Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😻
    POIPOI 192

    狡噛さんからもし手紙が来ていたら、の話。
    800文字チャレンジ85日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    The day after(ラブレター) 狡噛がいなくなってから世界は色を失って、彼に再び会ってから色をとりもどした。彼が海外ででも生きていることに俺は安心して、どうにかこうにかやっていけた。狡噛は便りをよこさなかった。一通も。頭の回る彼のことなのに、俺に合図を送らなかった。俺はそれに安堵したような、悲しかったような、不思議な感覚を覚えたのを思い出す。一人でも生きていけるから便りはいらない。一人でも生きていくために便りが欲しい。そんな時に見つけたのが、彼が公安局を出奔する前に俺に置いて行った手紙だった。
     それは非公式には存在しないことになっている。というのも、俺が報告しなかったからだ。狡噛の手紙を見つけたのは彼とよく遊んだ廃棄区画のガレージだった。仕事のついでにどうなっているか見に行った時、そこに一通の、埃をかぶった手紙が置かれていた。内容は次のようなものだ。これから仕事を一つ片付けなきゃならない、すまない、愛している、あの時からずっと。
     ロマンチックな手紙を書くものだな、と思った。宛名はなかった。でも彼の綺麗な字のおかげですぐに差出人は分かった。仕事を一つ片付けるって、本当に狡噛は槙島を殺すつもりだったんだろう、最初から。けれどあの時からずっと愛しているとは、いつの時からなのだろう? 学生時代? 監視官時代? それよりもずっと前? 俺はいつから愛されていたのだろう。こうやって手紙を残すようになるまで。危険を犯して手紙を残すほど愛されるなんて。
     手紙は執行官時代はロックを掛けた引き出しに置いてあった。外務省に行ってからは数少ない本に挟んでいる。いつか彼が見つけて恥ずかしがればいいと思って、そんなふうにしてある。
    「なぁ、ギノあの本なんだが、出島で手に入れたのか?」
    「まさか、お前がくれたんじゃないか。耄碌したのか?」
     ある日狡噛がそう言った時、ついに手紙が見つけられたんだと思った。狡噛は見つけたとは言わなかったが、顔がそう語っていた。彼は少し伸びた髭をさすって、煙草を咥えてコーヒーを入れている。俺はそれを待ちながら、夜中に書いたラブレターの恥ずかしさを思い知れ、と思ったのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
    1852

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
    3531

    related works