12/9あなたに似合わない服などない「メフィスト様」
「だめ」
「ちょ、ちょっとだけ」
「絶対にちょっとじゃ済まないから、だめ」
「〜〜〜」
「そんな顔しても、だめ」
何を拒否されていのかと言えば、貴族会に着ていくスーツの試着である。
仕立ての良い店に来て、何着か試していただこうと思ったものの、どれを着たってメフィスト様ならカッコイイので私が選べなくなった。ので、端から端まで試着してもらおうとして拒否されている次第である。
「そんな時間はないし、年末年始の貴族会、大貴族会で着る分だけだから精々五着もあれば十分。君に着せる分も選ばないといけないし、そんなに着る必要ないよ」
「ぶー」
不貞腐れてみせたら笑いながら鼻を摘まれた。完全に子供扱い! そしてメフィスト様は非情にも店員さんに、
「適当に持ってきて」
と言い放った。遺憾!!誠に遺憾!! 私が憤慨していると店員さんはあっという間に何着か持ってきて、メフィスト様は試着室へと行ってしまう。
「よろしければ今のうちに試されたい品をお選びください」
「えっ、いいんですか」
「お着替えなさっているうちに、どうぞ」
や、やった!!! めちゃくちゃ親切な店員さんに頭を下げてスーツを選ぶ。実際にはそのスーツをメフィスト様に合わせて仕立てるので生地や形を多少変えることも出来る。つまり自由度が高い。ヤバイな、無限にいられる。問題はメフィスト様が付き合ってくれないことだ。
「そしたら、これとこれを。こっち、ウエスト絞れますか」
「可能でございます。生地はいかがなさいますか。時期的に厚手のものにしておりますが、ボディラインを美しく見せるのであれば薄手のこちらをですね」
「お着替えがそろそろ終わりでございます」
「わ、そしたら試着してもらってから生地は考えます!」
店員さんとわあわあやっている内にメフィスト様が出てきた。急いで戻ると、シュッとしたイケメンが待ち構えていて、えっ、このイケメン誰???ってなる。
「どうかな」
「恐れ多いですね」
「またバカ言ってる。俺が選んだら次は君だよ? 同じくらい着てもらうからね」
「……」
「まさか、俺の後ろに控えるのにお仕着せのスーツなんか着るつもり?」
ぐうの音も出ねえ。後ろで店員さんたちが生暖かい笑みを浮かべているのが見なくてもわかる。
「――承知しました。今のお姿は素敵ですが……もう少しクラシカルなデザインの方がお似合いかと。こちらのお品は最新のデザインですよね。若い貴族と被ります」
「最初からそうやって落ち着いて選んでくれればいいのに」
メフィスト様の苦笑いを聞き流して、私は次の品を渡した。
「ですので、こちらのフロックコートをお願いします。ウエスト周りは弛いかもしれませんが、肩周りはぴったりのはずです」
「はあい。楽しみにしててね」
戦いは始まったばかりである。まあ、私にお任せなさいよ。メフィスト様を!一番カッコよく見せるスーツを選んでみせる!!
(半日後に同じセリフをメフィスト様に言われる。私のはなんでもいいよ!)