ゆーこ
TRAINING第11回お題deソハ典会お題:夫婦/満月 本丸の一角に位置する〝出陣の間〟――その中央に設置されている転移装置の前で、緩みきった表情を浮かべながら右へ左へと無駄な移動を繰り返している男が一人。傍から見れば些か不審な動きではあるが、この男は歴とした審神者であり、俺たちの主だ。今か今かと転移装置の示す反応を待ち侘びる姿は、主の待ち人を知るこの本丸の刀剣男士ならば誰もが微笑ましく見守る光景だった。
無数の歯車で構成された転移装置から、カチリ、と小さな音が響くと同時に、装置が淡い光に包まれた。そわそわとしていた主の顔がパッと輝く。それはまさに、喜色満面を体現した表情だった。
徐々に強くなっていった光は一本の太い柱となり、そこを中心に桜の花弁が吹雪のように舞い踊る。強烈な目映い光に思わず目を閉じた。一拍の間の後で瞼を持ち上げると、よく見知ったふたつの影がそこに在った。
4844無数の歯車で構成された転移装置から、カチリ、と小さな音が響くと同時に、装置が淡い光に包まれた。そわそわとしていた主の顔がパッと輝く。それはまさに、喜色満面を体現した表情だった。
徐々に強くなっていった光は一本の太い柱となり、そこを中心に桜の花弁が吹雪のように舞い踊る。強烈な目映い光に思わず目を閉じた。一拍の間の後で瞼を持ち上げると、よく見知ったふたつの影がそこに在った。
ゆーこ
TRAINING第10回お題deソハ典会お題:電話/ガラス越し「兄弟、そんな顔すんなって。これが今生の別れって訳でもあるまいし」
受話器越しに聞こえてくる声に、俺は何も返す言葉が浮かばなかった。ガラスの壁を一枚挟んだ向こう側で弱り切った表情を浮かべるソハヤが「おーい、聞いてんのか?」と言葉を続けた。返事をしなければ、と頭では分かっているのに、どうしても声を出すことができない。少しでもこの喉から音を発してしまえば、引き留める言葉ばかりが決壊した堤防のように溢れだしてしまいそうで、俺はただただ首を縦に振ることしかできなかった。
「分かってると思うけどさ、俺がいない間も食事と睡眠はしっかりとれよ、いいな?」
自分がいなくとも普段通り過ごせと口にするソハヤに、そんなことは無理だ、できない、と全ての恥をかなぐり捨てて童のように駄々をこねることができたら、この別れをソハヤは思いとどまってくれるだろうか――答えは、否。政府所属の刀剣男士である俺たちに、任務を拒絶することなど不可能に近い。特に今回の任務は、情報が制限された特殊任務で、俺ですらソハヤがどこに行くのか教えてはもらえなかった。
3849受話器越しに聞こえてくる声に、俺は何も返す言葉が浮かばなかった。ガラスの壁を一枚挟んだ向こう側で弱り切った表情を浮かべるソハヤが「おーい、聞いてんのか?」と言葉を続けた。返事をしなければ、と頭では分かっているのに、どうしても声を出すことができない。少しでもこの喉から音を発してしまえば、引き留める言葉ばかりが決壊した堤防のように溢れだしてしまいそうで、俺はただただ首を縦に振ることしかできなかった。
「分かってると思うけどさ、俺がいない間も食事と睡眠はしっかりとれよ、いいな?」
自分がいなくとも普段通り過ごせと口にするソハヤに、そんなことは無理だ、できない、と全ての恥をかなぐり捨てて童のように駄々をこねることができたら、この別れをソハヤは思いとどまってくれるだろうか――答えは、否。政府所属の刀剣男士である俺たちに、任務を拒絶することなど不可能に近い。特に今回の任務は、情報が制限された特殊任務で、俺ですらソハヤがどこに行くのか教えてはもらえなかった。
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TRAINING第9回お題deソハ典会お題:眼鏡/白む 会社や学校帰りの人間でごった返す駅構内。俺は改札前の柱に背中を預けながら、先ほど到着した電車から降りてきたと思われる人々の姿をじっと眺めていた。しばらくして人の波は途切れたが、待ち合わせ相手の姿はない。おそらく次の電車に乗っているのだろう。口元まで覆うように巻いたマフラーの中で、ほっと息を吐いた。
コートのポケットにしまっていたスマホを取り出すと、表示したままにしていたメッセージアプリの画面には三十分ほど前に届いた『電車に乗った』という簡素なメッセージと、最近兄弟がハマっているキャラクターのスタンプが並んでいる。猫と兎ともう一匹なんだかよく分からない動物たちが、ひょこっと顔を覗かせているスタンプだった。文章は無愛想な割に、使ってくるスタンプがひどく可愛いのはあいつが可愛い物好きだからだろう。
