強欲(序) 「……なぜ…だ……ッ」
山の中にあった捨て置かれた炭焼小屋の中で、泛塵は苦しそうに言葉を吐いた。
いくら強く握っても、濡らしても、擦っても。
一向に自身の昂りが精を吐き落ち着く気配がない。
「……ぅ、う、ううぅ」
刀から人の身を得た時に、基本的な生理現象に対する処置の仕方は習っている。
そしてもちろんこれが初めてではない。
いつもなら簡単に吐精して終わるはずの自慰が、一向に終わりが見えない。
つなぎを脱ぎ捨て、下半身をさらけ出して誰憚ることなくその行為に没頭し、腰は甘く重く、脳は痺れ、先端からは苦しそうにぽたぽたと涙が垂れるのに、それでも射精するほどの快感を得ることが出来ない。
「……うぅ……ど、うして……」
食いしばった歯を解くと唇から涎が垂れた。
にちゅにちゅと粘ついた音を股間から絶えず響かせても、永遠に果てない、恐怖。
噛まれた耳の下が熱くジリジリと痺れ、そこから抗えない欲望が全身に広がってゆく。
欲しい
欲しい
欲しい
欲しい
やがて脳が支配される。
欲しい。
「うぅ……ちがう……ちがう……」
ぶるぶると頭を振ると汗の雫が桜色の髪の先から落ちた。
……欲しい
噛み締めた歯がかちかちと音を鳴らす。