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    Jeff

    @kerley77173824

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    お題:「魂の絆」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/02/05

    Interstellar「このあたりだと思うんだけどな」
     テラン近郊、名もなき湖のほとり。
     絆の勇者は、腰に手を当てて水面を見下ろした。
    「ほんとに? あたしは何も感知してないわよ」
     時空のカギを司るピンクドラキーは、疑わしそうに周辺を飛び回る。
    「『揺れ』には周期があるわ。今はその時じゃない。なにかの間違いバグかもね」
    「ほんとだって。僕は感じた。あ、ほら」
     指さす先に、おぼろげな人影。
    「ラーハルト?」
     その人物はゆっくりと振り返り、絆の勇者と目を合わせた。
    「どうしてここに? 断空神殿の偵察に行ったんじゃ――」
     言葉を切る。
     少し淀んだ陸戦騎の瞳と、彼の奇妙な服装を交互に見やる。
     黙り込んでしばらく考える。
     ……そして、こくこくと頷いた。
    「今、呼んでくるから。――ちょっと待ってて」
     そう告げると、ラーハルトは静かに俯いた。
     助かる、と、一言呟いて。
     勇者は相棒のドラキーのしっぽを引っ張り、踵を返す。
    「ねぇちょっと、どういうこと? あれって――」
    「黙って、ピラ」
     おしゃべりな彼女を制して、目的の人物を探しに戻る。
     
     

     霧が出てきた。
     清涼なテランの湖水にミルク色がたなびく。
     まるで天空の城のように。
     ――やがて、彼の影が現れた。
     迷いなく、こちらに向かってくる。
     懐かしい足音。
     痛みを堪えてもいない、寝台に縛られてもいない、若々しいその姿。
     おのずから輝くような、その白い頬。
     深く潤んだ、鋭くも温かいその瞳。
    「ラーハルト」
     まだしゃがれていない、その声。
     ラーハルトは心臓が掴まれるような痛みに耐えて、さらに視線を落とした。
     午後の太陽が分厚い靄に降り注ぎ、淡い虹が二人を洗っている。
    「久しぶりだな」
     ヒュンケルが軽い調子で声をかけた。
    「幾つになったんだ」
    「言いたくない」
     と、顔を伏せたままラーハルトが答える。「……もう気づいたのか?」
     ヒュンケルは肩をすくめた。
    「なんとなく。知っているお前ではないからな」
     そして、「ちょっと老けている」と付け加えた。
     二人とも、しばらく何も言わなかった。
    「教えてくれないか。俺は――」
     ぼそりとヒュンケルが聞いた。
    「何歳くらいで死んだんだ?」
     ラーハルトは糸が切れた人形のように、どさりと河原に膝をついた。
     何も言えなかった。
     やはりヒュンケルには気取られていた。
     なぜ、未来のラーハルトがここにたどり着いたのか。
    「……ひと目でいいから……姿を見たかったんだ。どうしても」
     そう絞り出すのが精いっぱいだった。
     過去に戻る魔法はない。
     運命は変えられない。
     だが、一度交錯した時空には、わずかな道筋が残っている。
     もう一度ミラドシアを訪れることができれば。
     あの時のままの恋人の姿を、ただの一度でも目にすることができたら。
     憑かれたようにその方法を探しまわり、何年もかかって、ついに再訪が叶ったというのに。
     ……言葉が出てこない。
    「どれくらいいられる?」とヒュンケル。
    「あと数分」とラーハルト。
     ヒュンケルは目を閉じて、音もなく息を吐いた。そして、
    「ずっと考えていたんだ。俺はどのみち、長くない。元の世界がどうなるのかも、今の俺は知らない。だが、これだけは言える」
     砂利の上に膝をつき、ラーハルトの視線に目を合わせる。
    「……また死に目を看取らせてしまって、すまなかった。だが、どんなに見苦しかろうと、何をわめこうと、ぼろぼろになろうとも、俺の思いはひとつだ。今、伝えておくから、覚えていてくれ」
     長い耳に唇を寄せて、囁いた。
    「ありがとう、ラーハルト。必ず、また会おう」
     きっと、どこか別の世界で。

     ――泣くな、ラーハルト。
     ――また会えるさ。

     死の香り漂う寝台で。
     痩せた唇で微笑んだ恋人の最後の言葉が、目の前の生きたヒュンケルと共鳴した。
     
     霧を包む虹が四散し、まばゆい陽光があたりを包む。
     狭間が二人を分かち、時空の果てへと連れ去っていく。

     微細な揺れが引いていく。
     絆の勇者は後ろで手を組んで小石を蹴りつつ、ヒュンケルに歩み寄った。
     一人うずくまる魔剣戦士は、目元の水滴をぬぐって振り返る。
    「話せた?」
     そう聞くと、ヒュンケルは微笑んで、ああ、と言った。
     そして、波のない湖面みたいに静かに、
    「また会えるかな」
     と呟いた。
     会えるよ、きっと。と、勇者も小さく答える。
    「また見かけたら、すぐ呼ぶよ」
     ヒュンケルは頷くと、魔剣を軸にして立ち上がる。

     優しい霧は、すっかり晴れてしまった。
     女神の慈悲だったのかもしれない。
     新たな試練を照らす太陽をひと睨みして、二人は仲間たちのもとへと歩き出した。
     


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