12/16一番キラキラ「イルミネーションですか」
「うん。もうすぐ13月だからね。年末年始に向けて街中飾り付けてあるんだよ」
「へー」
私は目の下を真っ黒にして相槌を打った。逆に言えば相槌しか打たなかった。今めちゃくそに忙しいからである。
まず貴族会がある。今週半ばと週末にある。そのあと来週半ばに大貴族会がある。なんならその後にも2回ほど貴族会がある。それぞれの参加者を暗記して挨拶した方がいい悪魔を確認する。新人13冠のメフィスト様にはたぶんひっきりなしに挨拶がされるので、私はそれを把握しておかなくてはいけない。
次に年末なので各所からのトラブル対応に追われている。統治者として助けを求められたり、仲裁を頼まれたりしている。出向かないといけないものは少ないけれど、それでも人間界の言葉で言う大岡裁き的な対処が求められるので内容を端的にまとめてメフィスト様に方針を決めてもらい、それを私が手紙に書いて返信している。
あとは各地のお貴族様からのご招待がある。各家での年末年始のパーティに13冠を招いて箔を付けたいわけですね。そちらは定型文で丁寧にお祈り申し上げるわけだけど、数が多くて腕が痛い。
そして私はハウスキーパーもしているので大掃除もせねばならぬ。年末年始向けの当社比で豪華な食事の仕込みや買い出しのことも考えたい。つまりハチャメチャ忙しい。
なのでメフィスト様の浮かれた季節の話題にかわゆく反応できないでいる。申し訳ねえな。今忙しいんだ。
「見に行こうよ、イルミネーション」
「んえ」
「忙しいけどさ。息抜きしよ。根詰めすぎて、ここの文字間違えてるし、前の手紙でも同じとこ間違えていたよ」
「お、教えてくださいよう」
「いつまで間違え続けるか見てたんだよ。10回超えたから止めたの」
なんだその趣味の悪い遊びは。私がムスッと見上げるとメフィスト様はニコニコしてこちらを見る。
「……承知しました。行きましょう、イルミネーション」
「やった。じゃあ行こう」
「えっ、今からですか?」
「もちろん。はい上着着てー」
ペンも書きかけの手紙も放り出してメフィスト様は私の手を引いて立たせる。
問答無用で連れて行かれた先はデビモールだった。平日とは言え夕方なので混んでいる。
「屋上のイルミネーションがすごいらしいよ。ナルニアくんが言ってた」
「へえ」
どういう経緯でナルニア様からそれを聞いたのかが気になるけど今は置いておこう。
「わ、ほんとだ、すごい!すごい!!」
屋上のイルミネーションは確かに凄かった。屋上一面がキラキラに輝いている。
「行ってみようか」
メフィスト様に手を引かれてイルミネーションへと向かう。上側に星空みたいなイルミネーションが広がっていて、足元は花畑みたいなイルミネーションが通路になっている。
周りには同じようなカップルや家族連れ、友達グループなんかがたくさんいて、みんな楽しそうに盛り上がっていた。
「わー、すごいですね。あっちもこっちもキラキラで綺麗です」
「君の方が綺麗だよって言ったほうがいい?」
「言わなくていいです」
そう答えると笑われた。
「メフィスト様、メフィスト様」
「うん、なあに」
「連れてきてくださって、ありがとうございます」
「気分転換になった?」
「はい!」
メフィスト様は良かったと微笑んだ。
「イルミネーションよりメフィスト様の方がキラキラしてますね」
「えっ、そっちは言うの?」
メフィスト様が目を丸くしたので私は吹き出した。