12/31生涯イチ推し私の主「ひゃー! くろむちゃん、かんわいーー!!!」
「そだね」
「あーん、イルミちゃんとリンディちゃんのかわいさったら!! 推せる!」
「そ、だね?」
「んぎゃっ、ギャリーちゃんかっこよ!!!!」
「……」
年末である。私はメフィスト邸の大きいテレビの前で元気にペンラを振り回していた。テレビはアクドル武闘会を映していて、この世のキャワイイが詰まっている。うちわも用意すれば良かった。来年に向けて作っておこう。
「そんなにアクドル好きだっけ?」
「や、そこまででは。くろむちゃんは好きですけど、アクドル好き!ってほどではないです」
「その割にテンション高いけど」
「……最近、かわいいに飢えているんです」
そう、私の周りにかわいいがない。基本的にメフィスト様に侍っているので、関わるのがメフィスト様とその他有象無象である。挨拶に来る貴族(ほぼおじさん)とか、バベルで会う偉い悪魔(だいたいおじさん)くらい。私の生活圏内にいるかわいいはバチコちゃんと、ごく稀に遭遇するアムリリス様、パイモン様くらいだ。バチコちゃんやパイモン様を流石にキャワイイキャワイイと撫でくりまわしたり出来ない。
月一で学校に行っても研修の報告をしに行ってるので会うのは担任のイフリート先生と師団顧問のダリ先生くらい。クラスメイトには会えないし、師団も男の子多めだからその中で一番かわいいのはガルゥくんという有り様だ。
「なので、たまに摂取できるキャワイイを全力で摂取してました。すみません、うるさかったですね」
「や、いいんだけど。……なんか可哀想になってきた。次転生するときは女の子の方がいい?」
「は? 嫌ですけど?」
何を言ってるんだ、この主は。私の低い声にメフィスト様はきょとんとする。
「メフィスト様は、今が最高なのでそのままでお願いします。その顔も! 太い首や腕や太ももも! 胸板や腹筋、腹斜筋からの広背筋も! 今が最高なんです!!!」
「……そっか」
おっかしいな、めちゃくちゃ褒めたつもりなのに、メフィスト様はあまり嬉しそうではない。なぜだ……。
「ほら、あんまりアクドルにキャアキャア言われると、俺としてもちょっと妬けちゃうと言うか」
「そういうものですか?」
「そういうものなんだよ」
ほんのり恥ずかしそうに目を逸らすメフィスト様は間違いなくかわいかった。アクドル目指せるかもしらん。もちろん許さない。
「……今度、メフィスト様応援用のうちわ作りますね」
「それはいいや」
即答されて、思わず吹き出した。