1/21風邪を治す特効薬「けほ」
……主が空咳をしている。今日でかれこれ10回目だ。これはいけねえ。
私は可及的速やかに厨房に戻る。雪男大根をサイコロ型に切ってハチミツに漬けておく。それから加湿器出して、マスクも用意して……。
なんて走り回っている内にハチミツ大根飴が出来たのでお湯で割ってメフィスト様のところへ持っていく。
「これは?」
「ハチミツ大根飴お湯割りです。喉の調子がよろしくないようですので」
「目敏いね」
「何度も咳をしてらっしゃいましたよ。加湿もしますから、今日は早めに休まれてくださいませ」
そう言って書斎を出ようとするとメフィスト様に呼び止められた。
「君は大丈夫?」
「今のところは。ですが、あまりに体調が優れないのであれば移らないようにベッドを別けたり」
「ヤダ」
「えー」
返事が早い。そしてめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていらっしゃる。
「俺、一人で寝るの嫌だよ」
「じゃあ悪化させずに治してください」
「うん」
子供かな? 私は母ちゃんかな?
「喉の様子は今はどうですか?」
「たまに引っかかるくらい」
「であれば、大事にすればすぐ治ります。マスクしてくださいね」
マスクを渡そうとしたら、ニコーっとしながら見上げるので着けて差し上げつつ額にキスをする。
「そこじゃないんだけど」
「口にしてほしければ治してください」
そう答えると嬉しそうにされた。なんでだ。この方はたまに怒られると喜ぶ。
それはさておき、ニコニコするメフィスト様を放っておいて加湿器をあちこちに設置したり、パジャマを温かいものにしたりと邸内を走り回る。ついでに自分もハチミツ大根お湯割りを飲んで予防して……あとはなにかあるだろうか。
書斎に戻るとメフィスト様は普通に仕事をしていた。
「思ったんだけど」
「はい」
「寝るときに体が冷えるの良くないから一緒に寝た方がいいと思う」
「……ずっとそんなこと考えてらしたんですか?」
「そんなことじゃないですけど!?」
食って掛かる主に思わず吹き出してしまった。我が主が寂しん坊なのは知っていたけれど、ここまでとは。
「では、早く治されてくださいませ」
そう笑うと、主は気まずそうに目を逸らした。