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    keskikiki

    @keskikiki

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    keskikiki

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    滅却師殲滅戦の時の話を書こうと思ったけどやっぱあの二人にも「山本総隊長の秘蔵っ子」としてバリバリ前線に立って蹂躙しててほしいナが出てきたから……

    #浮京

    夜霧より未定
     咳き込み続ける浮竹をどうにか抱えて裏路地に入る。この辺りのはずなのだがと地図を見返すが何しろ勝手の分からぬ異国の地、読み方が合っているかどうかさえ不安で、さりとてこの格好で人に聞いて回ることもできず表音文字の並びに目を凝らしながら進むしかない。応急の薬が効いてもなお浮竹の肺は暴れている。然もありなんと睨み上げた空は濁った色をしていた。東梢局の何もなくただ広く山にさえ滲むような空はない。
    「ああ、もう。何が挨拶さ……!」
     吐き捨てること何度目か、置いて行けと訴える視線を無視すること数十分、ようやく目当ての通りに辿り着いて指定された通りに何故か水を撒き散らす装置を見つけた。なんでまたと見遣れば浮竹は最早難所を通り越していて虚な目でそれを見ている。
    「……飲めるかな」
    「やめときなさい、ほら濁ってる。もう少しなんだから」
     小休止すると夜明けが近くなっていた。慌てて地図の残りを辿って更に通りを抜けて投書箱らしいところへ浮竹が預かっていた小さな硬貨を差し入れた。それが落ちる音は聞こえない。京楽は告げる。
    「尸魂界東梢局護廷隊より移転祝いのご挨拶にあがりました──」
     二人の地面がなくなる。恐れることなく京楽も浮竹も『裏側』を目指して落ちていった。


     山本直々の任命であった。何故かと問えば若いからとのこと。そう答えたところで京楽が、年寄りに遠路は厳しいと茶化したら拳が返ってきたのも記憶に新しい。それが元で出立まで様々な雑務を押し付けられた京楽に代わって浮竹が調べたところ、なんでも西梢局は霊王権能が薄く現世の影へ隠れるように存在しているとの由、その現世が政変動乱により夜間の『ドラゴン』狩りに支障が出てきたとかで棲息分布にあわせて拠点を移したとか。夜間の灯火管制や外出制限があっては自由な活動は難しがろう、しかし脅威を野放しにしておくことはできずとなれば多少の不自由はあっても合理的な話だった。
     とはいえその移転先の現世が黒煙に覆われているとは想定外であった。狼煙かと思えば人々は日常の顔をして生活していて、なんでも火種に炭や薪より効率的なものも利用しているとのこと、そこに灰色をした煙が付き纏っていた。若かろうと肺の弱い浮竹にはたいそう劣悪な環境だった。人目を避けて煙の薄い時間帯を選べば今度は霧煙る冷気に気道が狭められた。二度と来ないと来たばかりで恨み言のように呟いている彼に、京楽は、大変だったねえと周りを見渡す。次の機会は絶対に浮竹へ鉢を回さないと決めたところで今回生きて彼を帰せなければ意味がないのだ。折よく、揃いの羽織が三つ四つ駆け寄ってくる。彼らが歓待の声を上げるのを聞くより先に京楽は寝台を借りれるか交渉する必要があった。挨拶もそこそこに医務室へ流れ込むはめにはなるがお陰様で温かい飲み物に軽食まで貰える。助かったと伝えつつ浮竹を見れば目を閉じていた。結局喀血してしまったので終日安静が決まっている。額に張り付いた前髪を除けてやると京楽は彼を残してひとり立ち回る。三日の予定であった。
    「これで二日も寝込むとは不覚……」
    「ボクは見慣れてるけど、向こうさんからしたら血吐いてるのに二日で元気なのかよって感じだと思うよ」
     挨拶回りもなにも隣部署ということになっている割に技術協力や人員連携もないのだから顔を繋ぐ先もそうなく、一日で終えてしまうと残りは篤志な者にドラゴン業務を見学させてもらうぐらい、ホロウとはまるで勝手が違うというのを話し合って二日目をやり過ごせば翌日には血の気の多い若手に捕まろうというもの、手伝いの戦力にはなれそうもないところから買って出て始解をして鬼道にも似たしかし全く異なる術を相手に苦戦していれば背後から慣れた霊圧を覚える。振り返るまでもなく浮竹はおかんむりの状態で、どうにか斬魄刀見学会に持ち込んでもなお京楽を睨みつけていた。昼食の時間だと呼ばれなければまだ睨まれていたかもしれない。
     何のことやらと首を傾げる浮竹は病み上がりと思えない速度で皿を空にしていく。イカれてるとのどよめきは聞こえているのかいないのか、鶏の焼いたものや白身魚の野菜と揚げたものを凄まじい勢いでたいらげていき、どころか京楽の皿が減りの悪いと見るやその居残りを拐っていきさえする。先ほどまで駆け寄ってきて離さなかった連中だって今や遠巻きに眺めるのみ、京楽は諦めて皿ごと押しやった。
    「食べないと力が出ないだろ。負けるぞ、俺に」
    「戦う気かい?」
    「お前も戦っていたろ。俺だってやりたい」
    「叱られるよ。っていうかボクだってずっと睨まれてたんだよ。窓越しに。やめときなさいって」
     だってと浮竹は野菜の酢漬けを飲み下すと不満げな顔を存分に見せてくれる。
    「ずっと寝てたから。寝て起きて帰るとは入院しにきたみたいじゃないか」
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    keskikiki

