2/8特別なのは俺だけでいい その日、俺の秘書がバビルスに研修報告に行っていたので夕方に迎えに行った。
パトラ室を出たと連絡が来たので校門へ向かうと、彼女がこちらに向かってくるのが見えたので手を振る。
けど彼女が走り出そうとした途端に、横から制服姿の男悪魔が彼女に声をかけた。
その男の熱のこもった眼差しと、彼女の困惑の顔、そして伸ばされた手で用件を察する。
即座に彼女の元へ向かい後ろから抱きすくめた。
「帰ろ」
「メフィスト様!」
彼女がこちらを向いて嬉しそうにする。男悪魔は明らかな敵愾心をこちらに向ける。
「誰だよ!?」
「俺? この子のダーリンですけど。君こそ、この娘のなんなの」
「お、おれは」
「去年同じクラスだったヒトです」
「そっか、じゃあ知らないヒトだね。帰ろ」
「はい! じゃあ私は帰るので」
彼女を離して指を絡めて歩き出す。対応次第ではどうにかしてやろうかと思ったけど、彼女の発言で撃沈していたので、放っておいて帰ることにする。
帰宅してから玄関で改めて彼女を抱きしめた。
「何を言われたの」
「さっきのですか? 付き合ってくれって言われました」
「うん」
「何に? って聞いたらメフィスト様がいらして」
「……うん?」
「でも今気付いたのですが、三年からクラス替えをしていないから、去年どころか四年前から今年も同じクラスでした。学校に行かないから、クラスメイトが誰か全然わかんないですね」
腕の中でそう彼女は首を傾げている。どうやら気を揉む必要はどこにもなかったらしい。
「助け、いらなかった?」
「あれ、助けだったんですか? いりましたよ。メフィスト様がすぐそこにいるのに話しかけられて迷惑でしたから」
「そっか」
「着替えてきます」
もうちょっと抱きしめていたかったけれど、彼女はさっさと行ってしまった。
どうやら本気で先ほどのことを気に留めていないらしい。告白だとも思ってないようだし。
「そう考えたら、俺のこと好きって言うのはものすごく特別なのでは?」
そう思うのは、たぶん自惚れではないのだろう。