12/18俺の手は一人専用 はい、と言うわけで貴族会です。私はメフィスト様の斜め後ろについてメフィスト様が受け取った名刺を回収したり、話しかけてきた貴族について耳打ちしたりしている。
時折綺麗なお姉さんがメフィスト様をダンスに誘うけど、メフィスト様は毎回適当に断っていた。
「先程のお嬢様は踊っておいて損はないと思いますけど」
「あるから踊らない」
損があるのか……。まあ私としてはメフィスト様が他の女性と踊るのは全然、ぜーんぜん! 面白くないので、踊らないでもらって大丈夫です。
そうやって私とヒソヒソとしている間にも北部の有名な貴族の男性が話しかけてきた。美しいお嬢さんを連れていて、良ければ踊ってやってほしいとか言っている。
「手前味噌ではありますが、なかなか踊りの上手い娘ですので貴族会デビューに一つお願いできませんかな」
「せっかくのデビューであれば私よりもずっとお嬢様にお似合いの方がいらっしゃいますよ」
相手は粘るけど、メフィスト様も引かなかった。困ったなーと思っていたら視線を感じたので振り返ると、知った顔がいた。相手に目配せをしてからメフィスト様の腕を引く。
「ご無沙汰しております、メフィスト様。本日は母の名代で参りました」
「や、久しぶり。アスモデウスくん」
目配せに気付いて対応してくれたアスモデウスくんに、私はメフィスト様の後ろから頭を下げる。アスモデウスくんはにこやかにメフィスト様と、隣りにいた北部のお貴族様と話し始めた。ありがてえ。
その後他の貴族がメフィスト様に挨拶に来て、なんとなく場が解散になる。
「ごめん、ありがとう。助かりました」
「いえ、お役に立ててなによりです」
「お礼に今度イフリート先生との手合わせの時にアスモデウスくんもおいでよ。心臓破りの話、先生に聞いたんだ」
「それ、私にメリットあります?」
少し面倒くさそうな顔をするアスモデウスくんに私はニヤーっと笑った。
「私ランク7だし、イフリート先生と手合わせしたら1時間はいけるよ」
「……お強いのですね」
「伊達に13冠二人の秘書してないし、SD講座で護衛とか警護術も受けてるからアスモデウスくんもやって損ないよ」
「胸をお借りしたく」
「今度学校行ったら声かけるね」
アスモデウスくんはぺこっと頭を下げて他の方へ挨拶に行った。私もメフィスト様の元へと戻る。
「浮気だ」
メフィスト様はいつの間にか手にしたグラスを傾けて、ちょっと機嫌が悪そうにしている。ほんの、ちょっとだけ。
「ち、違いますよ! 先程助けてもらったからお礼に学校で手合わせする約束してたんです」
「……別によかったのに」
「あのまま揉められたら困ります。今日はどうあっても踊らないおつもりで?」
私は空になったグラスを受け取りボーイに返す。コポ、と魔術が発動する音がしてメフィスト様の口元から私にしか聞こえない音がする。
『君以外と踊れと?』
『こういう場で踊るのもお仕事の内ですよ』
『ヤダ』
『……であれば、上手くお断りください』
『だから君が呼ばれていない貴族会には来たくなかったんだよ』
ワガママを言う新米13冠に飲み物と食べ物を渡しつつ、私は苦笑してみせた。
「有力な方々とは軒並挨拶を済ませましたし、時間的にもそろそろたけなわです。お帰りになってもよろしいかと」
「そうする」
主催の方に挨拶をしてメフィスト様と私は会場を出た。外は少し寒いけど、会場内が暑かったからちょうどいい。
ネクタイを弛めながらメフィスト様は羽を出してふわっと微笑んだ。
「レディ、俺と踊ってくださいますか」
「よろこんで、ジェントル」
羽を出してふわりと浮かぶ。手に手をとって、くるりと踊りながら家路を目指す。