『河童探し』「おい朝だぞ」
「むぅ~あとごふんだけぇ~」
あさとは起きる気配がなかった。仕方なく揺すって起こすことにする。
「ほらさっさと起きろ」
「んぁ~もうちょっとだけ・・・」
なかなか起きないので頬を引っ張った。餅みたいに柔らかい感触が手に伝わってくる。
「なにするのおぉ~」
「いつまでも寝てるからだろ」
「しょうがないじゃん・・・ねむねむなんだもん・・・」
「まったく・・・ほら飯食うぞ」
あさとを連れて居間に行くと祖父が新聞を読んで待っていた。
「おはようございます」
「おう、早いなお前たち」
「おい、あさとも挨拶しろ」
「おはよー」
「よしよし」
机の上にご飯と味噌汁と焼き魚が置いてあった。座ると三人で手を合わせていただきますと言う。あさとの分だけ魚の切り身が大きかった。
「おいしい・・・!」
「そりゃよかった」
祖父はあさとを見ながら笑っていた。
「なああさと、今日河童探しに行こうぜ!」
「かっぱ?」
「頭に皿が乗った生き物だよ」
「きいたことない」
「じゃあ行って確かめないとな!」
「・・・いく!!」
「決まりだな!」
そうと決まればあさとを着替えさせる。
「無いよりはマシだろ」
予備のタンクトップを着せて短パンを穿かせる。
「・・・はずかしい」
「恥ずかしいのかよ!それでも男か!」
「おとこだけどはずかしいものははずかしいんだよ」
少し拗ねるあさとを見て思わず吹き出した。
「わらわないでよぉ~」
「悪い悪い」
そんなことを言いながら準備をして家を出た。近くの川まで歩いて向かう。
「ところでどうやってさがすの?」
「これを使うんだよ」
胡瓜を取り出して見せる。
「きゅうり?おいしくないのに」
「胡瓜は河童の大好物なんだ」
「へ~」
興味なさげな返事をされた。
「そろそろ着くぞ」
「おおー」
「こっちだ」
あさとは楽しそうについてくる。川のせせらぎが聞こえてきた。
「ついた・・・はぁ・・・」
「疲れてんのか?」
「つかれた」
「もやしか?」
「ちがうよぉ~」
文句を言いながらも着いて来るあたり、本当に嫌ではないらしい。
「さっそく探すか」
「うん」
川の近くに胡瓜を置いておき、茂みに隠れる。
「ほんとうにいるの?」
「いるさ」
しばらくするとガサガサと音がして何かが出てきた。のだが
「っくしゅん!」
「おい!」
「だってぇ~」
あさとがくしゃみをしてしまったせいで逃げて行ってしまった。
「あちゃ~」
「ごめんなさい」
「いいよ別に」
また次の機会を待つことにしよう。結局その日は何も見つからなかった。
「じいちゃんただいま~」
「どうじゃった?」
「みつかんなかった」
「おなかすいた・・・」
「おい!」
「風呂に入ってこい」
「は~い」
二人で汗を流した後、あさとと縁側で涼んでいた。扇風機の風で風鈴が揺れている。
「あついね」
「夏だからな」
「でもたのしかったよ」
「・・・っ」
「?」
「なんでもねぇよ」
一瞬泣きそうになった。あさとに気付かれないように誤魔化す。
「ふーん、ないてるくせに」
「な、泣いてなんかねぇよ!」
「ないてるじゃん」
「これは汗だ!」
「うそばっかり」
「本当だ!」
あさとに顔を見られないよう背中を向ける。しばらくしてから振り向いたがあさとの姿はなかった。
「あれ?」
辺りを見渡すと台所の方にいた。祖父の近くで料理しているところを覗いている。
「あ、きた」
「あさとから聞いたがべそかいてたのは本当か?」
「あさと!」
「だってほんとうのことなんだもん」
「なんだと!」
俺はあさとを追いかけた。捕まえると二人で畳の上で横になって寝転ぶ。
「お、おい、何やってんだお前ら」
「べつにぃ~」
「ほれ、もうじき飯できるぞ」
「はーい」
「わかった」
起き上がるとあさとは俺の手を引いて居間に戻る。心なしかなんだか楽に感じられた。
夕食を食べ終えて布団に入る。電気を消した後、あさとは俺の手を握って眠った。
「おやすみ」
あさとの頭を撫でながら目を閉じた。