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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

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    POIPOI 192

    傷跡についての夜の話。
    800文字チャレンジ84日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    傷跡(痛み) 狡噛には傷跡がたくさんある。執行官となってからそれは目に見えてのことだったが、ナノマシンで傷が完治する日本とは違い、海外を放浪していた彼はいびつな傷跡がたくさんあった。銃撃戦でやられた足、肉をえぐったナイフ、それは彼の身体を確かめる度に見付かって、俺はなんとも言えない気分になった。狡噛は強い男だ。彼が傷跡を残しているのには理由はない。ただ、身体を重ねている時、いっそこれらを消してくれたらいいのにと思うことがある。俺の知らない恋人を知るようで怖いのだ。俺の知らない恋人を知るようで悔しいのだ。流石に、顔の近く、こめかみにある傷跡は花城が消させたようだけれど。そんなんでは海外調整局のメンバーが気にすると言って。仕事にも差し障りが出ると言って。彼女は狡噛の傷をどこまで知っているのだろう。俺しか知らない傷はあるのだろうか? それは独占欲を満たすようで満たさない。海外について語らないから、俺は彼の秘密を知れない。
    「そんなに気になるか?」
     セックスを一度終えて彼の身体をなぞっていた時、狡噛にそう尋ねられた。そんなに気になるか、それは傷跡のことだろう。そりゃあ気になるさ、この銃弾を抉った跡はどんなに痛かっただろうっていつも思っている。その場にいたらきっともっとちゃんとした手当てをしてやれたのにと俺は思う。
    「別に、盛り上がって消えないなと思ってるだけさ。こんなに傷跡だらけじゃ、女が怖がるな」
    「今の男がそう言うのが好きみたいだからいいんだよ。なぁ、ギノ?」
     煙草に火をつけて狡噛が言う。そりゃあその通りだが少し悔しくて、俺は狡噛が口から煙を吐くのをじっと見つめていた。重いタールの匂い。彼の髪にも染み付いて、もう消えそうにない。
    「俺は好きじゃないよ、狡噛。お前が痛かったと思うと、好きじゃない」
     ぽつりと言うと、狡噛は煙草を灰皿ににじり消し、俺の肩を抱いた。俺たちはそのままベッドに沈み込む。言葉も何もなしで、痛みをこらえるように。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING出島のマーケットを夜歩く話。
    800文字チャレンジ17日目。
    月のない夜(あなたのいる夜) 出島は景観整備がほとんどされていないから、夜にマーケットを歩くとほとんど空に月はない。星もないし、店から登る湯気や、煙草の煙なんかで薄くけぶっている。けれど俺はその風景が好きだった。それこそが彼が日本に戻ってきた理由のような気がして。
     狡噛が日本に戻って再び寝るようになった時、彼はここでは月は見えないのだなと、少し寂しそうに言った。そりゃあそうだろう、彼が道を作るように進んでいた発展途上国には夜には明かりはない。みな早くに寝て、早くに起きて仕事をする。こんなふうに夜を楽しむのは、電気が通っているところだけだ。
    「飲んで帰るか?」
    「今日はそうするか」
     花城と離れたら本当はすぐにでも官舎に戻らねばならないのに、俺たちは彼女の監視がルーズなのをいいことに聞きなれない言葉を話す店主に勧められて、読めもしない文字が書かれたビールを二本頼んだ。狡噛はそれを温かい夜にぐいぐい飲んで身体を暖かくして、俺の指先に、ベンチに手を置くふりをして触った。俺もそれに同じように触った。あたりにはまだ人がいて、月はなくて、通りに掲げられたぼんやりとした明かりだけが夜市を照らしていた。美しい夜だった。
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    TRAINING出島を歩いていて結婚式に出会う狡宜です。
    言えないよ、一言じゃ済まないから 言葉にしたら消えてしまうようなものについて、たまに考えることがある。愛しているって言葉は軽薄になるが消えない。消えてしまうのは、もっと些細で、小さくて、壊れそうなものだ。そして狡噛が一番大切にしているもの。彼が俺にどうにかしてそれをくれたのは学生時代のことで、初めてキスをした日のことだった。ギノ、愛してる、どこにも行かないでくれ。彼はそう俺にお願いをして、何度も、何度もキスをした。俺はそれにうなずいた。別に行くところなんてなかったし、彼のそばが一番心地よい気がした。けれど違ったのだ、彼はひとところにとどまる人間じゃなかった。彼は居心地の良さを求めてどこにでも行く人間だった。だから俺がいなくなることはなくても、彼がいなくなることはあった。それが彼が日本を飛び出た理由なんだろう。人間関係を全て捨てて、そしてそこで新しく何かを築き上げて、それすらすぐに捨ててしまう。言葉にしたら消えてしまうようなものについて考えると、彼はそれをよく使うことが分かった。でも俺はそれを使えない。一言じゃ済まないから。一生どこにも行かないくでくれ、そばにいてくれ、俺を愛してくれ、そんなふうに言葉が止まらなくなるから。
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