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    tuduri_mdzzzs

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    ※シブに魏嬰の分と結をまとめてUP済。
    このあとは結書く。

    #忘羨
    WangXian
    #龍狐AU
    dragonFoxAu

    実は龍の化身である藍忘機の話藍湛視点


     藍忘機は緊張していた。何故なら魏無羨と恋仲になれたのはいいが、絶対に受け入れてもらわねばならない大きな秘密があったからだ。思いが通じ合ったのは天にも昇る心地であったが、これから明かさねばならない秘密が、藍忘機の心を深く沈めていた。

     藍忘機は龍の化身である。

     いや正確に言うならば龍神の使いなのである。藍氏本家直系は龍神の使いとして代々、人の身と龍の身、この二つの身を持っているのである。

     しかしそれを知るものは直系の人間とその伴侶以外いない。

     外弟子は当然ながら、内弟子でも知らぬことだ。しかし逆に伴侶は知らねばならない。知って、この事実を受け入れなければならない。何故ならば直系の子との間に子を産めば、それは龍の身となって産まれてくるからだ。大抵の者は自らの産んだ子を見て発狂する。母が二人も産めたのは今にして思えば奇跡だと、否、二人目までは大丈夫な者も多いのだそう。次こそはと願いその希望が叶わなかった時、ぽきりと心が折れてしまうと、いつだったか聞いた。それでも愛しまぐわうならば知らねばならない。龍の精を受け入れれば、男女に関係なく孕んでしまうのだから。
     そもそも龍は単身で子を為せる。母体はつまり殻の役割を果たしているだけで、女だろうが男だろうが関係ないのだ。

     ところで藍忘機はすでに魏無羨と一線を越えている。気持ちが通じ合ってしばらくした後の話だ。その時のことを今詳しく話したりはしない。大事なのは、つまり一刻の猶予もないということだ。魏無羨は藍忘機の、龍の精を受け入れた。最悪の場合すでに孕んでいる。だから藍忘機はあらゆる手を尽くして自身の龍の部分を受け入れてもらわねばならなかった。

     藍忘機がまずはじめにやったのは異類婚姻譚をみせることだった。仕込みをした蔵書閣にそれとなく誘い、偶然を装って異類婚姻譚の存在を魏無羨に気付かせることに成功した。

    「異類婚姻譚?へー、蔵書閣にはこんなものまであるんだな。見ろよ藍湛、龍と人間の婚姻話だ。」

     中身を開いてみている様子の魏無羨をみて藍忘機は内心深く息を吐いた。よかった。興味を持ってくれている。ここでなんの興味も示さなかったら、この先が大分辛い。もしも龍であることを拒否されたら――考えただけで藍忘機は芯から冷えていくのを感じた。
     この機会を逃してはならない。藍忘機は一つの棚の前まで来ると魏無羨を呼んだ。この棚に収められた書物はすべて異類婚姻譚である。正確に言うと本家直系が残した、これまでの恋愛譚をまとめたものである。魏無羨が置かれている書物を一つ手に取ったのを見て、藍忘機はすかさず付け加えた。

    「姑蘇には昔から龍と人間の異類婚姻譚が広く普及している。」

     龍と人間の、というか藍氏本家直系の人間と一般の人間の婚姻譚である。藍忘機は魏無羨の後姿を見つめる。君もいずれこの書物に載るのだと念を送った。言葉で伝えるのは早計だ。もっとも話し合いが成功しようと失敗しようと関係ない。どのような結末を迎えるにしろ、藍忘機と恋仲にまでなったのだ、事例の一つとして残されることになっている。

    (違う)

     藍忘機は強く否定した。「失敗しようと」なんていう考えが何故浮かんでしまったのだ。失敗などしない。必ず成功させてみせる。もう二度と魏無羨を失うということがあってはならない。その為には一冊程度で足りるわけがない。
     手に取った本を持って帰ろうとする魏無羨の隣に立って、藍忘機は棚の一角にある書物をごっそりと引き抜いた。隣から驚いた気配を感じるが、それでも今持っていかなければ次の機会まで待つことになる。そんな悠長な事をしていられなかった。いつ魏無羨の体に変調が起こるか分からない。龍の存在に少しでも早く慣れてもらわなければ。

