お題:夫婦/満月 本丸の一角に位置する〝出陣の間〟――その中央に設置されている転移装置の前で、緩みきった表情を浮かべながら右へ左へと無駄な移動を繰り返している男が一人。傍から見れば些か不審な動きではあるが、この男は歴とした審神者であり、俺たちの主だ。今か今かと転移装置の示す反応を待ち侘びる姿は、主の待ち人を知るこの本丸の刀剣男士ならば誰もが微笑ましく見守る光景だった。
無数の歯車で構成された転移装置から、カチリ、と小さな音が響くと同時に、装置が淡い光に包まれた。そわそわとしていた主の顔がパッと輝く。それはまさに、喜色満面を体現した表情だった。
徐々に強くなっていった光は一本の太い柱となり、そこを中心に桜の花弁が吹雪のように舞い踊る。強烈な目映い光に思わず目を閉じた。一拍の間の後で瞼を持ち上げると、よく見知ったふたつの影がそこに在った。
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