4846コートのポケットにしまっていたスマホを取り出すと、表示したままにしていたメッセージアプリの画面には三十分ほど前に届いた『電車に乗った』という簡素なメッセージと、最近兄弟がハマっているキャラクターのスタンプが並んでいる。猫と兎ともう一匹なんだかよく分からない動物たちが、ひょこっと顔を覗かせているスタンプだった。文章は無愛想な割に、使ってくるスタンプがひどく可愛いのはあいつが可愛い物好きだからだろう。
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TRAINING第7回お題deソハ典会お題:爪/鍵 昔から、俺の周囲には変わった感性を持つ人間がちらほらと散見された。
可愛い女子や綺麗な女子がたくさんいるにも関わらず、何故か同性である俺に執着する男が一定数いたのだ。幼稚園、小学校、中学校、と年齢が上がっていくたびに、その数は少しずつ増えていき、特に高校時代など一番ひどかった。
男子校に進学してしまったのがそもそもの過ちではあるのだが、それでもまさか年に何度も同性から告白される羽目になるなんて思いもよらなかった。
高校を卒業し、大学に進学した後はさすがに頻度は多少マシにはなったが、飲み会の席で気を抜けば何かを盛られそうになったりと、以前より危険度は上がったように思う。
こんな苦労も社会人になれば終わるだろう、そう考えていたのに――。
5578可愛い女子や綺麗な女子がたくさんいるにも関わらず、何故か同性である俺に執着する男が一定数いたのだ。幼稚園、小学校、中学校、と年齢が上がっていくたびに、その数は少しずつ増えていき、特に高校時代など一番ひどかった。
男子校に進学してしまったのがそもそもの過ちではあるのだが、それでもまさか年に何度も同性から告白される羽目になるなんて思いもよらなかった。
高校を卒業し、大学に進学した後はさすがに頻度は多少マシにはなったが、飲み会の席で気を抜けば何かを盛られそうになったりと、以前より危険度は上がったように思う。
こんな苦労も社会人になれば終わるだろう、そう考えていたのに――。
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TRAINING第3回お題deソハ典会お題:睡眠/花 暗い昏い闇の中。部屋の灯りを消してから、どれだけの時が経っただろうか。
刀剣男士という新たな生を受けて早一週間。血肉の通った人の身にも幾分か慣れてきたが、俺は未だに睡眠という行為が不得手だった。
『暗闇の中で目を閉じれば、いつの間にか意識が曖昧になっていく』
顕現初日に兄弟刀の大典太光世から教わったことを毎日実行しているにも関わらず、俺は現在に至るまで一度も睡眠というものを経験できずにいた。
一度、所縁のある徳川の刀にそれとなく睡眠について尋ねてみたが、このような状態に悩んだことはないようで、それどころかわざわざ教えられずとも眠ることができたと言っていた。
そんな中で、眠るという感覚が掴めない、などと口にすることは憚られ、結局俺はこの現状を誰にも相談できずにいた。
3257刀剣男士という新たな生を受けて早一週間。血肉の通った人の身にも幾分か慣れてきたが、俺は未だに睡眠という行為が不得手だった。
『暗闇の中で目を閉じれば、いつの間にか意識が曖昧になっていく』
顕現初日に兄弟刀の大典太光世から教わったことを毎日実行しているにも関わらず、俺は現在に至るまで一度も睡眠というものを経験できずにいた。
一度、所縁のある徳川の刀にそれとなく睡眠について尋ねてみたが、このような状態に悩んだことはないようで、それどころかわざわざ教えられずとも眠ることができたと言っていた。
そんな中で、眠るという感覚が掴めない、などと口にすることは憚られ、結局俺はこの現状を誰にも相談できずにいた。
ゆーこ
TRAINING第2回お題deソハ典会お題:あくび/溺れる ぱたぱたと廊下を走る小さな足音が耳に届き、微睡みから呼び戻されるように瞼を開いた。部屋の時計に視線を向ければ、針は六時過ぎを指している。今朝の部隊編成や出陣予定が頭を過り、同じ布団の中で心地よさそうに安眠を貪っている兄弟刀に声を掛けた。
