1/22うちの子がかわいい「今日は寒いのでこちらを」
そう言って秘書(研修中)(かわいい)が差し出したのはマフラーだった。幅広で厚手で、深緑と白と黒のタータンチェックだ。
「……」
受け取ったそれを彼女の首から肩にかけて巻くと、顔が埋もれてすごいかわいい。
思わずキスをしたら顔が赤くなってますますかわいい。どうしよう。家から出したくない。
「あの、メフィスト様?」
「うん」
「ご自身に巻いていただいて」
「……うん」
「私のものもありますので」
彼女が取り出したのは色違いで同じデザインのマフラーだった。
「こっちを俺がしてもいい?」
「構いませんよ」
そう言うとふんわりとマフラーを巻いてくれる。届くように腰を屈めて、それでもちょっと足りなくて背伸びしているのが本当にかわいい。
「……こっちでも有りですね。お似合いです」
「キスはしてくれないの?」
「もう一度屈んでいただけますか?」
屈むと彼女も背を伸ばして爪先立ちになって、それでやっと顔が届く。ふらつかないように腰と頭を抑えると腕が伸びてきて首に絡みつく。
……やっぱり無理。外に出したくないし出たくない。
「出掛けるの止めない?」
顔が離れたタイミングで提案したら笑われた。
「ダメですよ。もうすぐお約束の時間です。参りましょう」
「留守番しててくれない? 急いで行って帰ってくるから」
「構いませんが……。や、やっぱりダメです。私も行きます」
彼女は少し拗ねた顔で言った。珍しい。たまに留守番してもらうけど、そういうときはそういうときで、家事やなんやで忙しくしているのに。
「……今日お会いする方、お綺麗でいらっしゃるので」
「そんなこと気にしてたの」
「するんですよ」
「やっぱり止める?」
「それはダメです。ご一緒します」
頑なな言い方に、俺は思わず笑ってしまった。そんなこと気にしなくたって、余所見なんかしないよ。