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    Cxcy75jjuu

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    Cxcy75jjuu

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    兄がいるななみさんの話です
    ほぼ兄夫婦と独白です
    でも七五です

    くものいと笑い声で目が覚める。夫婦の、こどもの笑い声。それとコーヒーの香り。七海は、あたたかい布団のなかで、ただそれを聞いていた。
    数ヶ月前から、何度か連絡が来ていた。【建人、顔を見せに来いよ】
    【母さんは、あんなだから行けとは言わないけどさ】
    【うちは歓迎するから】
    七海には兄が居る。3つほど年上の兄だった。兄として大変出来たひとで、そうして普通のひとだった。
    呪術師という道を選び直して、あえて疎遠になるようにさえ振る舞う、実家には一切顔を出さない連絡も入れない弟に対して、季節ごとにメッセージをくれたし、年が暮れる時期が来れば、うちに来いよとまで言ってくれる。細い糸のような兄弟の縁を途切れさせないように、細やかで繊細なひと。
    【今年の年末、挨拶に行きます】
    【ホテルを取るので、
    お気遣いなくと文字を打とうとして、他人行儀にも程があると思った。まるで業務連絡、仕事みたいだと思った。そしてホテル云々は余計だなと、一文を消す。気を遣うなと言っても、それがあれば気を遣うのは当たり前だ。
    そんなことを考えていると、すぐに既読がついた。
    【いつ?あれならうち泊まる?】
    【ホテルを取ろうと思ってました】
    【水臭いこと言うなよ、遠慮しなくてもいいよ。年始も居てもいいから】
    【うちのも、ひまりも喜ぶよ】




    笑い声、団欒の音、客用の良い布団、暖かい部屋。家庭のにおい、朝食のかおり、色にしてみれば、驚くほどのなめらかさを持ったクリームいろ、それを想像して、深い溜息をついた。酷く気持ちが沈んでいく。落としてしまった墨のように、じんわりと滲んで、広がる。これは後悔、いや、羨望か。兄の持つ全てを己は持ち得ない。
    身体を起こす。時刻は6時過ぎ、普段のルーティンなら起きている時間だが、他人の家で起きるには早すぎる気もする。どうだろう。下ろした髪をかきあげながら、溜息をついた。本当に、後悔をしていた。気紛れなんて起こすものじゃない。
    「ね〜おじちゃん、起こしていい?ねえ〜」
    「まだ寝てるところへ邪魔しちゃあ駄目よ」
    「はは、ひまりはせっかちだなぁ。もうすぐ起きてくるよ」
    声を聞いてしまう。呪術師というのはやっかいで、呪力でつい強化してしまった。まあ、なにはともあれ、起きても良さそうなことだけはわかったため、寝間着を着替えることにした。


