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    tuduri_mdzzzs

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    ※完成全文をシブ収納済みです。生前恋人だったIF、オンリーで展示した部分のみ。

    #忘羨
    WangXian
    #IF

    生前から恋してた(前).


     人生は一度きりである。

     そんなことは誰に教えられなくとも皆知っていることだ。かくいう魏無羨もそうだと思っていた。薄暗い部屋で目を覚ますまでは。
     荒らされて物が散乱した部屋に、自分の真下には血を使って書かれた悪臭を放つ陣。力の入らない体で部屋の中を探索して得られた情報は自分がこの体の持ち主に献舍されたということ。そしてこの体の持ち主の恨み辛みだ。

    「はあ……冗談じゃねえ」

     思い切り天を仰ごうとして、すぐさまやってきた眩暈に頭を手で支えた。思うままに悪態をついていたいがそうも言ってられない。なにせ献舍の術は呪いの一種。しかも代償にされたのは命だ。呪術陣の類に詳しい夷陵老祖魏無羨をもってしても返すことのできぬ術である。魏無羨に残されたのは術者の願いを叶えて献舍の術の契約を完遂させることだけだ。さもなければ呪いが発動して魏無羨の魂は引き裂かれ完全に消滅してしまうだろう。そんなのはまっぴらごめんだった。

    「腹が減ったな」

     空腹すぎて動けない魏無羨の元に届けられた食事はそれはもう酷い物だった。椀に盛られたご飯とおかずが二品。献舍で呼び出された「悪鬼邪神」に出される食事とは到底思えない。ああ、恋人のご飯が恋しい。

     ――そう、魏無羨には生前恋人がいた

     とびきり可愛い、不満なところなど一つもない最高の恋人だったのだ。あれはそう魏無羨が乱葬崗に立て籠もって生活していた時の話である。

    「あれ、藍湛じゃないか! 俺に逢いに来てくれたの? ねえもうすぐ昼飯なんだよ。一緒に食べよ」
    「うん。これを」

     恋人と会った時に一番にする挨拶は抱擁である。藍忘機はほとんど身長の変わらない魏無羨が飛びかかって抱き着いてもふらつくことはない。彼は抱き着いてきた魏無羨の腰に片手を添えて支えながら、もう一方の手に持った重箱を掲げた。重箱の隙間から香ばしい匂いと鼻を刺激する辛そうな匂いが漂ってくる。
     魏無羨は抱き着いたまま重箱の方へと顔を向けた。藍忘機は腰に当てていた手を動かして尻の下に添えると、片手で軽々と魏無羨を抱き上げた。そうしてそのまま乱葬崗の中を歩き始め机が置いてある場所まで進んでいく。

    「少し軽くなった気がする」
    「そー……かな? 気の所為じゃないか」
    「ちゃんと食べているか?」

     問いかけてくる藍忘機に曖昧な言葉を返す。魏無羨はこれまで何度か藍忘機を食事に誘ったことがある。町に下りて食事をすることもあるが毎回そうとは限らない。乱葬崗で食事を出すこともままあるのだ。それはあまりにも頻繁に藍忘機が訪ねてくるからであるが今はその事実は横に置いておく。
     きっと藍忘機は乱葬崗で出された粗末な食事をみて心配してしまったに違いない。だからこうして料理の詰まった重そうな箱を持ってくるまでになってしまった。そう考えるととても申し訳なく思ってしまうのだが、恋人が自分の為に料理の詰まった重箱を持ってくるという事実は大変に嬉しいものであった。
     藍忘機は魏無羨を丁寧に腰掛けに降ろすと、机の上置いた重箱の蓋を取り中から白い陶器の皿を取り出して並べ始めた。魏無羨は彼を手伝おうと身を乗り出したが、その頃にはほとんどの料理が皿の上に盛りつけられていた。驚くほどの手際の良さである。

    「藍湛、お前まさか町で料理を頼んでここまで持ってきてくれたのか?」
    「……食べて」

     藍忘機は話への返事はせず、箸を魏無羨の目の前に置いて自身も着席した。その姿はまるで審判を待つ演者のようである。魏無羨は彼の様子を不思議そうに見ながらより分けられた料理を一口食べた。

    「! あっ、これ美味しいな。ほら藍湛も食べろよ」
    「辛さは?」
    「辛さ? まあ俺にはちょっと物足りないかな。あっでも藍湛も食べるんならこのくらいがいいんじゃないか? ほらお前ってあんまり辛い物食べられないだろう」
    「私のことは……」
    「俺一人で食べても寂しいじゃん。ほら一緒に食べようよ」

     魏無羨はそう言うと斜め前に座っている藍忘機の方へと寄って膝の上にきっちりと置かれた手を取った。そしてその手があまりにも汗をかいていて内心驚く。一体どれほど力強く握りしめていたのだろう。いやもしかしたら具合が悪い中、ここまで料理を持ってきてくれたのかもしれない。
     しかし魏無羨が何か言うより先に、藍忘機はさっと自分の分の箸を持つと口を開いた。

