12/10揃いのドレスで腕を組んで「じゃあ、こっからここまで着てみてね♡」
「あの、ドレスは不要なので」
「着てみてね♡」
「ぐう」
俺のかわいい秘書に貴族会用のドレスとスーツを買いに来た。午前中に俺のスーツを選んだので、次はこの娘の分である。
……午前中は大変だった。仕立屋に入るなり彼女はめちゃくちゃにテンションを上げて、危うく店内の服を全て着させられるところだった。なんとか回避したものの彼女はなかなか粘り強くて、店員と生地やスーツの形や生地について話し込んでしまい、注文書の長さにちょっと引いた。
そして昼を挟んで俺のターンである。目星をつけておいた女性向けの仕立屋に行き、こちらは事前に何着か用意させておいたのでそれを着てもらう。
彼女は俺に甘いので笑顔で頼めばだいたいのことはやってくれるのだ。
「着ていく場所ないですよ」
なんて言いながらも深い緑のドレスの裾を踏まないようにと恐る恐る試着室から出てくる。
「うん、似合ってる」
「……メフィスト様のお選びになったスーツと同じ色ですね」
「それで一緒に貴族会出てほしいんだけど」
「私は招待されてませんからね」
困ったように笑って彼女は次のドレスを試着しに行く。それを見送ってから俺は懐に手を入れて待つ。
「いかがでしょうか」
「かわいいけど、外に出したくなくなっちゃうからダメかな」
笑って言うと彼女は呆れたように微笑んでから試着室へと戻る。そういうことを何度か繰り返して、結局最初のドレスが一番良かったのでまた着てもらった。
「こちらを、レディ」
黒い招待状をハンカチに乗せて渡す。彼女は目をパチパチと瞬いて招待状に手を伸ばした。
「……大貴族会の招待状?」
「預かってたから、渡しておくね」
「これ……アムリリス様から、なんですか」
「そ。今年の主催だそうだ。君も一緒においでってさ。また俺にエスコートさせてよ」
まだポカンとしたまま、彼女は招待状とハンカチを受け取ってくれた。突っ返されるとは思っていないけど、それでも受け取ってもらえたのはすごく嬉しいし安心する。
「それは、はい。よろしくお願いします」
「じゃあドレスはそれにしよう。次に付き人用のスーツも選ばないとね」
店員にスーツを用意させて、そちらも試着してもらう。こちらは選択肢も自由度もそんなにないので、あっという間に決まった。
「帰ろうか」
「……はい」
疲れた顔の彼女の手を引いて家路につく。
「大貴族会、出るのは嫌?」
「嫌ではないです。ないですけど驚きました。それにドレスを着るのはだいぶ久しぶりなので、ちょっと気が引けちゃって」
「どれも似合ってたよ。俺の側から離れないでね」
「もちろん」
君は気付いていないかもしれないけれど、公の場に君をパートナーとしてエスコート出来ることを俺は結構楽しみにしてるんだよ。だって、この娘は俺のだよって言いふらすみたいなものだからね。