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    chisaorito

    @chisaorito ヴェランをかきます💛💙

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    chisaorito

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    月イチヴェランに参加しました〜!
    第19回お題
    ①旅②リンク③芽生え
    お題全部がほんのちょっとずつ混ざってる感じ⁉️特に③笑

    #月イチヴェラン
    firstThingInTheMonthVelan

    蒼色に導かれ【ヴェラン】 旅に出よう。
     ヴェインがそう思ったのは、副団長執務室の窓から蒼い空を眺めていた時だ。
     いつもより高く見える雲ひとつない空。どこまでも澄みきった蒼い色を眺めていると、広がる空の下に住む人々の中で誰よりも大切な人を思い出す。――まあ、なにも空を見た時だけ思い出すわけではないけれど。
     大切な人は、たったひとりの幼馴染みであるランスロット。
     今は国境付近の村へ騎士団長として視察に出ている。
     彼の碧い瞳は、時間帯や光の加減で空と同じ色に見える時があった。
    「今日の空は、ランちゃんの瞳の色だ」
     だから、余計に思い出すのだろう。
     ランスロットの瞳が空色をしている時、彼は目の前にいる自分ではなく、遠い未来を見ていると感じていた。
     ヴェインの届かない高みで。
     自分はいつでも目の前のことで精一杯だけれど、ランスロットはずっと先のことを見据えている。国の未来を。
     それを突きつけられる色だった。
    「ランちゃんはスゲえな」
     自身よりも第一に『国を守りたい』と考えるランスロットを心から尊敬し、どんなことでも、少しでも彼の役に立って、支えたいと思う。
     ランスロットが命を懸けて守りたいものを、ヴェインも一緒に守りたい。
     しいては、ランスロットを守ることにも繋がる筈だから。
    「でも、そろそろランちゃんには休暇を取ってもらわねえとな!」
     国の存続を脅かす騒動が一件落着した後も、ランスロットはまとまった休みを取っていないのだ。
    「国から離れて、のんびり出来るところに行って……」
     ヴェインはそう思いついて、視察から戻ったらランスロットを説得し、短い旅へ出ようと決めた。
     期間はどのくらいだろうか。二週間が限度だろう。真面目なランスロットが、それ以上の休暇を取るとは思えない。
     幸い、今は大きな式典も会談もない閑散期ともいえる時期だ。後任も育ってきている。この機会を逃せば、また暫くはまとまった休みを取れなくなる。
    「こーんな綺麗な空の下で、ゆっくり過ごして欲しいよな〜」
     ヴェインは窓際へ椅子ごと移動すると、窓枠に肘をついてランスロットを思い出す空を眺めた。
     時間がゆっくり流れているような気がする。
     ランスロットが視察に出て一週間。そろそろ彼が恋しい。
    (離れてるから、時間の流れがゆっくりに感じるのかも~)
     ランスロットは視察先で忙しくしているだろうに。彼が戻ってきたら、労いに好物の濃厚プリンを作ってやろうと考える。
    (久々だよな。ランちゃんに何個かと、ひよこ班にも作って……。あ、厨房を借りるから、厨房の皆と……)
     指を折りながら数えていると睡魔に襲われる。優しい風が頬を撫で、カーテンを揺らした。
    「ふわぁ〜……」
     片付けなければならない書類があるけれど、思いっ切り伸びをした後、窓枠へ凭れたまま眠ってしまった。


