1/12いい年(推定1000歳)して食わず嫌いするな! メフィスト様はト魔トが嫌いだ。見かけが気持ち悪くて嫌だ、ということで食べたことはないらしい。典型的な食わず嫌いである。
「ト魔トを使えないのは地味に不便なのよね」
ト魔トは万能野菜なので、サラダにも主菜にも麺類にもスープにも使える。だと言うのに、
「俺、ト魔ト嫌い」
という我が主の一言によってメフィスト邸の食卓には一切上がらない。たまに私がバビルスに顔を出すときに食堂で食べたりする。私はト魔ト嫌いじゃないし、普通に食べるので。
しかもト魔トって見た目の主張が激しいから隠すのが難しい。サラダは論外だし汁が出るから野菜を隠すのに鉄板のハンバーグにも入れられない。
と、くれば残るはカレーだ。それはそれで皮を剥いてからでないとバレるので面倒なのだけれど、しかし主の食わず嫌いを直すためだ。わたくしはSD(非公認)として心を鬼にしてぶち込む所存!!
「そのト魔トどうするの?」
「うげ、メフィスト様。どうしてここに」
ぶち込む前にバレた。
メフィスト様が厨房に顔を出すことなんてほとんどないから油断してた。
「スケジュールの確認に来たんだけど、どうするの、それ」
「カレーに入れようかと」
「えー」
「混ざっちゃえばわかりませんよ」
「そうかもしれないけど、やだ」
やだじゃないんだよ。こどもか!! さて、バレてしまって、ここからどうしたものか。
「わかりました。今日は諦めます」
「今日は?」
「いつか! 食べていただきます!!」
「ト魔ト食べられなくったって困らないでしょう」
半笑いのメフィスト様に私は顔を思いっきりしかめた。
「は? 先日の会食でト魔トをこっそり魔術で消したの知ってるんですよ?」
「えっ、後ろに控えてたよね?」
「視界に入らないくらいで私が気づかないわけないじゃないですか」
「……」
私は気まずそうなメフィスト様の胸を指で突いた。
「貴方様のことで、わたくしが存じ上げないことなどありません。いずれ食べていただきます。貴方様が他所で恥をかかぬよう配慮するのも、わたくしの務めでございます」
「……お手柔らかに、お願いします」
メフィスト様がしおしおと項垂れたので、持っていらした書類の予定を確認して返す。それからト魔トを水で洗った。
「今日の夜ごはんのどこかにト魔トを入れます。頑張ってたべてください」
「わかりました。まったく、敵わないな」
メフィスト様は苦笑して私の額にキスをしてから厨房を出ていった。
ト魔トは普通にカレーに入れたし、メフィスト様は泣き言を言いながらも完食した。その調子で頑張っていただきたい。