    「他のものも食べて」
    「藍湛、もしかしてさ」
    「一緒に食べよう」

     そういう藍忘機の表情はほんの少し口角があがっていた。ほとんど笑うことがない彼のその顔を見て魏無羨は驚いて固まった。藍忘機が笑っている! 何故!? 今までのやり取りの間にとてつもなく嬉しいことがあったらしい。そう理解はできても一体どれが藍忘機を喜ばせたのか見当もつかない。しかし嬉しそうに微笑む藍忘機から体調が悪そうな気配も感じない。
     魏無羨は藍忘機の機嫌を不思議に思いながらも、元気そうならいいかと早々に結論をつけて彼の言葉に従った。なにせ腹が減っていたのである。

    「これも美味いな」
    「うん」

     いくつもの料理を食べながら美味しいという魏無羨に「食うに語らず」とは一回も言われなかった。

     ――うっ、思い出したら余計に腹が減った

     魏無羨は手で薄っぺらい腹を数回摩ると、深呼吸をして気を整える。今いるこの部屋の扉は外から閂で施錠されているが、この空腹すぎる体でももう扉を蹴り飛ばして開けることぐらいできるだろう。魏無羨に食事を持ってきた家僕の噂話が扉の外から聞こえてくる。それに耳を澄ませながら魏無羨は薄く笑った。ひと暴れしてこようじゃないか。

     そして自由を手に入れるのだ!

     ◇

     結果を先に言うと、魏無羨が献舍された莫玄羽がいた莫家は全滅した。いや全滅というのは大げさかもしれない。もしかしたら生き残った家僕の一人や二人はいるかもしれない。だが莫家の人間は莫玄羽である自分を除いて誰一人として死に絶えた。詳細は省くが、これにて魏無羨が一方的に結ばされた献舍の契約は完遂した。事実、献舍されたとわかった際に確認した両腕の凶悪な傷痕は全て消えている。

     それよりも魏無羨は先ほどから何度も自分の行動を振り返っては後悔するということを繰り返していた。頭を抱えては短い唸り声をあげる。莫家から逃げる時に拝借した驢馬の背の上でのことである。

    (本当に俺の馬鹿野郎)

     そう魏無羨は逃げてしまったのだ。先ほど詳細は省くと言ったばかりだが少しだけ話をしよう。魏無羨が扉を蹴り開けて部屋から飛び出したあの日、莫家ではちょっとした問題の解決の為、姑蘇藍氏の者が訪れていた。仙門の人間が訪れているのだ、この問題というのは当然、邪崇に関することである。魏無羨も聞き耳を立てて様子もみていたが、歳若い藍氏の修士達でも問題なく解決できるようなものであった。
     ところが、途中から雲行きが怪しくなる。一体どこから紛れ込んだのか突如として強力な邪崇が出現し暴れまわったのである。現場にいる修士達では到底太刀打ちできそうもない。すぐに見ていられなくなった魏無羨は自分がやったとバレない程度に鬼道を使って手助けしはじめた。その途中で信号弾をみた藍氏の人間が応援に来たのだが、それがなんと藍忘機――前世の恋人だったのである。

     感動の再会があったと思うだろうか? なんと魏無羨はひと目見ることもなく、それどころか家の中から驢馬を探し出して素早く逃げ出したのだ。

     なんで咄嗟に逃げ出してしまったのだろう。ああ含光君、藍忘機、藍湛、俺の愛しい恋人。莫玄羽に献舍され姿の変わった今となっては、自分が魏無羨だなんて全く気付かないだろう。

     でもそれでいい。

     悪名高き夷陵老祖と道侶にならなくてよかった。恋人だったことも公に表明はしていなかったから藍忘機は夷陵老祖とデキていたなんていう話は一切残っていないはずだ。乱葬崗で一緒に暮らしていた温氏の皆は――温情は知っていたけど。

     ――あれはそう、取り返しのつかない事件が起こる直前の話だ

     蘭陵の町で金凌の一か月礼の為の贈り物につける根付を選び終えた後、魏無羨は供につけた温寧と贈り物の話で盛り上がっていた。贈り物にと用意した銀鈴は太陽の光を反射してキラキラと輝いている。

    「綺麗ですね」
    「そうだろう……温寧、俺さ、この一か月礼が終わったら藍湛と道侶になるんだ」

     魏無羨は立ち止まるとポツリと控えめな声で話した。止まり損ねて二、三歩歩いた温寧が身を翻して向かい合わせになる。彼は胸の前で手を叩いて魏無羨の報告を喜んだ。

    「えっ、すごい! おめでとうございます。よかったですね!」
    「温情が皆を説得したみたいで。俺はあの人たちは山を下りるなんて一生言わないと思ってた」

     魏無羨がかつて窮奇道から連れてきた五十人あまりの温氏の生き残りは誰も彼も乱葬崗を安全な場所だと思い込んでいて、もし山を下りたらすぐさま他の仙門の修士達に囲まれ捕まって恐ろしく惨い拷問をされるのだと信じ切っていた。
     そう思ってしまう気持ちはよくわかる。だから魏無羨は前にも後ろにも進めず動くことが出来なくなっていた。
     それを変える切欠をつくったのは藍忘機だ。彼は山奥から他の仙門に知られていない廃村を見つけ出し、そこまでの安全な道も作って温情に情報提供した。それからどういうやり取りがあったのか魏無羨はわからない。だがある日、数日振りに伏魔洞から出てきた魏無羨の前に仁王立ちになった温情が立ち塞がった。

