雨も、悪くない 少年は雨の日が嫌いであった。
雨中を歩けば濡れる事は避けられず、鞄にしまった本は心配であるし、外で読書も楽しめない。雨よりは晴れ。18年生きてきた中で変わらぬ価値観であったのだが。
「少年、どうかしたか?」
ざぁざぁと、ベテル日本支部のエントランスホールに響く外の雨の音。
アオガミが検索した結果、一時間以内で止むらしい雨音が途絶えるのをソファに座りながら待っていたふたり。無言で腕を組むアオガミと、読書に耽る少年。しかし、隣に座る半身からの視線に気づいたアオガミが問いかけると、視線がかち合った少年は慌てて首を振るのであった。
「何でも無いよ!」
「読書に集中できていないように見える。雨音が気になるだろうか?」
「そんなことはないよ」
「だが」
少年からの回答が腑に落ちないのであろう。アオガミが言い淀めば、少年は隠す必要もないだろうと手にしていた文庫本を閉じる。戸惑うアオガミには何も告げぬまま、ゆっくりと彼の体に寄りかかるのであった。
「偶には、雨も良いなって」
ざぁざぁと、ふたりきりの空間に響き渡る雨の音。
一時間も残されていない、ふたりきりの時間。
「……そうか」
アオガミからの返答は、ただそれだけ。だが、少年にとっては十分以上のものであった。(このまま、雨が止まなければ)
互いに言えぬ願望を胸中に抱きながら、彼らは雨音の中で身を寄せ合い続けるのであった。