2/3できるできる「目標は生きて帰ることです」
「……うん。やっぱり俺が運転しようか」
「それじゃあ意味ないじゃないですか」
何かと言えば車の運転である。メフィスト様の秘書をすること早数年の私だけど、私が運転をして移動したことがない。基本的に歩くか飛ぶか、タクシーだ。
けど貴族会や会食なんかだと遅くなったりもするし、良い車で出入りすることで箔がついたりもするので秘書が運転できる方が良い。じゃあなんで今まで運転してこなかったか? 万年ペーパードライバーだからである。免許は持ってる。理論上は運転できるはずなのだ。
というわけで、メフィスト様の13冠の仕事が落ち着いたタイミングで車を借りてきて練習することにしたわけです。
「ドライブに入れてー、アクセル踏んでー」
「ちょ、ま、ゆっくり! そんな勢い良く踏まない!」
「わ、びっくりした。すみません」
よいしょーで踏み込んだらスピードが出てびっくりした。練習に適当な荒野を選んでおいて正解だったなあ。
走り出した車をとりあえず真っ直ぐに走らせる。
「楽しいですねえ」
「うん。車がガッタガタに揺れてるのを気にしなければ楽しいね……」
「大丈夫ですか? 顔色が」
「前! 前を見て!!」
「はあい」
言われたとおりに前を見ると荒野が途切れていて、たぶん断崖絶壁とかそういうあれ。手元の操作パネルから空を走れるモードに変更してアクセルを踏み込む。
「わー、飛びました」
「そうだね」
「大丈夫です?」
「うん。地面から離れて揺れがおさまったから大丈夫」
適当にふわふわ飛びつつ、家の方に向かう。着地もちょっと揺れたけど許容範囲だと思う。メフィスト様はぐったりしているけれど。
「運転はやっぱり俺がします」
「えーダメでしたか」
「ダメって言うか……ダメだけども」
ダメなのか。そこそこ楽しかったのに残念だなあ。
「じゃあまた今度練習しましょう。次はもうちょいマシかもしれません」
「根拠は?」
「回数を重ねたらマシになるものでは?」
「不安しかない……」
車を返しに行くからと運転を変わられた。まだ街なかで運転をさせてもらえるレベルではないらしい。今日一日でレベルアップした気がするのに
いつか私の運転で送り迎えとか出来るようになるといいなあ。