12/25我が主は私の言うことなど聞きやしない「お手を、レディ」
「よろしくお願いします、ジェントル」
顔のイイ我が主ことメフィスト様に手を取られ、大貴族会の会場へと入る。今回は仮面舞踏会ではないので、さすがの新13冠。注目のされ方が違う。
そしてお嬢様方の視線が隣りにいる私にも刺さる刺さる。こんな田舎貴族が横にいて申し訳ねえので下がりたいけど、メフィスト様が私の腰をがっちり押さえているし、アムリリス様に挨拶もせねばならないので下がれない。
「とりあえず主催に挨拶に行こうか」
「承知しました」
「もうちょっとパートナーっぽく言って」
「えー? んー、参りましょう?」
「……まあ、いいか」
不服そうですね??? ともかくアムリリス様の元へと向かう。
「こんばんは、アムリリス様。お招きいただきありがとうございます」
「あら、いらしてくれて嬉しいわ。あまり肩肘張らずに楽しんでね♡」
「ありがとうございます」
アムリリス様が私の耳にこそっと口を寄せた。めちゃくちゃいい匂いがする。変な扉が開きそう。
「……あなたのナイトはずいぶん過保護だから大丈夫そうね♡」
「そう見えますか」
「ええ♡先程からあなた宛の視線をぜ〜んぶ遮っていてよ♡」
「私の役目なんですけども」
「今夜は甘えたらよろしくてよ♡では、またねん♡」
アムリリス様は美しく微笑んで去って行った。
私とメフィスト様も他の方への挨拶があるけど、新13冠ともなれば向こうから来るので開けた場所で待っていればいい。
しばらくするとアムリリス様の挨拶があり、楽団の演奏が始まった。メフィスト様に手を引かれる。
「あの、メフィスト様!」
見覚えのあるご令嬢がメフィスト様の前にいらした。誰だっけ……。あれだ、先日の貴族会で北部の貴族のヒトが連れてらしたお嬢さんだ。……あの時もメフィスト様と踊ろうとして断られていた。
「一曲目を私と踊ってくださいませんか?」
「パートナーがいるから」
「その女はSDではありませんか。メフィスト様に相応しくありませんわ」
メフィスト様が一瞬でピリッとする。こんなとこで言い合うの止めな? と、メフィスト様の手を引くけどピクリともしない。
「この娘が俺のパートナーに相応しくない?」
「当然です! だって」
「メフィスト様」
私はメフィスト様の背中に手を当てる。ここで喧嘩いくないと目配せをして首を振る。メフィスト様はニコーっと笑顔になった。あっ、わかってないやつだ!
「この娘に怒られちゃうから、止めておくけど、俺、そんなに柔和じゃないからさ」
とぷんと、音が沈んだ。メフィスト様の唇が動き、ご令嬢の顔が青くなり、そして走り去る。
「じゃ、行こうか」
「めーふぃーすーとーさーまー?」
「なあに?」
「喧嘩を!するなと!」
「ヤダ」
「やだ!?」
メフィスト様は笑顔で私の手を引く。タンとステップを踏みついていく。
「俺のかわいい娘を貶されて黙っていろと?」
「そういう問題では!」
「さ、踊ろう。踊ってご馳走食べて帰ろ。ちょっとだったら飲んでもいいから」
誤魔化された! まあこんなところで言い合うのも不毛だから……まあ……いいか?
私はメフィスト様に甘くてチョロいので軽々と流された。