「兄弟……兄弟……おい、光世」
肩を掴んで軽く揺さぶると、ようやく光世の瞳がこちらを映した。まだ頭が働いていないのか、微妙に目の焦点が合っていない。
「そろそろ起きなくていいのかよ? 今日は朝から出陣だって言ってたよな?」
「……そうだった、か……?」
寝惚けて昨日の会話も思い出せない兄弟の声はひどく掠れていて、諸悪の根源としては些かの罪悪感を覚えてしまう。出陣前の夜ぐらいは同衾せずにおこう、などと考えていたにも関わらず、それはもう盛大に欲望に負けてしまったのが昨夜の夜半過ぎの話だ。
4330「兄弟……兄弟……おい、光世」
肩を掴んで軽く揺さぶると、ようやく光世の瞳がこちらを映した。まだ頭が働いていないのか、微妙に目の焦点が合っていない。
「そろそろ起きなくていいのかよ? 今日は朝から出陣だって言ってたよな?」
「……そうだった、か……?」
寝惚けて昨日の会話も思い出せない兄弟の声はひどく掠れていて、諸悪の根源としては些かの罪悪感を覚えてしまう。出陣前の夜ぐらいは同衾せずにおこう、などと考えていたにも関わらず、それはもう盛大に欲望に負けてしまったのが昨夜の夜半過ぎの話だ。
ゆーこ
TRAINING第1回お題deソハ典会Twitterでどこに上げたのか分からなくなったのでポイピクに再掲しました
お題:おそろい/クッション 部屋中にあふれ返る段ボール箱の山に、思わずため息がこぼれた。引っ越しというものを経験したのは生まれて初めてだったが、まさかこんなに体力を使うとは。
ネットで物件を調べて、内見に行って、契約して、引っ越しの日取りを決めて、荷造りをして。そこまでは良かった。掘り出し物だと不動産屋が絶賛した物件はいわゆるデザイナーズマンションで、2LDKの割に家賃も手頃。
「ご兄弟で住まれるなら、部屋も別々にできるこの間取りがおすすめですよ」
親切そうな仲介業者の男からそう言葉を掛けられた瞬間、寝室は一緒だけどな、と小さな声でソハヤが呟いた。もちろん相手には聞こえない声量ではあったが、反射的にソハヤの向こう脛を蹴ってしまったことに後悔はない。
2323ネットで物件を調べて、内見に行って、契約して、引っ越しの日取りを決めて、荷造りをして。そこまでは良かった。掘り出し物だと不動産屋が絶賛した物件はいわゆるデザイナーズマンションで、2LDKの割に家賃も手頃。
「ご兄弟で住まれるなら、部屋も別々にできるこの間取りがおすすめですよ」
親切そうな仲介業者の男からそう言葉を掛けられた瞬間、寝室は一緒だけどな、と小さな声でソハヤが呟いた。もちろん相手には聞こえない声量ではあったが、反射的にソハヤの向こう脛を蹴ってしまったことに後悔はない。
ゆーこ
TRAINING第5回お題deソハ典会お題:エンドロール/香水「今夜は暇だし、一緒に映画でも観ないか?」
太陽はとうの昔に沈んだというのに、依然として暑さの和らぐ気配もない夜のこと。特に面白くもないテレビ番組が流れるリビングで、空調の設定温度を下げたいがそうすると隣に座る寒がりの兄弟が自室へ戻ってしまうかもしれない……などと悩んでいた俺に向かって兄の光世がそう切り出してきたのは突然のことだった。
「別にいいけどさ、何か見たい映画でもあるのか?」
「最近Netflixで配信されたこれなんだが……」
成人男性二人で並んで座ってもまだ余裕のある三人掛けのソファーで、兄弟がこちらへ身を寄せながら手元のスマホを差し出した。画面に表示されていたのは、とあるホラー映画の告知サイト。
3156太陽はとうの昔に沈んだというのに、依然として暑さの和らぐ気配もない夜のこと。特に面白くもないテレビ番組が流れるリビングで、空調の設定温度を下げたいがそうすると隣に座る寒がりの兄弟が自室へ戻ってしまうかもしれない……などと悩んでいた俺に向かって兄の光世がそう切り出してきたのは突然のことだった。
「別にいいけどさ、何か見たい映画でもあるのか?」
「最近Netflixで配信されたこれなんだが……」
成人男性二人で並んで座ってもまだ余裕のある三人掛けのソファーで、兄弟がこちらへ身を寄せながら手元のスマホを差し出した。画面に表示されていたのは、とあるホラー映画の告知サイト。
ゆーこ
TRAINING第4回お題deソハ典会お題:雨/隣人 日曜日の朝は、いつも決まって同じ音で起こされる。左隣の部屋の住人の、元気溢れる歌声だ。
