12/23盤外の指し手として育成され中「チェスできる?」
「できないです」
我が主の質問に私はにべもなく答えた。チェスは出来ないんすわ。しかしメフィスト様はニコーっと笑って、じゃあ教えてあげるね♡と逆に嬉しそうにしている。
「メフィスト様」
「うん?」
「先にこちらを」
私は手に持っていた書類の山を机に積んだ。メフィスト様の笑顔がすんっと引っ込む。そもそも何をしていたかと言えば大掃除である。本棚や書棚、机の中の紙類を全部出してきて、要る要らないをしている。
今メフィスト様の目の前に積んだ分は中身を確認して年内に返事を出す必要があるものだ。要らないものは先程からまとめて焼却炉へと往復している。
「適当に返してもらっていいよ」
「適当に返せるものはこちらに積んでおります。その山はメフィスト様に返していただく必要のあるもののみですよ」
メフィスト様は唇を尖らせながら溜息を吐いて羽ペンを手に取った。往生際が悪くてウケるけど、とにかく取り掛かっていただけたのならそれで良い。
「メフィスト様、3時までにその山を片付け終えたらチェスしましょう。コーヒーとオヤツもつけます」
「……君は俺に飴を用意するのがうまいよね」
「ただの慣れですよ」
淡々と言って、書類の仕分けに戻る。たまに昔の……ドクフェル様時代の書類とか出てきて引いたりする。それはそれで時代別に仕分けしていく。
「終わった!!」
メフィスト様の歓声が聞こえたのでコーヒーを持っていく。書類とコーヒーを交換して私は書類を提出に行かねばならぬ。
「チェスしよ。そういう約束だよ」
「お付き合いいたしますが、私ルールわからないですよ。あとこちら提出に参りますので1時間でお願いします」
「わかった。じゃあ駒の動きからね」
机を挟んで向かい合う。メフィスト様のスラリと長い指が駒を動かす。手が大きくて指もスラリとしているけどそれなりに太い。好き。
「こんな感じ。あとはやってみて、だね」
「いきなり対戦できるものです?」
「ゆっくりやってみようか。気に入ったのなら詰めチェスとかチェスプロブレとかやってみてもいいし」
ふうん、と私は頷いて時間を確認する。まだ大丈夫。息抜きに付き合うくらいは全然するし、この手のボードゲームは嫌いではない。言うと付き合わされるから言わないだけで魔将棋と魔ンカラはできる。カードゲームも全般いける。
「んー、こっちかな」
「はい」
「むう」
まあ、初心者も初心者なので普通に負けるんですけどね。メフィスト様は楽しそうにあれこれ解説している。
「楽しそうでなによりです」
「教える……というか、育てるのが好きなんだよ」
知ってるけども。育てられておりますけども。
「頑張って俺より強くなってね」
「それは難しいのでは」
「君は俺の好きな娘だけど、同時に秘書だから考え方が近いほうが助かる」
それはそう。……そうだけど、自分がキングメーカー的思考を出来る気がしない。メフィスト様は私を見てニコニコしている。
これは、あれだ。私はまた育てられそうになっている。