    「ヴェイン、空を見ろ! 大きな騎空艇だ!」
     ランスロットが細い腕を空に向けながら、ヴェインを振り返った。ランスロットに言われるまでもなく、丘のてっぺんに辿り着くと、見たこともない大きさで艇の底が見えた。
    「ふわあ~……」
     ゆっくりこちらへ近づいてくるのを、ふたりは口を開けたまま夢中で見つめていた。
     村の外れの湖を越えると、小高い丘があり、小さなヴェインはランスロットに手を引かれ、よく遊びに来ていた。
     今日もふたりは祖母に作ってもらったおやつを手に、丘へ来たのだ。
     丘からソリで草の上を滑り下りる遊びが今の流行りだったけれど、ソリのことはすっかり忘れてしまった。
     空の世界の移動手段は徒歩や馬、馬車など色々あるが、憧れはやはり騎空艇だった。
     幼いふたりはまだ乗ったことがない。
     別の島や、遠くへ行く時に乗るものだから。
     ふたりの住む小さな村に騎空艇の発着場があるはずもなく、大きな騎空艇が村の上を飛ぶのは極稀で、ふたりは飛び上がって喜んだ。
    「すごいね、ランちゃん!」
    「ああ、すごいな! 何処に向かってるんだろう」
    「とおく?」
    「海かな?」
    「うみ!」
     海もふたりの憧れだ。ふたりには、憧れるものがたくさんあった。
     ゆっくりと空を進む騎空艇を見上げながら、丘のてっぺんに差し掛かった影を踏んで歩く。影はふたりをすっぽり飲み込んで、その大きさをより感じられた。
    「すごい! おおきい!」
    「これは広い甲板だ! きっと部屋数も多いな!」
     影が丘を離れるまで、騎空艇に乗っている気持ちになりながら、歩き続けた。
    「大人になったら、騎空艇に乗って、海に行こうな」
     ランスロットが小さくなっていく騎空艇を見つめ、小さな声で言った。
    「アウ……アウギュステ! うみはその島にあるんだよね!」
    「ああ、アウギュステだ! 俺は調べたんだけど、ここからだとまず乗合馬車に乗って、隣のその隣の町まで行くんだ」
     村で一番賢いランスロットは、興味のあることはすぐに調べる行動派だ。父親の書斎を散らかしている姿が思い浮かぶ。
    「ニムエ村のとなりのとなり!」
    「うん、そこから小型騎空艇で王都に行く」
    「おお〜!」
    「そこからもう一度馬車に乗って、うんと大きな発着場に行くと、ポート・ブリーズ行きの艇が出てるんだってさ。そこでまた艇を乗り換えるとアウギュステだ!」
    「とおいー!」
     海とはとても遠い場所にあるのだと、その時にヴェインは知った。行ったことのない遠い場所。
     自分は辿り着けるだろうか。途中で迷子になったり、魔物に遭ったりしないだろうか。なんせ馬車も、艇の旅も、海も、未知のものだ。
     けれど、「ふたりで遠い場所に行くなんて、ワクワクするだろうな!」とランスロットが瞳を輝かせたので、少し芽生えた恐怖心があっという間に引っ込んだ。
     隣にランスロットがいれば、なにも怖くないのかもしれない。
     ランスロットが「ふたりで」と言ってくれた。
     それがヴェインには嬉しかった。
     大人になっても、一緒に居てくれるのだ。
     ヴェインはふくふくとした手でランスロットの手をきゅっと握ると、見上げて言う。
    「あのね、ランちゃんといっしょに、いろんなところへ行きたい!」
    「ああ、行こう」
     応えてくれた声が低い。
     手を握り返してくれたランスロットの姿が、いつの間にか大きくなっていた。
     すらりと細い身体は、白い鎧に包まれている。
     見るものを魅了してやまない、なによりヴェインを釘付けにする男は、真っ直ぐに瞳を覗き込んできた。
    (……ああ、そっか。夢を見てるんだな)
     空を眺めながら、ランスロットを思い浮かべていたはずが、いつの間にか眠りに落ちていた。
     懐かしい子供の頃の夢。
     あの時、確かにランスロットは約束をくれた。
     大人になって、海に行く約束は果たされ――それどころか、何度も一緒に行くことが出来た。
     夢の中でランスロットは、新たな約束をくれるらしい。
     ヴェインの瞳を覗き込んで、微笑みを浮かべたランスロットは、「具体的には何処へ行きたいんだ?」と聞いてきた。
     見上げていた視線が同じ高さになっている。どうやら自分も今の姿に変わったらしい。夢は状況がころころ変わり、脈絡がない。
    「具体的に? そうだな~、取り合えずランちゃんには、最低二週間の休みを取ってもらって?」
    「多いな。まあ、検討しよう」
    「行ったことのない場所がいいなあ。食べ物が美味しくて、のんびり出来る場所!」
    「んー、温泉か……?」
    「ノース・ヴァストは遠慮するぜ」
     ランスロットと一緒に行きたい場所はいろいろある。城下町に新しく出来たケーキが評判のカフェに始まり、日帰りが可能な観光地も、遠くへ向かう騎空艇の旅も、海だって何度でも行きたい。
    (でも、ランスロットと一緒に行くなら……)
     夢なら、口にしても許されるだろうか。
     現実では、とても口に出来ないけれど、夢の中でくらい。
     そう思って軽率に口にした。
    「俺はランちゃんと、ずっと未来まで一緒に旅をしたい」
     隣に並んで。
     なんて贅沢で、幸せな旅だろう。
     人生を共に過ごせたら、最後の時も笑っていられる気がする。
    「それは大冒険だな」
     破顔したランスロットは、ヴェインを見つめたまま、「喜んで」と伝えてくれた。
     現実ではあまり見ない、くしゃくしゃの笑顔だった。