    「行こう」

     静室に戻ると持ってきた書物を丁寧に机に並べる。なるべく目に付くように。そうすれば魏無羨は読むだろうと踏んでの行動だった。
     果たしてそれは上手くいった。持ってきた手前藍忘機も手に取って見るが、内容は全て暗記してある。書面に目を通す恰好をしながら考えるのは魏無羨のことだった。
     龍の子を孕んだとて、普通に妊娠した女性の様に体に明確な変化があるわけではない。ただ違和感はあるようで、もしそういう疑惑があるときに相手が腹をよく触ったりしているようであれば注意するよう伝えられている。
     さて魏無羨はというと、書物を読む間頻繁に腹に手がいっていた。

    「どうした?」
    「ん?なにが?」
    「腹が痛むのか?」
    「ああ、いや、痛くはないんだけど、なんかちょっと胃もたれしてるような。……酒か?」

     酒じゃない。藍忘機は心の中で即座に否定した。もしも目の前に魏無羨がいなかったらすぐにでも顔を両手で覆っていただろう。多分恐らく割と子を宿している可能性が高い。彼がそう言ってから数日の間、様子を窺っていたが何度も腹を摩る魏無羨を確認した。食べ物が原因の胃もたれがそう何日も続くはずはない。魏無羨も腹に手を当てるのは無意識であるようで、途中一度指摘したが、それ以降も腹に手を当てる行為は止んでいない。

     ――腹に手を当てているのは無意識だ。当然、雲深不知処の何処にいてもやるのだから、そう時間が経たぬうちに叔父と兄にも知れることとなった。叔父の部屋に呼び出され向かうと兄もその場にいた。叔父の部屋なのは、彼が一番尋ねにくい場所だからだろう。部屋に入るときに何かを通り抜ける感覚を感じる。結界が張ってるのだろう。この話し合いは万が一にも誰かに聞かれてはならないのだ。

    「忘機」

     呼びかけに拱手をして応える。叔父も兄も、その顔は落ち着いている。まさか藍忘機が未だ魏無羨に龍の事を何も説明していないなど思ってもいないかもしれない。本当にそう思っていたら大変だ。認識のずれは早々に直さねば深刻な事態を招く。

    「叔父上、兄上。魏嬰は未だ龍のことを何も知りません。」
    「なに?」

     怪訝な表情を浮かべる叔父に瞬きをする兄。ああやはり、と思う。彼らが今日話したかったのは出産の段取りあたりだったかも知れない。だが、事態はそんな段階にはない。もっと以前の問題なのだ。

     そう、魏嬰は藍忘機が龍であることを知らない。

     改めて事実を確認すると動悸が激しくなる。新たな命を宿していることも知らぬまま、ある日突然龍を産んだら魏無羨はどうなってしまうだろう。その事実に耐えられるだろうか?いや、それ以前に藍忘機を許すだろうか。

    「それ、それは真か」

     叔父の押し殺した声が聞こえる。是と答えれば眉間に皺を寄せた。

    「何という事だ。忘機、では魏嬰は何故あんなに腹を触っている?お前はあれに何をした?あの所作はただの体調不良か?」
    「いいえ。調べてはおりませんが、おそらく……」

     藍忘機がそう言うと、藍啓仁はそれきり押し黙り背中を向けてしまった。藍曦臣は眉尻を下げながら、藍啓仁の後を引き継いで言葉を発した。

    「忘機、それではあまりにも魏公子に対して不誠実ではないかな?どうして説明する前に行為をしてしまったんだい?」
    「話をしている間に盛り上がったので」
    「……」
    「……」

