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    カンパ

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    カンパ

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    アラサーのたいみつがピアスを開け合う話。

    #たいみつ

    ピアスを開け合うたいみつ「そのピアスにこだわりでもあんのか」
     上質なソファの上でオレを押し倒した大寿くんが『そのピアス』として指差したのは、オレが中学の頃からつけ続けている十字架模様の黒いピアスであった。大寿くんの手が伸びてきて、右手の親指と人差し指でピアスをつまみ、耳たぶの裏に飛び出したキャッチを転がす。その手つきがやたらにいやらしかったので、オレは無駄に厚い大寿くんの胸板を両手で押し返した。
    「大寿くん、触り方がやらしいぞ」
    「今からやらしいことすんだから構わねぇだろ」
    「そりゃそうなんだけど……」
    「さっさと質問に答えろ。ずっとつけ続けてるよな、コレ」
     再びその大きな指の腹で耳たぶをなぞられ、思わず身震いした。背中がぞわぞわと毛羽立つような感覚。誰かに触れられて思わず身体が震えてしまうことに「気持ちいい」という答えをくれたのは大寿くんだ。だからこれはくすぐったいんじゃなくて、気持ちのいいこと。漏れそうになる声をどうにか抑えながら、共に人生を歩んできた左耳のピアスに想いを馳せる。
     別に、高価なものじゃない。むしろ安物だろうと思う。これをくれたのは母親だった。小六の終わりにピアスを開けたオレに、中学校の入学祝いとして渡してくれた。普通の親なら、勝手に身体に穴を開けようもんなら怒り散らしそうなものだけど、ピアッサーに付いてるファーストピアスはダサいからさっさとこっちに変えな、と新しいものをよこしてくれたのである。
    「母親がくれたんだよ。だからずっと付けてる」
    「……親からもらったモンか」
    「え、なんか気に食わない?」
    「いや」
     きちんと質問に答えたのに、大寿くんはオレの体に覆い被さったまま離れないし、指先は耳たぶに寄せられたままだった。ピアスのキャッチをくるくると回される。十年以上前に開けた穴だし別に痛くなんてないけど、自分で触るのと人に触られるのとじゃ話が全然違う。ぞわ。また背筋が震えた。触られてるのは耳たぶなのに、まるで神経が心臓に直結してるみたいにばくばくと波打つ。
    「親からもらったモンじゃ、外せとは言えねぇな」
     意外な言葉に目を瞬かせると「何だその馬鹿みてぇなツラは」となんとも理不尽な暴言を吐かれた。いや、そりゃびっくりもするでしょ。出会った頃からずっと付け続けているピアスを、実は外して欲しかったなんて。
    「なんで外してほしいの?」
    「オレが買ったやつを付けてほしいから」
    「え、ええ〜、そんな可愛い理由? やば、ちょっとにやけちゃうんだけど。不意打ちでそういうこと言うのやめてよ」
     似合わないからとか色褪せていてみっともないからだとか、そういった理由を予想していたからまさかこんな答えが返ってくるとは思いもしなかった。オレの買ったやつを付けてほしいから? 大寿くん、いつからこんな可愛い台詞を言えるような男になっちゃったの。大好きな人に触られる気持ちよさを大寿くんがオレに教えてくれたみたいに、そんな怖い顔から可愛い台詞を恥ずかしげもなく言えるようになっちゃったのは、もしかしてオレのおかげかな。
     しかし、だ。このピアスを外す予定は今のところまったくない。壊れて使い物にならなくなるならまだしも、使えるうちは直せる限り直して使っていきたい。このピアスは親からの贈り物という意味だけに留まらず、辛いことも苦しいことも楽しいことも嬉しいことも一緒に歩んできた相棒みたいなもので、お守りみたいな側面もある。大寿くんがオレにどんなピアスを贈ろうとしてくれてるのかは、ちょっと興味あるけど。
    「ごめんね。せっかく贈ろうとしてくれたのに」
    「……穴、増やすか」
    「は?」
    「オレが贈ったモンを飾るためだけの穴をもう一つ開ければいい」
     すると大寿くんは、覆い被さっていたオレの体からゆっくりと離れて、おもむろに立ち上がり寝室へと消えて行った。無駄に広いリビングの真ん中に置かれた無駄にでかいソファに置き去りにされたオレが耳の裏を撫でながら待っていると、しばらくして大寿くんが戻ってきた。片手に何か持っている。なんだあれ。見たことあるな、あの形。
    「……ピアッサー?」
    「ああ」
    「は、え?! マジで穴増やすつもりなの? ていうかなんでピアッサーが家に常備されてるわけ?!」
    「常備してるわけねぇだろ」
     こういう展開を予想して買っておいたんだ、といけしゃあしゃあと言ってのけた大寿くんがプラスチックの容器からピアッサーを取り出す。いやいや、こういう展開ってどういうこと? もしかしてこの会話の最初っから、オレが今つけてるピアスを外したくないって言ったら穴開ける気満々だったってこと? オレの意見はガン無視かよ。
    「耳たぶ小せぇなぁ。左に二つは無理だな。右に開けるか」
    「ちょ、ちょちょちょっと待った。オレの意見は?!」
    「ア? 嫌なのかよ」
    「嫌とか嫌じゃないとかそういう話じゃないから!」