    「――そりゃ、夢だよなあぁ~?」
     目覚めたヴェインは、窓枠に額を沈めた体勢だった。夢だと分かって、なお沈む心地がする。
     額にはくっきり赤く線が付いているだろう。
     僅かに痛む額を擦りながら身体を起こし、椅子を元の位置へ戻して、書類に向かった。
     ランスロットが戻って来たら、旅に行きたいと思う。その時に自分の書類が残っていては、洒落にならない。
     昼寝の時間を取り戻すべく、いつになく書類に集中した。


    「ヴェイン、行くぞ!」
     翌日、執務室の扉を勢いよく開いたのは、ランスロットだった。
    「へ? ランちゃん」
     驚いたヴェインの手から、完成したての書類がバサリと音を立てて落ちる。
     いないはずの人が、目の前に立っていた。
     彼の視察の予定は、あと一日あったはずだ。
     そのランスロットがどうして目の前にいるのか。しかも鎧姿ではなく、ラフな私服を着ている。手には大きな鞄。
     まるで旅に出るような……。
    「え どこに行くの」
     慌てて落とした書類を集めていると、隣に屈んだランスロットも拾い集めるのを手伝ってくれた。細い指でひらりと書類を捲って、視線を素早く走らせた後、頷いている。
    「うん、完璧だ――書類は全部片付いているんだろうな?」
    「明日までの? それなら昨日終わってて」
    「よし!」
     昨日は集中力を発揮したお陰で、思った以上に書類仕事が片付いた。今、手にしているのは、来月の会議に使うであろう書類だ。ランスロットが必要かと思い、纏めていた。
    「――っていうか、ランちゃん、おかえり。なんで?」
    「ああ、ただいま。まあ、視察が順調で早く帰ることになったんだ」
    「そんな時、ランちゃんなら別の場所に寄って来るだろ?」
     時間に余裕が出来れば、隣村へ足を伸ばすような男だ。視察を切り上げて戻って来たことなどないのに。
    「そのつもりだったんだが……夢を見たから」
    「夢?」
    「大冒険に誘われる夢だ」
     夢で見たのと同じ、くしゃくしゃの笑顔を浮かべたランスロットを見て、ヴェインは目を丸くした。
    『大冒険』
     聞き覚えのある言葉は、昨日の夢で、ランスロットが口にした。
    「……はあぁぁ~」
     何故、「大冒険に誘われた」などと言うのか。
     それは、ヴェインが見ていた夢で――まさか、夢を共有していたと言うのだろうか。
     夢だと思って、夢だと思ったから、軽率に想いを言葉にしたのに、全部伝わっていたのか。
    「俺はランちゃんと、ずっと未来まで一緒に旅をしたい」
     子供の頃から抱いていた、切なる願い。
    (それで、ランちゃんは)
    「ふふっ、お前の『告白』を聞いたら、これはすぐに帰らないと、ってな」
     悪戯っ子のように微笑むランスロットは、集めた書類をヴェインの腕に押し付けると、「早く仕舞ってこい。荷物を纏めて旅立つぞ!」と声を弾ませた。
     決めたからには行動の速いランスロットは、城に戻るなり、ふたり分の休暇の手続きをして、騎士団の面々にも段取りをつけたと得意気な顔だ。
    「……え、ランちゃん、マジ?」
    「マジだって……、まあ、戻ったら休みを取ろうと、元々考えてはいたんだ。でもお前が一緒に行ってくれるか分からなかったから躊躇していて……」
     視察に向かった村で、休憩を取っていたランスロットは、雲ひとつない蒼く澄んだ空を見て、子供の頃にした約束を思い出していたのだと言う。
    「久々にヴェインとふたりで旅がしたいな」と思っているうちに、ヴェインと同じように眠ってしまい、夢の中でヴェインに逢った――らしい。
     それこそ夢のような出来事だけれど。
    「……ランちゃん、夢で『喜んで』って……」
    「言ったぞ。それは夢じゃない。お前の言葉も夢じゃないよな?」
     唇を噛み締めて、思いっ切り頷いた。何度も。
     噛み締めていないと、溢れる想いを城中に響かせそうだったから。
     言葉に出来ない代わりに、ランスロットの隣へ並んで、華奢な指先に自分の指を絡める。
     手のひらからランスロットの熱が伝わり、そのままきゅっと手を繋いだ。
     いつまでも噛み締めている唇へ、首を伸ばしたランスロットが触れてくる。
     キスを掠めとり、微笑むと囁いた。
    「俺もヴェインと、未来の先まで、隣に並んで人生の旅をしたいよ」
    「……よ、喜んで!」
     裏返った声に、ランスロットがまたくしゃくしゃの顔をして笑う。
     ヴェインの前で見せる彼の心からの笑顔が嬉しくて、今度はヴェインから唇を合わせた。

     
     どうかふたりのその旅路が、長いものであるように――お互いの繋いだ手が離れないように、自然と力が込められていった。
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