     お互い言葉もないまま見つめ合う。弁明などない。魏無羨を堂々と愛せるとわかって何故自分の気持ちを押し留めることができるだろうか。藍忘機は魏無羨を心の思う侭に愛したことについて後悔はない。たとえそれで今現在大変な苦境に立たされていようと、彼を愛したことを後悔することは絶対にない。
     しかし一刻も早く説明し受け入れてもらわねばならないのも事実だ。藍忘機は先ほどの自信に溢れた言葉が嘘のように頼りない声音で話し出した。

    「一族に伝わる恋愛譚は読ませています。ですが、それだけで打ち明けても大丈夫かどうか分からぬのです。」
    「魏公子は男性だ。それだけでは足りぬやも知れぬな。」

     そう。女性が異種を産むというだけでも精神的負荷が大きいというのに、そこに本来孕むはずがない男性の条件までついている。魏無羨が負うことになる負担は一体どれほどのものだろう。しかし今更宿ってしまったものを取り消す術もない。何としても受け入れてもらわねば。拒否をすればそれだけ魏無羨の心身が危うくなってしまうだろう。
     藍曦臣が俯き気味にそう言った時、咳が一つ彼の背後から聞こえてくる。藍忘機は藍曦臣と二人して音の方を見た。いつの間にか振り向いていた藍啓仁がしきりに髭を触りながら静かにこちらを見据えていた。

    「わかった。座学を見せよう。」

     藍啓仁の言う座学とは外の公子向けに行われているものではない。姑蘇で夜狩を行うことの多い弟子向けに蔵書閣にある異類婚姻譚について知る為の座学だ。たまに行われるが頻度はそう高くない。それを魏無羨に見せようとするなら藍啓仁の協力は必須とも言えた。

    「それなら夜狩にも連れて行ってみてはどうかな?最近の嘆願書に我らの伝承と縁のあるものがあるかどうか見ておこう」

     続けて藍曦臣も普段の微笑を顔に浮かべながら言った。粛々と説教を受けようと思っていた藍忘機は思ってもみなかった血縁の援護を受け、普段よりも丁寧に拱手をして礼を述べた。

     そうして迎えた今日。魏無羨を昼餉を取りに行こうといって誘い出すことに成功した藍忘機は計画その一である、藍啓仁の座学を見せることに成功した。どんな内容なのか尋ねる魏無羨に藍忘機は満を持して答えた。

    「今日は姑蘇に伝わる異類婚姻譚についての座学だ。」
    「なんで?」
    「姑蘇で夜狩を行うのに、この地に伝わる伝説を学ぶことは必要なことだ。」

     嘘ではない。
    魏無羨を見ると、彼は少し驚いた様子を見せていた。しかしそれもすぐに落ち着きを取り戻していく。頭の回転が速い魏無羨のことだから、この座学の必要性について考察し納得したのだろう。
     しかしそれは真実ではない。ここ最近、あまりにもあからさまに龍の逸話と触れさせている。頭のいい彼の事だから、もう他意に気付いてしまっているかもしれない。一体どこまで気付いているだろう。藍忘機が龍の身を持つことにまで辿り付いてしまっているだろうか?

    (いや、それはない)

     もしも気付いているなら、きっとすぐに藍忘機に言うだろう。龍の身について肯定的ならその姿を見せて欲しいと言うかもしれない。否定的ならば、――それならば彼は置手紙を置いてここを去ってしまっていてもおかしくはない。

    (そんなことになったら私はどうするだろう)

     魏無羨が藍忘機から去ることを二度と許容することはできない。否定されることよりも居なくなってしまうことの方が何倍も藍忘機の胸を抉る。そうなったら今度こそ隠してしまうかもしれない。たとえそれが望まぬことだとわかっていてもだ。