    これは感傷。
    これは空白。
    虚しさ。悲しみ。手から滑り落ちてゆくいのち、言葉、こころ、想い。
    普段なら、こういう気持ちになんてならない。だが、少なからず、気持ちが沈んだのは、高専時代が己にとってただの4年間ではなかったということで、あのひとの破綻が決して他人事ではなくて、逸脱はいつだって隣り合わせだったからだ。それでいて踏み外さなかったのは、自分が平凡な人間であったから。
    「おはよう御座います。皆さん早いですね」
    スラックスに、セーターを着て、髪は横にながしはした。軽い度の入った眼鏡をかける。リビングは暖房が効いており、暖かかった。
    ひまりが足にしがみついてきて、「おはよ〜おじちゃん」と屈託のない笑顔で言った。
    「おはよう、建人」
    「おはようございます」
    「ひまりさん、そんなにくっついたら、動けませんよ」
    と言いつつ、足に3歳児をくっつけたまま、歩く。キャーと更に楽しそうな声を上げた。
    義姉が、ごめんなさいね、建人さんが居るのが嬉しいみたいでと言う。
    「うちは、ひまりが起きたら、起床時間なんだ。早いだろ、悪いな」
    「いえ、いつもこのくらいには起きてます」
    「え、俺なら惰眠を貪るな」
    「すぐに朝食にします?」
    「お気遣いなく」
    それでも兄はコーヒーを出してくれたし、義姉はパンとスクランブルエッグとベーコンとジャムたちを並べた。感謝を述べて、食事を口にする。教育テレビの陽気な音楽と年の瀬の番組かかるテレビを見ながら、早くここを出る理由を必死で考えている自分が居ることに気付く。
    兄は所謂非術師で、呪いなど一切見えない。もちろん、義姉もだし、姪ひまりもだ。穏やかな家庭、何処にでもある家庭、幸せな家族というのはこういう形をしているに違いなかった。
    リビングで他愛もない話とひまりの相手をしていると時刻は10時頃になり、義姉とひまりは防寒対策をして、「公園に行ってきま〜す」と外に出ていった。兄と二人きりになる。
    「行かなくていいんですか」
    「いいんだ」
    コーヒー飲む?と聞かれ頷いた。
    兄とは真逆の人生だった。正確には、真逆の人生にならざるを得なかった。
    ことりとマグカップに注がれたコーヒーに口をつける。
    「なんかあったのか」
    兄は聞いた。
    「いえ特に」
    「………はは、そっか。うちに来て、泊まることなんか滅多にないから、なんかあったのかと。ほら、結婚します、とか」
    ははは、と空笑いをしている。
    「……あのひとは元気ですか」
    「ん、うん、元気してるよ。息子らが居ない方がよっぽど元気なひとだ」
    デンマーク人を祖父に持つ兄弟は、全く似ていない。片や黒髪黒い瞳、身長は平均よりは高いがどこにでも居るような顔立ちの兄。弟は金髪翠眼の彫りも深く、どこに行っても外国人だと間違われる。それに戸惑ったのは実の母親だった。それも弟の方は、見えてはいけないものが視えているときた。母はわかりやすく弟を避けた。父親は、こどもに愛情の偏りを見せた母を軽蔑した。高専関係者に、呪術師という道を示され、15で家を出たときには両親の関係は冷え切っていた。辛うじて繋ぎ止めていたのは、父親が少なからず兄弟に愛情があったからだ。弟が家を出るとあっさりと両親は他人となった。母親が自分のことを嫌っていたのはよくわかっていたから、二度とこのひとの前には姿を表すまいと誓った。兄は母の期待を背負ってごく普通の人生を送る。高校、大学、就職、結婚、そしてこども。真逆のような人生。生き方。
    他人の汚い部分を見ることもなく、己の醜悪さと顔を突き合わせる必要もなく、幸せを享受して。
    羨ましいのか、羨ましいのだろう。クリーム色の幸せ。掴めない幸せ。時折兄のことを考えて、自分で傷口を触って痛みを広げて、己の醜さに辟易として、そして、こんな幸せを享受するひとたちを守らねばと思うのだ。
    「俺は、そっちのことはわからないけど、辛かったら辞めてもいいんじゃないのか」
    「え?」
    「ほら、転職的な。前に会社勤めしてたわけだし」
    兄は弟の道に口を出したことはなかった、けれど、視線を彷徨わせながら、ダイニングテーブルの端に置かれた新聞に目をやってた。クリスマスイヴ、ビルが全壊、一体何が!?そんな見出しが踊る。それが、こちら側の事象の影響だと気付いている。
    「ひまりもおまえのこと気に入ってるし、今に結婚するって言い出すぞ。嫁にはやらんが」
    「しませんよ」
    ははと乾いた笑い。そのあと互いにコーヒーを啜った。冷えている。
    「辞めようと思ってはいません」
    「……うん」
    静かに頷いた。
    「今回は、少し顔をみたいなと思っただけなんです」
    「存分に見てけよ」
    高専時代に慕った先輩が道を踏み外した。転がり落ちていった。その選択はわかる気がした。呪術師がただ消費され、目に見えず人に知られず死んでいく世界に絶望した、虐げられる世界に挫折した。夏油の気持ちが痛いほどわかった。全容を記録で読み、同じことが目の前で起きたとき、同じことをしない自信がなかった。その思考に陥ってしまう自分が恐ろしかった。それだけの力を持っている自分が怖かった。逃げたいと思った、逃げようと思った。そうして逃げて、逃げたけれど、逃げ切れなかった。そうして、また、戻った。大人になった、己を律した。強くなった。守らねばと思った。ひとを、他人を、こどもを、弱い立場の人間を。手の届く範囲でも、己に出来ることを。
    スマホが震える。五条からだった。
    【どこいんの】
    【おまえんち空なんだけど】
    【伝えましたよ】
    すぐに既読がついた。
    【で、どこ】
    全く、このひとは話を聞いてない。まあ、百鬼夜行から事後処理と生徒へのケア、五条家のことをこなしていたのだろうから、仕方がない。
    【兄のところに】
    【おまえ、兄ちゃんなんていたの】
    【聞いてない】
    【言ってませんから】
    とはいえ、場所を聞き出すまでゴネるのは目に見える。地方都市名を送る。
    「………なあ、あんまりこういうの良くないと思うけど、恋人?」
    「え?」
    にやり、と笑った。
    「優しい顔してるよ」
    どう言い訳したものか、口をひらいて言葉を探そうとすると直ぐにスマホが震えた。
    【会いたい】
    【もっと詳しい住所教えて】
    慌てて立ち上がる。
    「ちょっと出てきます」


