1/7問屋は降ろすタイミングが重要なんですよ「今年も何卒ご贔屓に」
「こちらこそ、良い関係を続けられればと」
「13冠メフィスト様のご多幸をお祈り申し上げます」
「ありがとう、今年もよろしく」
さて1月である。とくれば、13冠メフィスト様のところには地域内の貴族や有力な家系の悪魔たちが家に挨拶に来る。そういう悪魔達に愛想よくするのも13冠の仕事の一つなので頑張って頂きたい。
秘書である私はメフィスト様の後ろに控えて、時折盗聴防止魔術を使いながらやってきた悪魔たちの情報や次に来る悪魔のことを伝えている。
『まだ来る?』
こぽっと音が沈んでメフィスト様が聞く。
『あと3組、お約束がございます』
『多い!』
『それが終われば一息つけますから』
メフィスト様は肩を竦めているけど、それも私にわかる程度で表向きには愛想よく穏やかな笑みを絶やさない。
その間にも挨拶を受けて、ようやくメフィスト様は開放された。
「お疲れ様でございました」
「疲れた。これで終わり?」
「本日分は以上でございます」
「本日分は、かあ」
苦笑するメフィスト様の手を引いて応接室から出る。家の場所は明かしていなくて、事前に挨拶に来ると打診のあった方にだけ招待状を送ってあるので、不審な輩も予定外の客もそんなにない。
たまにあるけどそこは私の方でなんとかしている。
食堂にて昼ごはんにすると、メフィスト様が午後の予定を確認される。
「明日明後日にいらっしゃる方の確認と、届いた書状の返信、それから13月中に各地で事故やトラブルが多発しているのでそちらの確認ですね」
「行ったほうがいい案件ある?」
「ないです。どれも酔っぱらい同士の喧嘩程度ですので魔関署にて対応済みです」
「そっかあ」
「……次の外出の予定は明々後日の貴族会です。それまでは在宅勤務です」
そう言い切るとメフィスト様はそれはそれは嫌な顔をした。要するに書類と貴族らに囲まれて嫌になったから外に行きたいと言うことだ。
もちろん、そうは問屋が卸さない。なにしろ年末年始分の仕事が山のように溜まっている。
「昨日着てたヒラヒラの給仕服着てくれたら頑張れるんだけど」
「あれ、クリーニング出しちゃったからないですよ」
「もう無理」
「メフィスト様。週末の貴族会が終えたら、翌日は休みですので」
「……」
あと、もうひと押し。
「その日に、昨日の給仕服を着るということでいかがですか」
「頑張ります」
やっと重い腰を上げた主を見送り、私は下げた食器を厨房まで運ぶ。あのヒラヒラ、そんなに気に入ったんだな……。
次に着るときはガーターベルトとロングの手袋も付けよう。たぶん喜ぶ。