12/21なんでこのヒトたちすぐ喧嘩するん? コポっと小さく泡が立つ。隣りに立つ我が主が正面を向いたまま、斜め後ろに控える私には盗聴防止魔術を使いながら話しかける。
『この貴族は?』
『挨拶程度でかまいません。ご子息をメフィスト様に会わせたいらしく』
『あちらのお嬢さんは?』
『話を聞く価値があるかと。商家の女主人でいらっしゃいますが、少し前から大掛かりな商いの用意をされているそうで』
なにをしているかと言えば貴族会である。メフィスト様の側に控えて、挨拶をしてくる貴族たちの情報を伝えている。私たちはほとんど口を動かさず傍目には笑顔で挨拶を受ける新しく若い13冠の青年と、側仕えのSDにしか見えないはずだ。
……そう見えるように頑張っております。なにが怖いって、メフィスト様が私への問いかけと、挨拶への返事を同時にこなしていることだ。どうやって同時に発音してるのかちっともわからん。
「さすがに喉乾いた」
「こちらを」
挨拶が途切れたタイミングで受け取っておいた飲み物を渡す。
「君は?」
「ノンアルコールの飲み物が見当たらないのでやめておきます」
「帰り際に少しなら飲んでいいよ。明日は休みだし。連れて帰るし」
「では、そのように」
私はアルコールに弱い。すぐ酔っ払ってバカみたいに絡むから飲みたくないのだ。メフィスト様からも危なっかしいので飲まないように言われている。
「なにか食べる?」
「やめておきましょう」
私はメフィスト様から視線を外して、こちらへ向かってくる男性に笑顔を向けた。メフィスト様も気付いて振り向く。
「こんにちは、フェンリルくん」
「こんにちは、メフィスト様。良い夜ですね」
「一人?」
「アメリお嬢様の護衛です。虫がつかぬようにと」
言いながらフェンリル様は私に目を向けた。笑顔で会釈をしてメフィスト様の後ろへ下がる。
「おや、怖がられちまいました?」
「どうかな。この娘は俺以外の視線は受け付けないから」
「……ずいぶん可愛がってるんですね」
「そりゃもう。君もまた引っ叩かれたくないだろう?」
私はメフィスト様の後ろで、やめな???って思っている。どっちもやめな? 私を喧嘩の原因にするのやめてね???
フェンリル様はメフィスト様の怒るラインを探らないで欲しいし、メフィスト様は当て擦るんじゃないよ。
『メフィスト様。まだ挨拶の済んでいない方がいらっしゃいますので』
『……そだね』
「フェンリルくん。俺はまだ仕事があるから失礼するよ。アザゼル様によろしく」
「承りました。こちらこそ失礼します」
フェンリル様はバチンと私にウィンクをして去って行った。
「あれ、叩いてきていい?」
「おやめください。触れるならフェンリル様の頬より、私の方が柔らかくて触り心地いいですよ?」
「どこでそんな口説き方覚えたの……?」
刺さりすぎて帰りたくなるから止めて……と寝言を言うメフィスト様を挨拶回りに復帰させて、なんとか一通りを済ませて会場を出た。
「おさけ、飲みそこねました」
「そうだったね。でも疲れちゃったし、早く帰りたい」
「そうしましょう」
パタパタと飛んで家路を急ぐ。次は大貴族会。なんもないといいなあ。なんもないことないんだろうなあ。