2/1吹き飛ばすので、ちょっと待っててください 夜ごはんのあと、風呂から上がって秘書のかわいい娘に風呂を勧めに厨房に行くと、火球をぶっ放そうとしていた。
「待って待って、なにしてるの」
「ちょっと、けしとばそうかと」
「いやいや、何を? 厨房? 家?全部吹っ飛んじゃうから」
「後で直します」
「そういう問題じゃないでしょう」
「あれ」
そう彼女が視線を向けた先にいたのは虫だった。たしかにちょっと大きいけど、摘んで外に放り出せば済むような害虫ですらない虫だ。
「……あの虫に、その厨房どころか家が半壊しそうな火球をぶつけようとしてる?」
「はい。ちょっと無理です」
「いやいやいや、そこで待ってて。火球はしまって」
虫は魔術でパッと外に逃がす。他にいないか周囲の確認もして、たぶん大丈夫。
「はい、もういないよ」
「ほんとですか、仲間がいたりしないですか」
「しません。虫は苦手?」
「はい。すべからく全滅すればいいと思います」
真面目くさってそんな馬鹿なことを言うからつい笑うと彼女はちょっと気まずそうに目を逸らす。
「すみません、メフィスト様。思いがけないところから飛び出してきたので慌てちゃって」
「いいよ。いいけど、今度からは俺を呼んで。慌てて家を半壊させられても困るし」
「……そうします」
よしよしして額にキスをすると、やっと落ち着いた。虫が苦手なんてかわいいところがあるじゃない。それを厨房ごとふっ飛ばそうとするのはこの娘らしいっちゃらしいけど。
「風呂が空いたから行っておいで」
「ありがとうございます。片付きましたら向かいます」
「……片付くまでここにいるよ」
たぶんないと思うけど、また虫が出たらいけないし。そう口にはださずに近くの椅子に腰を下ろした。
細々働くのを見ていたいのと、家を壊されたら困るのと、あとは虫にびっくりするのを見たいのと。どれも気持ちとしては等分くらい。