あの目まぐるしい一夜は色んなものを代償に明けることができた。
KKが訪れたのは暁人と麻里が暮らしていた家。あそこで自分も成仏すると思っていたKKは自分の身体が戻り、生きれると分かった瞬間、暁人を真っ先に探した。
そしてようやく見つけた暁人の家、自分が元刑事で良かったと思える。
暁人も予想外だったらしく目を見張って驚いていたがお構い無しとばかりに強く抱き締めた。
「お前がいなきゃもう生きてはいけない」
そう呟いた。それは暁人だって同じだった。誰もいなくなってしまった渋谷の街を得体の知れない者が占領し、そこに1人だけ投げ出されたようなものだった。体を乗っ取るつもりだったとはいえ、KKがいなかったら自分はあの事故で生きていたとしても、霧に襲われてもっと早くに死んでいたに違いない。
KKには褒められ、時には怒られながらも2人でひとつの身体を共有しながら生き残った。
その安心感がただの相棒という感情から、恋というものに変わるのはおかしな話じゃないかもしれない。それが例え、吊り橋効果だと言われても。
「僕も、僕ももうKKがいないと生きていけないよ…」
ぎゅっと抱き締めてくるKKの背中に手を回して暁人も、もう離れないというように抱きついた。
彼の奥さんと子供には悪いけど、この広い世界でたった1人、愛するものを見つけてしまった。彼女達から取り上げてしまうような、罪悪感に苛まられるが、今度は暁人から彼を取り上げられてしまえば、自分は再び廃人のようになるのではとさえ思ってしまう。
もう、暁人はKKなしには生きられない。
良かった、同じ気持ちだったとKKは安堵する。
もし、暁人が嫌だと首を横に振ればKKは一生彼の目の前に現れないようにするつもりだった。多分暁人は前の家族罪悪感を今居てるだろうが、それは後で説明すればいい。今は暁人だけが全てだ。元妻に感じたことの無い居心地の良さを暁人には感じていた。一応言っておくが元妻を愛していないわけではなかった。
子供だって可愛かった、むしろ自分の忙しさに鎌をかけて、家庭を顧みなかったからこそ居心地が悪くなっただけである。
だから、暁人にはそんな思いをさせないように今度こそは、ちゃんと彼と向き合い、一緒に生活していこうと心に決めた。あの一夜だけでこんなに愛おしいと思うことは、人生の中でもう二度とやってこない。そう、断言できてしまうほどに。
「帰るぞ、暁人」
「…うん」
抱きしめ合っていた体を離すと、2人はどちらからともなく手を互いに差し出し、アジトへと向かっていく。
どんなことがあろうと、あの事件を乗り越えたのだから、絶対に2人なら乗り越えられると信じて。