毎週変わらないその歌はこの時間に放送している特撮ヒーローものの主題歌で、俺は一度もその番組を見たことがないというのにすっかり曲を覚えてしまい、今となっては自分でも時折口ずさんでしまう始末だ。最初こそ文句のひとつでも言ってやろうかと思っていたが、あまりにも楽しそうな歌声にすっかり毒気を抜かれてしまった。
恒例の歌声ですっかり目が覚めた俺は、ごそごそとベッドから抜け出した。狭いワンルームの部屋に唯一ある窓は、ベランダに続く掃き出し窓だけ。そこに遮光性の高いカーテンを使用しているせいで、朝だというのに部屋の中はまだ薄暗いままだ。
3264毎週変わらないその歌はこの時間に放送している特撮ヒーローものの主題歌で、俺は一度もその番組を見たことがないというのにすっかり曲を覚えてしまい、今となっては自分でも時折口ずさんでしまう始末だ。最初こそ文句のひとつでも言ってやろうかと思っていたが、あまりにも楽しそうな歌声にすっかり毒気を抜かれてしまった。
恒例の歌声ですっかり目が覚めた俺は、ごそごそとベッドから抜け出した。狭いワンルームの部屋に唯一ある窓は、ベランダに続く掃き出し窓だけ。そこに遮光性の高いカーテンを使用しているせいで、朝だというのに部屋の中はまだ薄暗いままだ。
miikedobon
DONEイチャイチャからの喧嘩といった流れになっているのか不安ですがとりあえず書きました。兄弟だからこそ、ふとしたことで派手な喧嘩するんじゃないかな…と思いました。ちなみに、ソハ典の隣の部屋は安達部屋です。
あいつが悪い 激しかった営みも終わり、簡単に身を清め、微睡んでいる時だった。兄弟が発した一言で、その場の空気が変わってしまった。
「兄弟、今日も可愛かったぜ。」
「…お前の方が、可愛い。」
「何言ってるんだ、俺の下で喘ぎ声上げてる兄弟に勝るもんはねぇよ。」
「…いや、俺に“もう一回ダメか…?”とねだってくる兄弟の可愛さに勝るものはないぞ。」
ソハヤはよく俺に可愛いと言ってくる…いつもならば軽く流すか、受け入れる。しかし、今日はいつもと違った…いつもに増して兄弟の表情が可愛かったんだ。あの真ん丸な目でじっ…と見つめられたら“はい”以外の選択肢は存在しない。だから、つい強めの口調で反論してしまった。
先程の穏やかな空気はどこへやら…殺伐とした空気へ変わっていくのを肌で感じ取られるほどだった。
707「兄弟、今日も可愛かったぜ。」
「…お前の方が、可愛い。」
「何言ってるんだ、俺の下で喘ぎ声上げてる兄弟に勝るもんはねぇよ。」
「…いや、俺に“もう一回ダメか…?”とねだってくる兄弟の可愛さに勝るものはないぞ。」
ソハヤはよく俺に可愛いと言ってくる…いつもならば軽く流すか、受け入れる。しかし、今日はいつもと違った…いつもに増して兄弟の表情が可愛かったんだ。あの真ん丸な目でじっ…と見つめられたら“はい”以外の選択肢は存在しない。だから、つい強めの口調で反論してしまった。
先程の穏やかな空気はどこへやら…殺伐とした空気へ変わっていくのを肌で感じ取られるほどだった。
kakiisoishii
REHABILIソハ典 ソハヤ、12cmヒールを履くヒール男士のすゝめ 時折短刀たちが竹馬に乗ったり、丈の高い男士に肩車されている姿を見かける。大太刀や槍、薙刀とは大変な身長差であるから随分と視界が変わる事だろう。
大きいと言えば兄弟こと大典太光世も太刀の中では上背があり、猫背気味ではあるものの数値上で俺とは10㎝以上離れている。190㎝の視界、気にならない訳がない。いつも一緒にいる兄弟の視界であるから尚更だ。
さて、この12㎝の距離をどう縮めたものか。竹馬では大げさすぎるし、かと言って俺の履き物ではそこまでの高さは出ない。
ここはかかとの高い靴を履き慣れた奴に聞いてみるかな。一番始めに思い至ったのは可愛いが口癖の赤い彼だった。
「12㎝ー?さすがにそこまで高くないよ、これ」
1859大きいと言えば兄弟こと大典太光世も太刀の中では上背があり、猫背気味ではあるものの数値上で俺とは10㎝以上離れている。190㎝の視界、気にならない訳がない。いつも一緒にいる兄弟の視界であるから尚更だ。
さて、この12㎝の距離をどう縮めたものか。竹馬では大げさすぎるし、かと言って俺の履き物ではそこまでの高さは出ない。
ここはかかとの高い靴を履き慣れた奴に聞いてみるかな。一番始めに思い至ったのは可愛いが口癖の赤い彼だった。
「12㎝ー?さすがにそこまで高くないよ、これ」