『物件』「子供の将来も考えないとな・・・」
「ここじゃ高すぎるな」
不動産屋で物件を探す二人の男。1人は二十代くらいの青年でもう1人は四十半ばの男。そして青年の膝の上に座っている1人の少年。関係を聞くと、二人は恋人同士だと。この少年はどちらかの息子だ。
「お子さんは何歳ですか?」
「もうじき五歳になります」
「そうですか。ではこちらの物件などいかがでしょうか?3LDKで風呂トイレ別、駅近ですし、駐車場付きですよ」
「う~ん・・・KKどう思う?」
「購入となると予算ギリギリだな、お前の大学の費用を考えるとな」
「まあ留年しちゃったしね」
青年はサングラスを頭に乗せて、男の方を向く。
「大学のことを考えるとこっち」
「・・・近いけど2LDKだぞ。お前寝相悪いし麻人に悪影響あたえてどうする」
「はぁ!?寝相はKKの方が悪いよ!大体僕は寝るときは麻人にギューってしてるんだから!」
「初耳だぞ!?」
「言ってないからね。あ、ここなら予算内じゃない?」
「馬鹿野郎俺の職場から遠くなるわ」
「御職業は何を?」
「大学生」
「警視庁勤めの警察官です」
「なるほど。ではやはりこちらの物件がよろしいでしょう」
「でも家賃高いよね・・・」
「当たり前だろ東京なんて何処も高いだろ」
男がそう言うと青年は考え込んだ。
「あの事故物件ってありませんか?」
青年の口から予想外の言葉が出た。男は驚いていた。
「暁人!」
「いいじゃん、もしいたら祓えばいいだけの話だし」
「そりゃそうだが」
「だって依頼先の家に僕が来たら怪異が尻尾巻いて逃げたし」
「お前の呪いが逆に祓いに使われているという事実もあるし」
「大体さ、マレビトに取っ捕まって助けてくれってせがんだのは何処の誰?」
「ぐっ・・・」
青年がそう言うと男が黙り込んでしまった。話の内容から察するに何か霊媒師のようなことをしているらしい。
「でも事故物件で広い屋敷みたいなところってあるかな?」
「呪いの館ってか?」
「うん前に映画で見たあんな感じの」
「ああいうやつか」
「そんな感じの」
「ありますよ」
二人の会話を聞いて不動産屋の店員が答えた。
「この辺りでしたら二件ございますね」
「本当ですか!?」
「ええ、ただおすすめはしませんよ」
「どうしてですか?」
「実はその屋敷に住んでいた一家全員が心中したと噂されているんですよ」
「あ~そういうことですか」
「だからお勧めしないと言ったんです」
不動産屋の言葉に納得しつつも、青年はその話を聞いていた。すると膝の上で少年が急に泣き始めたのだ。
「ど、どうした?」
「腹空かして愚図ってんだ、飴ちゃんあげるから」
青年は少年の口に飴玉を放り込むとすぐに笑顔になった。
「よしよし、いい子だねぇ」
頭を撫でると少年はすぐに眠ってしまった。
「可愛いですね」
「そうなんですよ。僕の宝物なんです」
「もう一件については?」
「もう一件の方では殺人事件がございまして」
「最初の屋敷の方にするか、ちょっと内見させてください」
「わかりました。担当の者を呼びますので少々お待ちください」
担当者が来るまで二人は雑談をしていた。しばらくするとスーツ姿の女性が現れた。
「担当させていただきます、鈴木と申します」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「早速ですが物件の方をご案内致します」
不動産屋を後にして三人は車に乗り込んだ。運転席には女性、助手席には男性、後部座席に青年と少年。
「こちらになります」
女性が指したのは一番最初に紹介された家だった。
「こちらは大正時代に建てられたものでして、当時は地主様の屋敷として使われておりました。ちなみに築100年は超えております」
「うわぁ大きいね、庭も広々してるし」
「こちら6LDK250坪となっております」
「3人で暮らすにはいいんじゃない?いっそ新しいアジトにする?」
「中見てから言えよ」
中は綺麗に清掃されており、特に問題はなかった。リビングにキッチンに寝室、さらにはシガールームもあった。
「どうでしょうか?」
「ここに決めるっちゃ決めるんだけど・・・」
青年が女性に近づく。
「ここで一家心中したって言うのを聞いたのだけど詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
「はい、構いませんよ」
女性はバッグの中からファイルを取り出した。中には新聞の切り抜きが入っていた。
「こちらを」
「ありがとうございます。それで事件が起こったのは?」
「昭和■■年の●月✕✕日、一家全員が突然苦しみ出し亡くなったということです。死因は心臓発作ということになりましたが、その後、この屋敷に肝試しに来た若者が何人か行方不明になっていると」
「なるほど、心中じゃなくて病死、にしちゃあ偶然がすぎる」
「・・・ところで御職業は大学生と言っていましたが」
「実は僕も彼も霊媒の類いでして」
「なるほど、ではそちらのお子さんも?」
「そうです。でもこの子はまだ小さいのでこういった場所に連れてくるわけにもいかなくて、家に1人にさせたくないので」
「そうですよね、失礼しました。では他に質問がなければ内見は終わりにしましょうか」
「はい、大丈夫です」
「また何かありましたらお電話してください」
「今日は本当にありがとうございました」
二人が頭を下げると、女性も一礼して去っていった。
「さて、僕たちも行こうか」
「ああ」
青年は少年を抱えて、男と手を繋いで帰って行った。その様子を見ていた不動産屋の店員が呟いた。
「それにしても事故物件を紹介しろなんて、あの人面白いな」
不動産屋は不思議そうに見つめていた。後日、購入に来た青年が店員の目の前で祓いを見せて、価格がグッと下がったとか。