サトリの双眸にはたまに、眼帯をつけスーツを着こなした楠石と、まだ眼帯をつけておらずシャツとダメージジーンズを着ている幼少期……まだ少年だった時代の姿がみえるときがあった。
眼帯で被われていない片目。肉のある腕。まだ頼りない四肢。
これはまだ楠石の心がみえない時にはなかった。
彼の弟が目が覚め、弟と接するときに心の隙間から垣間見える会話と…声に、正体を知った。
あれは楠石が蒼汰だった時代なのだと。
蒼汰だった時代の姿は彼の心そのものともいえた。
楠石千里の心がみえなかったのは少なからず眠っていた弟の存在がそうさせたのだと、そこで思い至って、たまらず彼の肉体ではない、手袋で覆われた手を握った。
サトリはまたみえた。眼帯をつけた楠石が目を細めて笑った姿と、その向こうに蒼汰だった彼の幼少期の姿が笑ったのが。