     再びオレの体に覆い被さってきた大寿くんの手からピアッサーを奪う。見てみると、普通の薬局で売ってるようなまじで普通のピアッサーだ。久しぶりに見た。アラサーになってこんなおもちゃみたいなやつで穴を開けられようとする日が来るとは……。
    「大寿くんのそういう強引なとこ、どうかと思うよ」
    「強引にされんの好きなくせに何言ってんだ」
    「それはエッチの時の話……ってなに言わすんだこのやろ」
     半分くらいの力で大寿くんの胸板をぼこんと殴る。もちろんこの程度の力じゃびくともしない。悔しいが、十割の力で殴ったってたぶん敵いやしない。体格が違いすぎる。いや、体格は関係ないな。マイキーは一撃でのしてたし。
     ぼこぼこと胸板を叩いていた右手を大寿くんに掴まれる。その手がふいに大寿くんの髪に触れて、それから耳に触れて、そのとき気づいた。そういえば大寿くんってピアス開けてないよな。タトゥーは全身に入れてるくせに。あ、そうだ。
    「大寿くんも開けようぜ、穴」
    「は?」
    「オレに開けろって言うなら大寿くんも開けてよ」
    「何言ってんだテメェ」
    「オレもさ、オレが買ったピアスを大寿くんにつけてほしいなぁ。オレのあげたやつだけを飾る穴を、今ここで開けてよ」
     そう言いながら、背筋がぞくぞくとした。大寿くんの耳に穴が開く。その穴を、今オレが開ける。大寿くんの体に消えない傷が生まれる。そしてその傷は、オレがあげたピアスを飾るためだけに使われる。うわ、なにそれ、えろ。
     大寿くんの左耳たぶをなぞる。その瞬間、大寿くんの肩がびくりと震えた。きもちいいよね。好きな人に触れられるってきもちいいもん。大寿くんの耳たぶは結構分厚い。体もでかいからそれに比例して耳も大きい。耳の形を確かめるように上から指でなぞって、少し力を込めて耳たぶを掴む。大寿くんの眉がぴくりと動いた。知ってるよ大寿くん。きみの弱点が、耳だってこと。
    「ね、オレが開けてあげるよ。いいでしょ?」
     耳元に唇を寄せてそう囁けば、大寿くんの身体はふたたび震えて、掴まれていたオレの右手はゆっくりと解放された。右手でピアッサーの感触を確かめる。使うの久しぶりだな。オレが使った時から十年以上経っているのに、構造はほとんど変わっていない。穴が開くのと同時にファーストピアスが装着されるタイプだ。色はオレンジ。オレの色。ああ、めちゃくちゃ興奮する。
    「左でいいよね?」
     大寿くんはなにも答えない。なにも答えないのはすなわちイエスだ。恥ずかしがり屋の大寿くん、天邪鬼の大寿くん。可愛いなあ。本当に開けちゃうよ。きみの身体に、オレが穴を開けちゃう。
     本当はきちんと消毒しないといけない。でも、身体中がぞくぞくと震えて、きっとそれは大寿くんもおんなじで、だから耳たぶを消毒しなきゃなんて発想は浮かんだ瞬間にどこかへ飛んでいってしまった。オレを押し倒す形で覆い被さる大寿くんの左耳たぶにピアッサーを当てる。穴開ける時って、痛かったんだっけな。もうずいぶんと昔のことだから思い出せないや。でも、痛くてもいいよな。そっちのほうがずっと覚えていられるし。
    「いくよ、大寿くん」
     無言はイエスだ。大寿くんが目を瞑ったと同時にピアッサーを強く握る。がちゃん、と小さな見た目に反してわりと大きな音が部屋に響く。大寿くんは呻くことも逃げるような素振りを見せる事なく、ただほんの少し眉を顰めただけだった。ピアッサーを外す。大寿くんの大きな耳たぶに、安っぽいオレンジ色のピアスが光った。
    「……本当に開けやがったなテメェ……」
    「大寿くんだって抵抗しなかったじゃん」
    「ふん、安っぽい石だな。穴が開いたならもう外してもいいのか」
    「安定するまではそのままの方がいいと思うけど。あと本来なら開ける前にやるべきだったんだけど消毒したほうがいいよ。ほら、どいて……」
     薬箱を取りに行くべく立ち上がろうとするが、オレを押し倒したままの大寿くんは動こうとしない。見上げると、なんともまあご機嫌な顔でこちらを見下ろす大寿くんと目が合った。うわ、ろくでもないこと考えてる顔だ。
    「なに逃げようとしてんだ」
    「逃げるんじゃなくて消毒液を取りに行こうと……」
    「まだテメェの穴を開けてねぇだろうが」
    「い、いやいや、もうピアッサー使っちゃったし。使い切りのやつだったし」
    「残念なことに、予備にもう一つ買ってあるんだよなァ」
     どこからともなく取り出されたもう一つのピアッサーを見て冷や汗をかく。作戦失敗。むしろ逃げ道がなくなってしまった。大寿くんにだけ穴を開けて逃げられるわけがない。片手で器用に箱から出したピアッサーを大寿くんが握る。ピアスの色は青色。
    「そんなにオレに開けられんのが嫌なのかよ」
    「いや、ぶっちゃけそんな嫌ってわけじゃないけど……でも、」
     自分で自分の耳たぶを触る。ほら、自分で触ったところで別に気持ちよくなんてない。背中が震えることもなければ心臓が波打つことも汗が滲むこともない。でも、きみに触られると、へんなきもちになっちゃうんだ。
    「大寿くんに耳たぶ触られるだけで心臓破裂しそうになんのに、穴なんか開けられた日には、爆発しちゃうかも」
     大寿くんの眉がぴくりと動いて、それからゆっくりと指先が伸びてきて唇をなぞった。キスされそう、そう思った瞬間にゆっくりと重ねられる唇。熱くて湿っていた。大寿くんも興奮してる。どきどき。ああ、心臓がやぶけそう!
