12/28手腕と用途 年内最後の貴族会。こぽっと音を沈ませて盗聴防止の魔術が発動する。後ろに控えるかわいい秘書に確認を取る。
『これで一通りかな』
『いえ、もう一方、挨拶が必要な方が』
『……帰ろう』
「よお、久しいな。盤外の」
秘書の後ろからぬっと出てきたのは雷帝……英雄バールだった。俺のかわいい娘は元々こいつの秘書だったから会わせたくなかったのだけど。
「どうも、お久しぶりです。バール様」
「ご無沙汰しております」
秘書を後ろに下げようとすると、バールが彼女と俺の間に立った。どうしてくれようと思うけど、彼女が止めろと目配せするので一旦止める。
「俺の手から離れて、ずいぶんよろしくやってるようじゃねえか」
「……バール様のお噂についてもかねがね聞いております」
彼女はしらっと答えた。けどその後辺りをキョロキョロ見回してから口元に手を当てる。バールが屈んで耳を寄せた。……なんでぶち抜いちゃダメなのかな。
イラッとした次の瞬間、バールがめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。英雄が人前でしちゃダメな顔だ。
「おっまえ、久しぶりに会って聞くことがそれか!?」
「いやだって、めちゃくちゃ気になってたんですよ。バールく、バール様横暴だから女の子口説くとかできるんかなって。でもシュラ姫がぐいぐいいくタイプとも聞いたので、これは?つって気になってたんです。良いですよね、異種族と体格差」
好奇心と野次馬心しかない顔で彼女は微笑んだ。違った。ピッカピカの笑顔だ。そういえばこの娘、割とミーハーなんだよな……。
「……まあ、よろしくやってるけどよお。向こうの立場もあるから、せいぜい茶会止まりだな」
「へー、まあそうかー。王族と貴族だと、そうだよね。グイグイ来る?」
「来る……。が、王族なりに、だな」
完全に雑談の体勢の彼女をどうやってバールから引き剥がそうか考えていると、苦々しい顔のバールと目が合う。
「これが、こいつの正しい使い方だ」
「は」
「こいつは今、好奇心しかない顔で13冠全員が知りたかった魔神の姫君の動向を聞き出したぞ。俺がこいつを鳥籠に入れなかった理由だ」
……そういえば、前にもこの娘はオペラさんと悪魔学校の番犬からイルマくんと問題児たちの情報をスルッと聞き出してきた。
「お前みたいに囲いたい気持ちもわかるが……野望があるなら、こいつの使い方は考えるんだな」
「相変わらずバール様は悪魔使いが荒いですね」
ムスッとした顔で彼女はバールを睨む。そういう使い方をされていた自覚はあるのだろうか。
「使えるものは擦り切れるまで使う主義だ。そこの甘っちょろい盤外王と違ってな。お前は擦り切れてないんだから、むしろ甘やかされてると思えよ 」
「ブラック!あまりに発想がブラック!」
「ふん、なんとでも言え」
「……帰ろうか」
「はい!」
声をかけると、彼女はニコッと顔をこちらに向けた。
「失礼しますよ、英雄バール」
「さっさと行っちまえ。ああ、それは置いていって構わねえぜ?」
「ご冗談を」
するりとバールの横を抜けて彼女は俺の後ろへと戻る。収穫はあったけど、その収穫の扱いはまだ決めかねている。
会場を出ると彼女は何でもない顔で付いてくる。それが救いだった。