『出会い』あれは俺がまだ小学生の頃、一人で祖父の家に帰省していた。夏場はよく祖父の家で過ごすことが多かった。その日、祖父と二人で川沿いを散歩している時に出会った。山から落ちて来たのか分からないが服は泥だらけで怪我をして靴の片方がなくなっているのを覚えている。最初は祖父も警戒していたが、子供だと分かるとすぐに近付いていった。意識がなく祖父が子供を背負うとそのまま家に連れ帰ったのだ。子供の手当てをしているときに目を覚ました。
「おおよかった、どこか痛いところはないか?」
「・・・」
もみあげだけ長い髪型で、顔立ちはとても整っていた。だが表情はなく無言のままだ。祖父はその子に話しかけるが反応がない。
「おい」
「ん?」
俺が声をかけるとこちらを見た。やはり感情はないように見える。俺は何となく気になって質問をした。
「名前はなんていうんだ?」
「名前?僕の?」
「そうだよ」
「・・・あさと」
「それだけか?」
「うん・・・」
祖父が言葉を掛ける。俺より年下のガキが一人で山のなかにいるというのが不自然だったが今はそんなことを考える暇はなかった。
「いくつだ?」
「・・・いつつ」
「どこから来たんだ?」
「・・・とおく」
「お父さんやお母さんは?」
「ここにはいない」
祖父の質問に次々と答える。まるであらかじめ用意された答えのように淡々としていた。
「そうか、じゃあこれからどうするんだ?」
「わからない」
「行くあてはあるのか?」
「ない」
「家はあるのか?」
「ない・・・」
体育座りで顔を膝の間に埋める。
「お前、うちにくるか?」
「・・・!」
「へっ!?」
祖父の言葉にその子は驚いていたようだった。俺も驚いた。
「いいの?」
「ああ、構わないぞ」
「ありがとう・・・」
嬉しそうな笑顔を見せる。初めて見せた年相応の顔に安心した。とりあえず食事を用意して食べさせた後に風呂に入れたのだが傷に染みて泣きながら入っていた。
「お前男だろ?」
「おとこでもなきたいといきあるもん」
「そういうものなのか?」
「そういうものだもん」
「ふーん」
よく分からなかったがまあいいかと思った。風呂から上がって寝巻きに着替える。俺の予備だったためブカブカだった。布団を敷いて横になる。まだ眠くなかったので起きていたが、あさとはすぐに眠りについた。だが、しばらくしてあさとが目を覚まして、俺の身体を揺さぶってきた。
「ううっ・・・」
「どうした?」
「おしっこ・・・」
「便所は外にあるんだ、連れてってやるからついてこい」
「わかった・・・」
用を足した後に手を洗わせる。それからまた部屋に戻ろうとしたときのことだった。
「ねぇ・・・」
「なんだ?」
「いっしょにねたい・・・」
「え?」
突然の提案に驚く。今までこんなことを言われたことはなかった。というより今日会ったばかりなのにどうしてそこまで懐かれたのか分からない。だが断る理由もなかった。
「分かったよ、ほら入れ」
「やったぁ・・・」
するとすぐに抱きついてきた。そのまま横になると胸元に顔を埋めてくる。そして足を絡めると離れないようにしてきた。
「なんだよ、甘えん坊だなお前は」
「だってぼくひとりだしさみしいんだもん・・・」
「しょうがねえ奴だな・・・」
頭を撫でてやると気持ち良さそうにしている。俺は眠気に襲われて目を閉じた。