2/22君の過去をなぞる ある日の夕方、秘書が荷物を受け取っていたので手元を覗き込む。
「それは?」
「実家からですね。なんだろうなあ」
彼女は箱を抱えてリビングに運びこむと、適当に開ける。中には紙束? 本? が詰まっている。
「あー、古いアルバムですね。そういえば、なんか連絡がきてました」
彼女がス魔ホをポチポチしている間に、勝手に中のアルバムを取り出す。
パラパラと捲ると小さな女の子がアイスをこぼして泣いている。
「――これ、君?」
「そうです。いつのかなあ」
彼女曰く、実家の大掃除をしたら出てきたから送ってきたと言うことだ。
「これが、たぶん最初かな? まだ羽が出せなくて、尻尾もしまえてないですね」
「かわいい……」
「赤ん坊ならそんなものでは? こっちは近所の公園かな」
「……これ」
なんとなく見覚えのある少年が写っていた。指差すと彼女は頷く。
「バール様ですね。まだサブノック家に行く前の頃です」
「よく会ってたの?」
「さあ? 物心着く前にサブノック家に出てらっしゃるので、わからないです。再開したときも私はわかりませんでしたし」
「向こうは?」
「驚いてましたよ。そりゃあ、羽を羽ばたかせるのもやっとの赤ん坊が、再開したらスカーラを受けに来たら驚くのでは?」
それはそうだけど、なんとなく面白くない。
我ながら、つまらない嫉妬であることはわかっているので黙っておく。
「これはバビルス入学前ですね」
「なんでこんなに機嫌悪そうなの?」
「なんだったかな。全然大したことじゃなくて、スカートの色が気に入らないとかそんなことです。――あ、そうだ、スカートの丈です。せっかくだから短くしたかったのに、父の頭が固くて膝下にしろとかそういうことで揉めたんですよ」
そう言いながらアルバムを捲る彼女を眺める。
黒いスーツにタイトスカート。スカート丈は膝の少し上。黒いストッキングに黒いハイヒール。だいたいいつもこの格好。
「私はフォーマルな格好が好きなんですよ。特に仕事中は」
「うん。俺は君が好きな服を着ていてくれればそれが好きだよ」
彼女はニコッと笑ってアルバムを閉じた。
「ね、そのアルバムもらっていい?」
「かまいませんが」
「だって君、放っておいたら捨てるだろう」
「捨てますけど」
アルバムを回収する。過去の彼女は手に入らなくても、その痕跡くらいはなぞったっていいだろう。