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    ゆーこ

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    ゆーこ

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    第1回お題deソハ典会
    Twitterでどこに上げたのか分からなくなったのでポイピクに再掲しました

    #ソハ典
    sohaticCanon

    お題:おそろい/クッション 部屋中にあふれ返る段ボール箱の山に、思わずため息がこぼれた。引っ越しというものを経験したのは生まれて初めてだったが、まさかこんなに体力を使うとは。
     ネットで物件を調べて、内見に行って、契約して、引っ越しの日取りを決めて、荷造りをして。そこまでは良かった。掘り出し物だと不動産屋が絶賛した物件はいわゆるデザイナーズマンションで、2LDKの割に家賃も手頃。
    「ご兄弟で住まれるなら、部屋も別々にできるこの間取りがおすすめですよ」
     親切そうな仲介業者の男からそう言葉を掛けられた瞬間、寝室は一緒だけどな、と小さな声でソハヤが呟いた。もちろん相手には聞こえない声量ではあったが、反射的にソハヤの向こう脛を蹴ってしまったことに後悔はない。
     内見に訪れた際には少しばかり贅沢すぎる部屋だなとも思ったが、いざこうして新居に荷物が運び込まれてみると、そうでもない気がしてきた。
    「さてと……どこから手を付けたもんかねぇ?」
     積まれた箱に寄りかかりながら口を開いたソハヤの顔は、作業を開始する前からすでに表情が疲れ切っていた。
     大型家電や家具類は引っ越し業者に頼んであらかた設置してもらったが、荷ほどきが必要な段ボールは相当な数がある。順番をよく考えて開封しなければ、それこそ大惨事だ。
     どうしたものかとしばらく悩んだ末、俺はソハヤに提案した。
    「とりあえず……買い物に行くか……?」
    「買い物って、兄弟……」
     やや呆れたような視線を俺に向けた後で、ふとソハヤの表情が変わった。
    「まあ、確かにカーテンとか買ってねえもんな。近所のホームセンターに取り急ぎ必要なものを揃えに行くか」
     段ボール箱の山と向き合いたくない俺の、さながら現実逃避とも言える案だったが、意外なことにこの案は採用されてしまった。

     二人揃って向かったホームセンターは、家から歩いて十分ほどの立地にある。家具やインテリア用品意外にも生活雑貨まで揃っているその店は、うろうろと歩き回るだけでも十分楽しめる。
     全く関係のないキャンプ用品のコーナーで、今年の夏はキャンプにでも行ってみるかとソハヤが言い出したり、収納力抜群の本棚の前で俺が思わず真剣に悩み始めてしまったりするものだから、カーテンの売り場に辿り着くまでに大分時間を要してしまった。
     その割に、いざカーテンを選び始めるとほぼ即決でどれにするか決まった。こういうとき、お互いの好みが似通っていると無駄なもめ事が起きなくて助かる。
     必要な数のカーテンは確保したものの、店内商品を眺めているうちに、そういえば、とあれやこれやと必要なものを思い出して、店内散策を続けていた。
     カートにどんどん商品が増えていき、さすがにそろそろ切り上げるかとレジに向かう道すがら、俺はぴたりと足を止めた。
    「急にどうしたんだよ、兄弟?」
     ソハヤが俺の視線を追って、ああ、とこちらを見て苦笑を浮かべた。
     俺が思わず足を止めてしまったのは、クッションを販売するコーナーの前だった。様々なデザインや形のクッションが陳列されたその売り場で俺の視線を釘付けにしたのは、とても愛らしい柴犬の絵があしらわれたクッションだった。犬派か猫派かでいえば、どちらかというと猫派ではあるが、柴犬だけは別格だ。なんといっても、どことなく俺の兄弟兼恋人に似ている。
    「これ以上柴犬グッズ増やすのは、って言いたいところだけど、今日は特別だからな。引越祝いに買ってやるぜ」
    「……いいのか?」
    「だって兄弟……もう離す気ねえじゃん、それ」
     無意識のうちにクッションをしっかり抱え込み、もちもちとした弾力やふわふわの毛足の触り心地を堪能していた俺に、兄弟が笑いながら言った。
    「その代わりさ、俺にも買ってよ。引越祝い」
    「別にそれは構わないが、何がいいんだ?」
    「俺は……こっちだな」
     そう言ってソハヤが手に取ったのは、俺の腕の中にあるものとデザイン違いであろう、ハスキー犬のクッションだった。意外なチョイスに驚く俺をよそに、ソハヤはクッションを触りながら、意外にいいじゃねえか、と呟いていた。
    「お前はあまりそういったものに興味がないと思っていたが……」
    「そうだな、あんまり興味はねえけど……いいじゃん、折角の二人暮らしなんだから、露骨にお揃いのものがあったってさ」
     少しだけ照れたように視線を逸らしたソハヤが、それに、と言葉を続ける。
    「このハスキー、なんとなく兄弟に似てて可愛いだろ?」
     にかっと爽やかな笑顔を浮かべた恋人にそんなことを言われてしまい、思わず顔が紅潮してしまう。慌てて柴犬で顔を隠したが、おそらくソハヤには気付かれてしまっただろう。
    「……そろそろ、家に帰ろう。まだ荷物に手を付けてないし……」
     なんとか言葉を絞り出した俺に、ソハヤが小さく笑った。
    「そうだな。荷ほどきしねえと……買ったベッドが届くのは明日なんだから、今夜一緒に寝る場所ができないもんなぁ?」
     意味ありげな視線を俺に向けると、ソハヤの手がするりと俺の腰に回された。普段であればこんな人目の多い場所ではこういった行動は取らないが、ソハヤも初めての二人暮らしで浮かれているのだろうか。それは俺も同じではあるのだが。
    「それは……急いで荷ほどきをしないとな」
     俺にしては積極的な返事に、少しだけソハヤが驚いた顔をした。直後にいたずらっ子のような表情がその顔に浮かぶ。これは、荷ほどきで体力を使い切らないように注意しなければ。
     そんなことを考えながら、俺たちは揃いのクッションをカートに入れてレジへと足を向けた。心なしか足取りが軽いのは、きっと俺だけではないのだろう。
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