「・・・ん、ん?」
目を覚ました時には口をタオルで塞がれ、椅子に身体を縛り付けられていた。あの時後ろから口を塞がれたのを思い出す。私は辺りをキョロキョロと見渡すと、隣で同じように縛られているあの男の人が目に付いた。
「んー!んー!」
私も同じように口を塞がれていたため、声が発せれない。ここは何処なのかを必死に考えるが答えに辿り着かない。分かることは、目の前に仮面を着けた一人の男性が座っていることだ。
「お目覚めかな?」
「んん~っ!んんんっん!」
怖い!殺される!そう思った私は必死に抵抗したが身動きが取れず、そのまま刺されてしまうと思った矢先、私の口を縛っていたタオルが外された。同時に彼も外される。
「何が目的なんだ?俺とこの子を誘拐して」
「貴様らに話すことはない」
「なら、何故俺たちを誘拐した?」
「・・・言う必要はない」
仮面の男がそう言うと、私の身体が急に震え始めた。何をされるか分からない恐怖に襲われる。
「ひっ・・・!」
「大丈夫だ、俺がいる」
私は怯えるように身体を震わせていると、彼が安らぎの言葉を掛けてくれる。
「さて、ここで一つ貴様らにチャンスをやろう」
「チャンス?」
「貴様らはここから逃げ出すことが可能だ」
「・・・どういうつもりだ?」
「ただし条件がある・・・それはどちらかを犠牲にすることだ」
「っ・・・!」
「さあ、どうするんだ?」
思わず身体が震えてしまう。仮面の男が彼に問いかける。
「それなら彼女を差し出すよ」
「え?」
予想外の答えに私は絶句した。今まで信じていたのに、裏切るような言葉が出てきて。そして確信した。この人が兄を殺したのだと。
「どうして・・・?」
思わず声に漏れてしまった。それを聞いた彼は私の方を向いて口を開いた。
「君を差し出して俺の命が助かるのなら喜んで差し出すさ。だけど、俺はまだ死ぬわけにはいかねぇんだよ!」
「そんな・・・いや、いやっ」
「さて、どうするか決まったのか?」
仮面の男が再び問いかけると、彼は私の方を向いて言った。
「犠牲になってくれ」
「いやぁ・・・いやぁぁぁぁぁ!!」
私は泣き叫びながら叫んだ。それが私の聞いた彼の最後の言葉だった。そして私はそのまま男に連れていかれる。
「いやっ!離して!!助けて!!」
力ない腕で抵抗するも意味がなくそのまま外に連れ出された。そして、私は車に乗せられた。
「安心しろ、殺すつもりはない」
仮面の男は私縛っていた紐をほどいて、私に敵意の無いことを見せる。
「訳は後で話す、今は大人しくしていてくれ」
私は男の言われるがまま、黙って身を委ねた。これから何が起こるのか分からなかったが、私を助けようとしてくれた人はもうこの世にいない。それが悲しかった。
「あいつらなら任せられるか・・・」
男は何かを呟くと車を発進させた。
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「これで助かるならあんな奴くらい」
「いや、君は助からないよ」
僕は彼の後ろから現れる。化けの皮を剥がせた憘びを顔に出さずに、彼の肩に手を掛ける。
「何だよ、お前・・・」
「君が知ってるはずだけどね~」
僕は帽子を外して顔を見せた。すると彼の顔がみるみる青ざめていく。
「い、伊月!?」
「久しぶりだね。自分で殺した人間が化けて出てくるなんて、どんな気持ち?ねえ、今どんな気持ち?」
「何故お前がここに!?」
「そんなの一つしかないじゃん、復讐だよ」
僕はナイフを取り出して首に当てる。すると、彼は恐怖の余り声を出せずにいる。
「まさか、死んでから復讐されるなんて思ってなかったでしょ?」
彼に問いかけると首を橫に動かした。あり得ないという言葉が頭を埋め尽くしているのだろう。
「まさか後ろからいきなり背中を引き裂いて僕を殺しちゃうんだもんね~・・・痛かったよ~」
僕はそう言いながらナイフを彼の首に少しずつ押し当てていく。彼は抵抗することなくただ怯えていた。
「今度は痛いのは嫌だからね、じっくりと楽しんであげるよ」
恐怖に怯える相手をじわじわと追い込んでいくのはとても興奮するものだ。特に、自分が殺した相手が実の家族に手を出そうとしている奴だったら尚更だ。
「なーんてね」
僕はナイフを持つ手の力を抜いてニヤリと笑う。彼は驚いた表情でこっちを見てくる。
「これじゃあつまらないからさ、じっくりと楽しませて貰うよ」
「お前・・・!」
「僕は君に復讐がしたいからね。大事なのは君が絶望するところを見ることなんだよ」
僕は彼の耳元で囁いた。
「死ぬよりも辛い苦しみを味わわせてやるからさ、楽しみにしててよ。早く死んだらつまんないし」
「ひっ・・・」
「これから君は僕に逆らえない、だから僕の言うことは聞いてもらうよ?逆らったら・・・どうなるか分かるよね?」
これから彼にすることが楽しみだった。
「いっぱいあるから楽しもうね♡」