埋葬されたスプーン 宜野座はステンレスのスプーンを落としたーーその時狡噛は煙草を吸っていたーーあろうことか病室でーーそれも高級なそこで狡噛は自分がリラックスするために煙草を吸っていたーーしかし宜野座は狡噛を咎めはしなかったーーもとより宜野座が咎めることなどこの世にはないのだったーー宜野座はそこで狡噛の腕を引っ張り久しぶりに彼にキスをしたーー辛い煙草の味だったーーそう品質も良くないのに高いだけの煙草の味だったーー宜野座はその味に安堵したーーそれが自分が脇腹を撃たれて昏睡状態になる前に感じた味と同じものだったからだーー「やめるか?」ーー狡噛はそう尋ねたーー宜野座はどう答えていいいか分からなかったーーそもそも何をやめるかを彼は教えてもらっていないかったーー突然のキスかそれとも行動課の仕事かーー「いいや」ーー宜野座はそう言ったーー自分では何を言っているのか分からなかったがそう答えねばならない気がしたーー狡噛と宜野座はまたキスをしたーー口の中を絡めとるようにそうすると酒の味もしたーーもちろん血の味もーーまた馬鹿をやったのかと宜野座は思ったーー狡噛は無茶をする男だったーー執行官時代などは顕著だが仕事のために自分の命を落としても構わないと思うところがあったーー自分はその度に彼を叱ったが狡噛が改善することはなかったーーそういえばどうしてスプーンを落としたのだろうと宜野座は思ったーー狡噛は自分を眺めに来たのだったーー恋人の様子を見に来たのだったーー狡噛は仕事を切り上げてきたのだろうと宜野座は思ったーー癖のある黒髪青い目筋肉のついた体それらをすベて愛おしく思ったーーこの男は訪問に驚かれても動じないそんな男だったーーそしてようやく宜野座は、この時自分が狡噛を、心の底から、赤子が泣くように、埋葬された男を愛するように、そんな不確かな状況で愛していたのだと知った。