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    Jeff

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    お題:「おそろい」

    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/09/10

    Redmusc こてん。
     人差し指ほどのガラスびんを倒して、少し転がしてみる。
     香りを纏うなんて、考えたこともなかった。と、ヒュンケルは嘆息する。
     死臭が染み込んだ体ごと、香木で燻されたことはあったけれど。ミストバーンの投げやりな育児のなかでも、あれは結構気持ちよかった。
     ラーハルトの身体から漂うのは、血と肉と草原が混じり合ったような、不思議な香りだ。
     彼が愛用しているこの香水瓶に気づいた時は、柄にもなくワクワクした。
     初めての知識は、いつでも刺激的だ。
     ――どうせ気づかないだろう。自分の匂いなのだから。
     頬杖をついたまま、ヒュンケルは口角を上げる。
    「少しくらい」
     素早く蓋を開け、銀色の一滴を耳の後ろに染み込ませて、ぱふっとベッドに腰かけた。
     にまにまと深呼吸してから、首を傾げる。
    「おかしいな」
     違う。あの香りにならない。
     先に寝入ったラーハルトの首筋を覗き込み、もう一度、あの雫を落としてみた。そのまま、無防備なうなじに頬を寄せる。
     ああ、この匂いだ。
     ……そうか。誰かの皮膚と混じり合わないと完成しないのか。
    「せっかく同じになれると思ったのに」
     呟くと、もそりと相手が動いた。
     丸く見開かれた黄金の瞳。
     言い訳を探すヒュンケルの喉笛を掴み上げて、
    「誰と寝た」
     燃える瞳に射抜かれて、ヒュンケルは苦笑する。
    「落ち着け、ラーハルト」
    「誰の匂いだ」
    「驚いた。その嗅覚」
    「誤魔化すな。殺されたいのか」
     どす黒い口調のラーハルトに、ヒュンケルははあ、とため息をついて。
    「お前の香水だ、気づけよ」
     そう言ってやると、寝ぼけた恋人もようやく整理がついたようだ。
     特にコメントする気力もないらしく、また夢の中へと落下していった。
    「……」
     その裸の背に、わざと勢いをつけて倒れ込んでみた。
     ラーハルトは、むぐ、とか、うう、とか非難めいた声を上げるが、やっぱり起きない。
     ひたりと肌を合わせたまま、ヒュンケルもうとうとし始める。
     この愛しい表面が、自分のそれと溶け合って、境界を失ってくれはしないだろうか。
     そしたら、ずっとこの香りと一緒にいられるのに。
     そんな奇妙な夢に揺蕩いながら。
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