    「爆発しちまえよ。見せてみろ」
    「ほんと無茶言う……」
    「オマエみたいな誰からも愛されるような男が、オレなんかのそばにいて、オレなんかに穴を開けられちまうの、すげぇ興奮する」
    「そんなの、オレだって、誰も躾けられなさそうな猛獣をこんな可愛いワンちゃんみたいにして、すげー興奮するよ」
    「誰がワンちゃんだコラ」
     そうは言っても、その熱い唇をオレの全身にちらすその姿はどこからどう見たっておりこうなワンちゃんだ。可愛いな。大寿くんのこんな姿、オレしか知らないの。誰も知らないんだよ。家族も友達も部下も誰も知らない。オレだけの大寿くん。
    「右でいいな」
    「うん、いいよ、どこでも」
    「消毒するか?」
    「ううん。それより、早くしてよ。オレ今さ、実は結構興奮してんの。エッチしてる時みたいな気分なの。だから早くしてよ」
     大寿くんの喉仏が揺れる。それからハア、と大きなため息。大寿くんの大きな手に握られたピアッサーはまるでおもちゃみたいだ。右耳に当てられる。ちゃんと左耳のやつとバランスよく開けてくれよな。指先が耳たぶの裏に触れる。全身がぞわりと震える。やばい、勃っちゃった。大寿くんに腰を押し付ける。オレ、もしかしたら結構変態かも。
     大寿くんがピアッサーを勢いよく握る。がしゃん、という音がふたたびリビングに響いて、それと同時に耳たぶに小さな衝撃が走る。じん、とした確かな痛み。別に泣けるほどの痛さじゃないけれど、不思議と涙がこぼれた。ピアッサーが離れていく。痛みがじわじわと広がっていく。大寿くんの指先が開いたばかりの穴に触れた。それから謎に涙があふれる両目をなぞる。
    「なに泣いてんだ」
    「生理現象的な……」
    「痛かったか?」
    「じわじわ痛いけど泣くほどじゃないよ」
    「じゃあ泣くなよ」
    「イク時って涙出ちゃうじゃん。なんか、そんな感じだよ」
     発言がまるでマゾヒストだ。でもこれだけは言っておきたい。べつにオレは痛いのが好きなわけじゃない。最中に殴られたりするのなんて最悪の極み。だから今回は特別。お互い、耳が弱かったって、それだけ。
    「今度、おそろいのやつ買いに行こっか」
    「今度じゃなくて、今買いに行くぞ」
    「え、いま?」
    「そんなダセェやつ、いつまでもオマエの耳につけたままでいられるか」
     青色のピアスが光る右耳に唇が寄せられる。大寿くんの息がかかって、背筋が震えた。
    「未来永劫、オレ以外が渡したやつを付けるんじゃねぇ。その穴はオレのだ。わかったな」
     うっ、なにそれ、格好いい。格好いい上にえろい。ぞくぞくと背中が震える。オレは両足で大寿くんの腰を掴んで、硬くなったままの下半身を強く押し付けた。
    「ね、買い物はあとにしよ」
    「……しょうがねぇやつだなテメェは」
    「そんなしょうがねーやつに惚れてんのはどこのどいつ」
    「まあ、オレだな」
     唇が額に降ってきて、それから耳たぶへ。そのままぱくりと口に含まれて、開けられたばかりの穴を舌でなぞられた。きもちいい。好きな人に触られるのはそれだけできもちいい。大寿くんもそうでしょ? 安っぽい青色を指の腹でなぞると、その大きな体がわかりやすく震えた。
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