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    短い話を放り込んでおくところ。
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    狡噛さんの癖について。
    800文字チャレンジ95日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    癖(あなたの好きなところ) 狡噛は唇をいじる癖がある。考え事をする時それは頻繁になって、それはよくある癖なのに、俺はそれが気になってたまらなくなる。唇。言葉を発するところ、唇同士を重ね合わせて愛情を伝えるところ、苦しそうに、気持ちよさそうに声を出すところ。俺はそんなことを想像してしまって、彼がブリーフィングルームで新しい事件のファイルを見ているのに目をやれなかった。ただ唇をいじっているだけなのに、花城だって、須郷だって同じ仕草をすることがあるのに、狡噛のそれは俺に取って毒で、甘くて、ほとんど致死量なのだ。認めたくはないことだけれど。狡噛はそれを知っているのだろうか? 心臓の動きが活発になって、体温が上がる。狡噛と視線が合う。彼はゆっくりと舌で持って唇を舐める。セックスをしている時みたいにゆっくりと、俺の唇を舐める時みたいにゆっくりと。
    「それでこの事件なんだけど、いつも通り私と須郷、狡噛と宜野座の割りで行きましょう。質問は何かある? 何か思いついたらなんでもいいから私のデバイスに連絡して。それじゃあ今日は解散して聞き込みにしましょう」
     花城が髪をかきあげる。それが合図になって会議は解散となり、俺は狡噛から仕掛けられたアピールを無視することが出来た。それからは仕事をした。狡噛とバディを組まされたことは不満ではなかったが、また何かあるのではないかと思うと胸が苦しかった。またあのブリーフィングルームでのような何かがあったらどうしようと思ったのだ。
     
     仕事が終わって官舎に戻ると、どういうわけか狡噛がいた。彼は青島ビールを飲んでいて、俺は仕方なくそれを許して彼が持参したビールを飲むこととなった。彼はまた唇を舐めている。指でたどっている。俺にするようになぞっている。そう思いつつソファの隣に座ると、狡噛はこんなことを言った。
    「俺はもう限界なのに、お前って我慢強いんだな」
     思っても見なかった言葉に固まっていると、どうやらずっと俺を誘っていたらしいことが分かった。全く、迷惑なやつだ。それに喜んでいる俺もそうなのだけれど。狡噛が癖でまた唇をいじる。俺はその指ごと舐めて、ゆったりとキスをした。答えはオーケーだ。それくらい癖で分かっているだろうに。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING思い出と今の星の違い。
    800文字チャレンジ48日目。
    星空デート(プラネタリウム) 出島では星が見えない。それは夜も煌々と明かりを灯すイルミネーションのせいだったりするのだが、俺はそれが別に嫌いではなかった。東京も似たようなものだったし、防犯のためには明かりは多い方がいい。それでもふと裏路地に入る時、空に見える星が俺は好きだった。かつて紛争国で見た星々のようで、とても美しくて。
     ギノとは学生時代に何度か旅行に行ったことがある。彼は唯一コンタクトを取れる肉親である祖母とは別居していたから、ギノを縛る者は誰もいなくて、俺は気まぐれに恋人を誘っては放棄された土地にキャンプを張ってひと夜を過ごすことが多かった。もちろん移動はバイク、と行きたかったのだが、彼の愛犬がいることでそれは却下になった。ダイムは珍しい自然の匂いに興奮して喜んでいて、いつもいろんなところを走り回っていたように思う。俺たちはそんな中で肉を焼き、秘密だとビールを空け、酔っ払って何度もキスをした。セックスもした。でも、最後に見るのは、いつだって星空だった。まんてんの星空。びっしりと宝石で埋め尽くされたような星空。俺たちはそんなところでいつも好きだとか愛しているとか、そんな切実な言葉を交わしたのだった。
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