    「これまでもお前とあちこちフラフラしながら夜狩をしてきたが、俺が今まで龍と関係する事例と当たらなかったのは、かなり確率の低い偶然だったんだなあ」

     蘭室で行われている座学を見つめながら魏無羨がポツリと呟いた。正確に言うと龍の逸話がある地で夜狩を行ったことはあった。逸話といっても結局のところ藍氏本家の恋愛譚である。それ関連で問題が起こることはそうそうないのだ。だから最後まで無関係だったりして、いつも情報を得る酒屋か飯屋で噂話を聞かない限りは知ることはない。観光の名所になっているわけでもないのに、そんな話をする住民はいなかっただけのことである。
     しかし藍忘機はこの機会を逃さず掴んだ。魏無羨の方から話題を出してくれたことを幸いに夜狩の誘いをかけたのだ。

    「わかった。今度君に龍と関係のある夜狩を紹介する。」
    「あ~、ははっ、あ~…まあ、機会があったらな~」

     魏無羨は少し嫌そうに顔を歪めて頷いた。遠慮したいと顔に書いてあるのを藍忘機はみたが、知らない振りをした。そうでなければ嫌がる彼を夜狩になど連れて行けそうにもなかったからだ。
     もうどの夜狩に連れていくかは決めていた。最後の一押しだ。夜狩に選んだ地に伝わる龍の伝承を魏無羨が体感することができたなら、そうしたらその次こそ彼に正体を明かそう。そう決意して藍忘機は袖の中に隠した拳をぐっと握りこんだ。

     ◇

     魏無羨を伴って赴いたのは山間にある小さな村だった。村人からの話では山に屍が出て、三人の被害がでたということだが屍が出たことはあまり重要ではない。
     この地は以前、頻繁に起こる洪水被害を防ぐため藍氏本家のものが一人、この地を調査し荒ぶる川を鎮めたことがあるのだ。本家の人間なのだから当然その人物も龍の化身である。その時出会った少女と恋に落ちた時のことをまとめたものが、この地に伝わる異類婚姻譚なのである。

     現場を見るために山を登る。藍忘機は魏無羨が少し湿った土と落ち葉に足を取られ体を傾けてしまっても受け止められるようぴったりと横について歩いた。時折聞こえる川のせせらぎや木々のざわめきに耳を傾けて小さく微笑む魏無羨を見ているだけで藍忘機はいつまでも時間が過ごせる気がした。
     そんな穏やかな時間は、件の滝についてしまったことで終わりを迎えた。村人の話では屍がいたということだったが、姿どころか匂いもない。村人の見た屍が何かは聞いたところで答えられないだろうが、仮に彷屍なら今もこの辺りを目的もなくうろついているはずで匂いも叫び声も無いのは不自然だ。では凶屍は?これも未だになんの変化もないことから可能性は低い。もしも凶屍がいたなら彼らの領域に入った瞬間にでも襲ってくるはずだからだ。
     では村人たちが出会った屍とは何なのか。可能性はあと一つ残されている。水の近くだからこその可能性だ。不注意にも水辺に近づいた藍景儀をすぐに助けられる位置に立つ魏無羨の姿を認めて、藍忘機は避塵を静かに抜き放った。
     瞬く間に水中から飛び出した水鬼を一刀両断する。水鬼がたてた水飛沫で魏無羨が濡れてしまったかどうか心配だったが、見た限りでは被害はなさそうであった。
     藍忘機は今すぐにでも魏無羨を触って細かく確認したい気持ちをなんとか抑えて避塵を鞘に戻した。

    「藍湛、聞こえるか?」

     誰かが泣く声が聞こえてきて、魏無羨にそう尋ねられる。声は少し高く幼さを含んでいた。聞こえてくる声の特徴から人物を推察するならば、子供ではないが大人とも言えない年頃の少女といったところだろう。
     藍忘機は目を閉じて聴覚に意識を集中した。

    「どの方向から聞こえてくるか、分かるか?」

     声は、まるで洞窟の中で声を発した時の様にあちこちから聞こえてきた。どんなに耳を澄ませてもどこから聞こえてくるのか特定することは出来そうになかった。

    「わからない」

     藍忘機が静かにそう言うと、魏無羨はしばらくして口笛を吹いた。滝の方から少しひんやりとした空気が流れてきて、やがて一人の少女が魏無羨の近くで立ち尽くしているのを確認した。幽霊だ。魏無羨の口笛に従ってやってきたにしては怯えた顔を袖で隠している。否、魏無羨を怖がっているのではない。この地で何が起こったのか、それを思い出して藍忘機は目を細めた。次に魏無羨が言う言葉がわかったからだ。

