろう。
もう一度口付けて、横に寝転がる。思ったよりずっと気持ち良かった。彼女が小さく唸ったあと、すり寄ってきて――すごく可愛い。
「おやすみ」
そっと目を閉じる。洗いたてのシーツと横で眠る彼女の匂いを目一杯に吸い込む。
「メフィスト様! メフィスト様、起きてください!!」
「んー」
揺すられて起きたら日が傾いていた。どれだけ寝てしまったのやら。
「ごめんなさい、つい寝てしまって」
「いいよ。俺も起こさなかったし」
顔を見合わせて、ちょっと笑ってから起き上がる。別にいいんだ。こんな日があったって。