    最寄りの駅を伝えると既読だけがついた。
    イヴの百鬼夜行は、首謀者が処刑されることで終結した。様々なものを残していったが、結局高専関係者は肩の荷が下りたといったところだろうか。勿論、七海もだった。高専時代の、2年にも満たないが、彼の存在は大きかった。彼の思想は掲げるにしては、馬鹿げていて、馬鹿馬鹿しくて、叶わなくて、叶えたくて、虚しい。結局全てはないものねだりから始まる。
    「五条さん」
    「七海」
    五条は駅に居た。黒尽くめはいつもだったが、悪目立ちをする包帯の目隠しではなく、サングラスだった。
    「飛んだんですか」
    「うん。近くにルート引いてたから」
    「なぜ」
    「そんなの、会いたかったに決まってるだろ」
    五条はちらりとサングラスから瞳を覗かせ、窺うようなかおをした、していた。それに酷く罪悪感を感じた。百鬼夜行後から、五条を避けたのは自分だったからだ。それに気付いている。なにか悪いことした?と言わんばかりに伺うように見てくる。
    会いたくなかった、百鬼夜行からこちら、このひとに会いたくて、会いたくなかった。
    「ななみ」
    迷子のように、手を放されたこどものように、どう振るってよいかわからない顔をしている。
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    Cxcy75jjuu

    DONEじゅそしになったごじょうさん
    またのお越しを「うぃーういっしゅあめりくりっすまっす、うぃーういっしゅあめりくりっすまっす」
    口ずさむ、このフレーズが好きなので、僕は年がら年中歌っている。黒のカソックを着て、こんな歌を歌っていたらまるで教徒だけれど、僕は神に仕えるタイプじゃないし、そもそも一神教って好きじゃないのよね。神様って沢山居てもいいじゃない。宗教論争をしたいわけじゃないので、控えておくけれど、どっちかてと僕は崇め奉られる方なんだよね。
    僕の名前は、五条悟。呪術師にして、史上最悪の呪詛師だ。加茂家のおっさんを越えた。ま、といっても加茂憲利のおっさんは倫理観の欠如したマッドサイエンティストの毛が強くて、呪術界に名前を刻んだのだけれど。僕は違う。単純に方向性が違う。僕は人を殺した。呪力で殺した。呪術で殺した。術式で殺した。この手で殺した。頼まれて、気紛れに殺した。そう、つまり、呪詛師ってわけ。元々僕の首には賞金が掛かっていたけど、それが跳ね上がった。え〜ふっしぎ〜呪術師でも首を狙われたけど、呪詛師でも変わんないんじゃ〜〜〜ん。でも、命を狙われる回数は減った、まともな術師は、僕の首なんか狙わない。だって、圧倒的に僕のが強いし。それに僕は、僕を殺しに来たやつに容赦しない。術師だろうが、非術師だろうが、別け隔てなく殺す。逆に殺さないときは、単純に気乗りしないときだけで、それこそ別け隔てなく殺さない。気紛れだ。
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