    「お前ら、俺は少しこの子と話をしてくるから離れててくれ。」

     ああ、やはり。藍忘機は酷く落胆しながら、それでも辛うじて返事を返すと自身が隠れる大きさの木の後ろへ回った。
     あの少女は藍氏ではどうしようもない。何故ならあの少女は藍氏に殺されたも同然だからだ。あの少女を癒せるとしたら、この中では魏無羨だけだろう。

     ――かつてこの地で荒ぶる水の気を鎮めていた藍氏の名士は空から降ってくる少女に一目惚れしたそうだ。ここまでなら運命的な恋の出会いに胸を高鳴らせるかもしれない。しかし問題はその後の名士の行動だった。彼は娘と深く話すこともなく、いきなり交際を迫った。しかも彼は自分が相手より優位であることを利用して、相手が断れないような状況で娘に求愛したのだ。少女の両親はそれでも彼の提案を喜んだが、少女はそうではなかった。彼女には将来を誓い合った相手がいたのだ。藍氏の名士は自分が断られるとは全く思ってもなかったようだった。ただ交際を断られただけなのに自尊心を踏み躙られたとばかりに暴れまわった。そう、龍の姿に変化してまで。
     これに困った村人たちは龍を怒らせたと、例の少女を人身御供にした。水に浮かぶ冷たくなった少女を目にしてやっと平静を取り戻した藍氏の名士は、彼が刺激して暴れさせた水の気を今度こそしっかりと鎮めると少女を滝の傍に埋葬したという。

     なんとも後味の悪い話だ。龍の逸話の残る地で夜狩を、となった時この地以外にも候補はあった。にもかかわらずこの話を選んだのには、もちろん理由がある。
     藍氏の本家にのみ伝わるもう一つの姿の話は門外不出である。なにせ門弟でも知らない話だ。知っていいのは伴侶だけ。そう、伴侶だけなのだ。だから伴侶にならなかった場合は悲劇が待っている。つまり記憶を消すか存在を消すかのニ択だ。
     この地を選んだのは戒めるためだ。どんなに逼迫した状態でも急いてはいけない。事を仕損じれば、待っているのは魏無羨の記憶を消すか存在を消すかのニ択だ。どちらも選べるわけがない。魏無羨を助ける道はただ一つ。受け入れさせることだ。その為にはどんな手間も惜しんではいけないということを。
     そして魏無羨にも、龍の求婚を断ってしまったが為に起きた悲劇を知って欲しかった。直接言うことは出来なくとも、逸話を通して彼に忠告したかった。

    「藍湛~、ただいま」

     足音を聞きつけて魏無羨を出迎える。少女の幽霊との話し合いは何事もなく終わったようだった。おかえりと言うと、途端に笑顔を深めた魏無羨に抱き着かれた。愛しい。存在を確かめるように抱きしめると、ぐりぐりと頭を押し付けてきた。体の中を巡る不安が霧散していく。今すぐにでもこの可愛い存在を命一杯可愛がりたい。丹田のあたりに熱が集まってくる。しかし続きをするかと思われた雰囲気は魏無羨が顔を上げたことで中断した。

