12/17頭から爪の先まで私の色で染める「ふんふふーん」
私はメフィスト邸の衣装部屋で鼻歌を歌いながら小躍りしていた。何故なら明日は貴族会! 貴族会そのものは別にぜーんぜん楽しくも楽しみでもないけど、メフィスト様に仕立てたばかりのスーツを着ていただけるのだ!!! やったあ!!
しかも私は付き添いで行くだけなので、目立たないスーツを着て(それでもメフィスト様が選んだちゃんと仕立てたものだし、さり気なくお揃いなのだけど)、大人しくしていれば良い。わー、楽ちん!
とは言え参加予定の貴族の方々は一通り顔と名前は確認してあるし、それぞれの派閥とか最近の動向なんかもそれなりに調べてある。メフィスト様が挨拶をされたときに、どんな思惑を持ってどんな話をしてくるのか私の方で気にしなくてはいけないし、メフィスト様にも共有してある。
貴族会そのものは知略謀略渦巻く、まあぜーんぜん楽しくない煮凝りでしかない。だから楽しみと言えば、顔のイイ我が主を着飾らせるくらいしかないのだ。(主催者によってはごはんがめちゃくちゃ美味しいこともあるけど、付き添いなのでそんなにもりもりは食べられない……)
「スーツはこっち〜シャツどうしよっかな〜ネクタイこれにしたいからな〜靴はこれ〜♪」
「楽しそうだね」
「めちゃくちゃ楽しいです!!!」
「……何よりだよ」
うっきうきで返事をしたのに引かれた。メフィスト様は衣装部屋の入り口で中を見るだけで入ってこない。
「いかがなさいましたか?」
「通りがかったら歌ってるのが聞こえたから珍しいなと思って覗いたんだけど、いつも通りだった」
「そうですか? ところでメフィスト様、このワイシャツ着てみてもらっていいですか? どちらにするか決まらなくて」
「こっち」
「えー、着てくださいよ」
「長くなるから嫌」
「……」
ひどい。バッサリである。私が口をへの字にしたらめちゃくちゃ笑うし。ひどい!!
「そんなかわいい顔してもダメ。まだやることがあるしね。君も俺の服を選ぶ以外にもやることがあるでしょうが」
「やることはありますけど、メフィスト様のスーツを選ぶより大事なことはないですね」
「はいはい。バカ言ってないで仕事をしてね」
「うへえ」
魔術で散らかしていたスーツを片付けられた。ああん、まだ悩みたかったのに!!
そのまま手を引っ張られて書斎まで連れて行かれた。
「はい、さっき届いていた手紙。こっちはベリアール様から届いたお仕事の詳細」
「うへえ」
どちらもなかなかの量で泣きたくなる。今日は一日衣装部屋に篭もろうと思ったのに!! メフィスト様がめっちゃ笑顔でこちらを見ているので、いーっとしてから手紙を開けていく。