    『魏無羨、私たちはこの山を下りるわ。そしたらあんたは好きに生きなさい』
    『おい待て……』
    『いい、あんたは私たちを見捨てるんじゃないわ。見送るのよ。私達だっていつまでもここにいるべきだとは思ってない。次へと進むべき時が来たのよ』

     まず比較的若くて勇気のある十数名のものが廃村へと先行していた。本当に安全なのか確かめる為ともし安全だとわかった場合に村の中を整理する為だ。最初の先行組の内、連絡用の数名が戻ってきて残っていた人々に話をする。そうしてぽつりぽつりと少しずつ人々が山を下りていった。今残っているのは移動が大変だからと言った温家の年寄り数名に彼らの移動の手伝いをする者数名、そして山を下りる覚悟が出来ていない者達、すべて合わせて二十人弱といったところか。だがそれも近日中に移動を始めると言っていた。もしかしたら魏無羨が一か月礼から帰ってくる頃には温情ぐらいしか残っていないかもしれない。

    「あ、佩玉の紐が……」

     回想していた魏無羨を現実に引き戻したのは、腰巻に通していた佩玉が地に落ちる音だった。魏無羨はすぐに屈むと地面に落ちたほうを拾い上げ、付いた砂埃を指で丁寧に払った。この佩玉は藍忘機から道侶の約束と共に貰った物である。

    「いただいてからそんなに日は、経ってないですよね?」
    「何か悪いものから俺を守ってくれたのかも。さ、話はこのくらいにして先に進もう。これ以上立ち話に夢中になると遅れるかもしれないぞ」

     ――あの後、どたばたして結局佩玉も何処かに行ってしまったな

     莫玄羽が献舍された魏無羨であると明かすつもりは毛頭ない。ただひと目藍忘機の顔を見たかったのだ。だって彼はそうそう簡単に会えるような人ではないのだから。

    「いや、そうでもないんじゃないか?」

     魏無羨はここ数日間、ずっと考えていた。思わず手に入れたこの生をどう使っていこうかと。仙門と関わっても碌な目に遭わない。だから何処かの田舎で畑でも耕してゆっくり暮らすのもいいんじゃないかと思ってみたりもした。

    「でも俺はやっぱり藍湛が好きなんだよ」

     過去を思い返して観念した。魏無羨は藍忘機が好き、大好き、愛している! たとえ二度と告げられぬ思いでも、もう構わない。今世は彼の為に生きよう。彼の幸せな顔を見ることができたなら、ただそれだけでいい。

    「目指すは姑蘇だ」

     そういって気合を入れるために両頬を軽く叩くと、顔全体に塗りたくった化粧がパラパラと剥がれて下に落ちた。手の方にもついてしまった白粉を払って落とす。

    「まずは顔を洗うか。あとは身なりももうちょっと整えたほうがいいな」

     なにせ姑蘇藍氏は顔が整っていないと入門できないという噂があるほどだ。今のまま向かおうものなら話をする前に蹴り飛ばされるに違いない。

    「よし、藍氏に弟子入りしよう!」


    続く
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    tuduri_mdzzzs

    DONE※シブに魏嬰の分と結をまとめてUP済。
    このあとは結書く。
    実は龍の化身である藍忘機の話藍湛視点


     藍忘機は緊張していた。何故なら魏無羨と恋仲になれたのはいいが、絶対に受け入れてもらわねばならない大きな秘密があったからだ。思いが通じ合ったのは天にも昇る心地であったが、これから明かさねばならない秘密が、藍忘機の心を深く沈めていた。

     藍忘機は龍の化身である。

     いや正確に言うならば龍神の使いなのである。藍氏本家直系は龍神の使いとして代々、人の身と龍の身、この二つの身を持っているのである。

     しかしそれを知るものは直系の人間とその伴侶以外いない。

     外弟子は当然ながら、内弟子でも知らぬことだ。しかし逆に伴侶は知らねばならない。知って、この事実を受け入れなければならない。何故ならば直系の子との間に子を産めば、それは龍の身となって産まれてくるからだ。大抵の者は自らの産んだ子を見て発狂する。母が二人も産めたのは今にして思えば奇跡だと、否、二人目までは大丈夫な者も多いのだそう。次こそはと願いその希望が叶わなかった時、ぽきりと心が折れてしまうと、いつだったか聞いた。それでも愛しまぐわうならば知らねばならない。龍の精を受け入れれば、男女に関係なく孕んでしまうのだから。
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