    「あの子はやっぱりこの地に伝わる龍神伝承の生贄の御子だったよ。あの子の壊された墓を建て直して滝壺の水鬼を駆除する。けど、それは俺がやる。」

     魏無羨の提案に頷きで返す。今日一日、言動が空回りし続ける藍景儀に丁寧な指導をしている魏無羨と手を繋いで山を下りていく。その後の処理は順風満帆に終わった。魏無羨にとって水鬼の駆除など難しい事ではない。引き上げた水鬼の顔を綺麗にして村人に確認させれば、被害に遭った三名全てを見つけることが出来た。もっとも水鬼は三名以上駆除したので、どうやらあの滝の傍を通った旅人か商人か――ともかく被害に遭ったのは村人だけではないようだ。
     村人に用意をするよう依頼した少女を安らかに眠らせる為の新しい墓石は、水に流されぬような重さで用意させた為に魏無羨には動かすのが少し辛いようであった。全て運んでやりたい気持ちであったがそれは出来ない。藍忘機は魏無羨が墓石で怪我をしないよう注意深く見守った。もしも怪我をするようなことがあれば少女の気持ちなど関係ないとばかりに飛び出す心持ちだったが、少女にとっては幸いにもそのような事態にはならなかった。

     夜狩を最後まで終え、足取り軽く鼻歌を歌っている魏無羨の後姿を藍忘機はこれ以上ない程熱を込めて見つめていた。心の準備は整えた。後は藍忘機が雲深不知処の裏山にある藍氏本家のみに伝わる洞窟へと連れ出し、真実を話すだけだ。
     連れ出す時、藍忘機は緊張のあまり魏無羨の顔を直視することが出来なかった。龍の姿は見たことがないものにとってはかなり衝撃がある。大きさは自由に変えられるが人目につけば、ただ現れただけで何もしなかったとしてもその地で大きく噂になってしまう。それ故、龍の姿になる必要のある時は姑蘇藍氏に伝わる秘術で特別な結界を敷くか雲深不知処の裏山にある特別な洞窟に案内するのが普通であった。
     今回は雲深不知処で伝えることにしたので後者を選んだ。はじめ不思議そうな顔で、しかし抵抗なくついてきていた魏無羨は洞窟内に入る頃にはほんの少し眉尻を下げ、瞳を彷徨わせて不安そうな顔をしていた。
     洞窟の最深部まで辿り着くと藍忘機は魏無羨に気付かれないようにさりげなく通路に繋がる道を岩の扉で塞いだ。これは話し合う以前に、龍の姿に驚いて逃げ出してしまわないように何代か前の藍氏が新たに設置したものだ。特別な結界を使う場合でも同じように逃げられない工夫がしてある。空間を閉じなければならない程、龍の姿を持つという真実を相手に伝え納得させることは難しい事であるのだ。
     要するに何をするか、具体的に言うとこの場所で相手が龍の姿に慣れるまで、とぐろを巻いて相手を包み込みずっと一緒にいるのだ。

     ここまで来て、もう後戻りは出来ない。藍忘機は深く息を吐くと落ち着かない様子の魏無羨を振り返った。

    「魏嬰、君に伝えなければならないことがある。」
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    DONE※シブに魏嬰の分と結をまとめてUP済。
    このあとは結書く。
    実は龍の化身である藍忘機の話藍湛視点


     藍忘機は緊張していた。何故なら魏無羨と恋仲になれたのはいいが、絶対に受け入れてもらわねばならない大きな秘密があったからだ。思いが通じ合ったのは天にも昇る心地であったが、これから明かさねばならない秘密が、藍忘機の心を深く沈めていた。

     藍忘機は龍の化身である。

     いや正確に言うならば龍神の使いなのである。藍氏本家直系は龍神の使いとして代々、人の身と龍の身、この二つの身を持っているのである。

     しかしそれを知るものは直系の人間とその伴侶以外いない。

     外弟子は当然ながら、内弟子でも知らぬことだ。しかし逆に伴侶は知らねばならない。知って、この事実を受け入れなければならない。何故ならば直系の子との間に子を産めば、それは龍の身となって産まれてくるからだ。大抵の者は自らの産んだ子を見て発狂する。母が二人も産めたのは今にして思えば奇跡だと、否、二人目までは大丈夫な者も多いのだそう。次こそはと願いその希望が叶わなかった時、ぽきりと心が折れてしまうと、いつだったか聞いた。それでも愛しまぐわうならば知らねばならない。龍の精を受け入れれば、男女に関係なく孕んでしまうのだから。
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