強欲 序『妖刀』と呼ばれる類のものがある。
妖気を帯びた刀、血を欲する刀………
よく知られているものとしては、妖刀、村正。過去に徳川のものが村正によって命を落としたことにより禁忌の刀となった言い伝えがある。
だが、ここに。
日ノ本一の兵と名高い真田左衛門之佐信繁が使ったとされる愛槍でありながら、禁忌の槍として葬られた槍が一振りあった。
「……ほう、赤備えか」
自分がどの時代に放棄されたのかよく覚えていない。
ただ、ずっとここにいる。
少し寒いから北の方の山かもしれないし、標高が高いからなのかもしれない。
そしてここがどの時代のどこなのかもさして興味はない。
ただここで、独りで生きていた大千鳥十文字槍の前に一振りの刀剣男士が現れた。
いつもならば心を動かす程度のものではない。
一振りならば、間違いなく。
三振りならば、刀種次第。
刀剣男士は大千鳥十文字槍にとっては餌でしかない。そのものがたりも流れる鉄の味の濃い血もただ腹を満たすだけのものだ。
だが、今日は違った。
自分の前に現れた小さな刀が、自分と同じ赤備えだったから。
「僕は、泛塵。真田左衛門佐信繁の脇差だ」
「ほう……成程。俺と同じ真田のものか」
「やめろ。お前に『真田』を名乗る資格はない。今のお前は妖刀なのだから……だがせめて、同じ真田のものとして僕の手で塵に返してやろう」
しゃり、と軽やかな音がして、泛塵は脇差を抜いた。