https://poipiku.com/3339706/4960578.htmlみたいな楠石さんがあつさ弱ったver話
妖界でも人間界でも熱帯夜が続いたときに、いくら夜といえど黒と濃い色のシャツで出歩いていては、蓄熱がたまる。
そんなこともかまわないほどその時は多忙だったのだ。
そうして蓄積された熱とくわえて夜間寝る間も惜しんだ活動の結果、
「自分のこと大切にしてよ」
蒼汰の眉根を寄せた不満顔を布団の上で見上げる羽目になった。
「あー…わるい」
「いいから寝て」
「……わるい。蒼汰、オレのことはいいからお前も休んでろよ……あんまり調子、よくないだろ」
「わかってるよ、……やれることはもうないし。
サトリ、兄ちゃん寝るまで見張ってろよ」
「蒼汰さんも大丈夫ですか?」
「大丈夫、薬は飲んだ」
「わるい」
やや乱雑にふすまが閉められた。へそを曲げたままの蒼汰を放っておきたくはないが、いまはまだからだが倦怠感で動かすのすら普段の倍かかりそうであるし、なにより蒼汰のへそを曲げた一因を悪化させるわけにはいかず、ただ布団を胸元まで引き上げる。
「……、」
「……サトリ、見張っててとは言ってたがひとときも目を離すなって訳じゃねぇぞ?」
その間もまばたきすらしたかと疑るほど布団の横で正座しているサトリのなんの曇りもない視線が刺さっていたい。
凝視されていては正直居心地がよくない。体が重たいためサトリの極端な言動を突っ込む声に力は入らなかった。
「楠石さん」
「ん?」
「わたし思い付きました
スーツを新しくしましょう」
「は、いや、なに?」
「黒だと光を吸収してしまうのでもう少し明るいものはどうですか?水玉みたいなこんなものを用意しました」
「そんな目立つヤツいねぇよ警戒されるだろ」
新しくしましょうの提案の切り口だったわりに、サトリはどこからかドット柄のスーツと赤のストライプのシャツを取り出して布団の上から合わせた。
大道芸人のピエロと大差ない目立ち具合に仕事の支障が出かねない危惧につい声をあげると、サトリは意思が強そうな眉と眦が顔の横に迫った。
「楠石さんが倒れるのをみるのは、わたしも弟さんもイヤです」
帰宅して早々に立ち上がれなくなったからか、慌ただしくてあまりはっきり覚えていないが、甲斐甲斐しく体を拭ってくれた蒼汰に、塩と砂糖の分量がややおおざっぱでよくわからない味をした水を次々と用意するサトリはたしかに、暗い顔をしていた。
蒼汰はとくに自分が体調不良であるときにやってもらっているからかなれないにせよ手順はしっかりしていたが、不馴れという理由だけではなく力が少し籠っていたようにもおもう。
「悪かった、おまえらに心配かけさせちゃ意味ないよな」
大事な人間を大事にすることで自分を大事にしてきたつもりだが、逆に崩しただけで一変、空気を重たくするほどとは思ってもいなかった。
せめてもの眉と眦をつりあげるサトリに声だけは気丈に振る舞った。
「スーツは……まあ、追々考えるとしてもそのスーツは却下だ、仕事できねぇ」
布団に重ねられたピエロの衣装は、サトリの手に返品は忘れない。
次の瞬間にはサトリが再びピエロの衣装と異なるスーツをハンガー付きで手にしていたが。
「では第二弾を」
「まだ用意してたのかよ!あーもう明日な明日!ちゃんと体休めてから考えるから、おやすみ」
「……」
「……だから目を離すなって訳じゃないんだから、逆に気になって寝られねーよ」
「兄ちゃんたちうるさいよ寝られない……そんな元気ならぼくもそっち行くよ、大丈夫でしょ風邪じゃないんだし」
おわり