    MOURNING髪カーテン書けなかったしこいつら揃って逃げ癖があるから辛い時は独寝しかできないよ
    ぬくぬくと 共寝の目的はひとつでない仲だ。目が醒めたときまだ障子の向こうには雨戸が閉められたままで灯り取りの窓からも暗闇しか窺えなかったが、自分の髪も寝巻きも割合い綺麗なまま少し寝崩した程度、何より隣で眠る男の髪も寝巻きも綺麗なままだった。眠りの浅い男が、とは考えるもののただ身を起こした程度なので仕方ない。況してや布団を分けて眠っていた。
     尿意か来客の気配でもと探ったが用を足せる気もなければ抑えられた霊圧もない、後者なら隣の男も起きていたはずで、万全とは言い難いが寝る前より呼吸器に違和があるわけでもない、微熱が出たようでもない、単純に目が醒めてしまっただけらしかった。吸飲みに手を伸ばしてみる。器物は霊圧を出さないので不便だった。慣れた作業と考えていたが思っていたほど上手くいかず、こうも不如意となる理由はとうつらうつら考えだして、すぐに嗚呼と隣にいる男を思い出した。一枚だけなのか二枚だけなのか、布団の数が変わっていた。それだけで場所も変わるとということを失念していたらしい。我が事ながら呆れるほかなく手探りで水を飲んだ。
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     尿意か来客の気配でもと探ったが用を足せる気もなければ抑えられた霊圧もない、後者なら隣の男も起きていたはずで、万全とは言い難いが寝る前より呼吸器に違和があるわけでもない、微熱が出たようでもない、単純に目が醒めてしまっただけらしかった。吸飲みに手を伸ばしてみる。器物は霊圧を出さないので不便だった。慣れた作業と考えていたが思っていたほど上手くいかず、こうも不如意となる理由はとうつらうつら考えだして、すぐに嗚呼と隣にいる男を思い出した。一枚だけなのか二枚だけなのか、布団の数が変わっていた。それだけで場所も変わるとということを失念していたらしい。我が事ながら呆れるほかなく手探りで水を飲んだ。
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    DONE没原稿④お月見の浮京
    生者に似合わぬ月光よ「せいぜい月の光を浴びるがいいよ」
              ──『魍魎の匣』

     秋の始まりといえば陽の落ちる早さだとか朝に寒くて目が醒めるだとか人により知る術があるだろう。京楽にとっては残念ながら、ようやく酷暑を乗り切った浮竹が寒暖差で体調を崩すことで知れた。一番悔しい思いをしているのは当人だろうから決して口にはしない。卯ノ花ぐらいだ、公言するのは。
    「昔はまだ持ち堪えてた筈だがな」
    「ボクらも歳を食ったってことでしょ。気にしなさんな。夏風邪と違って掛け布団があっても暑くならないんだし、大人しくしててよ」
     宥められたところで浮竹の顔は晴れない。
     昔はもっと耐えようがあった。なにせ中秋の名月、もとい中秋節に合わせて宴会があってそこに新人は駆り出されていた。拙くも琵琶を弾いたり筝を弾いたりした覚えがある。一方で京楽は風流な振る舞いに恥じぬ見事な横笛を披露して、本人は野郎相手に無駄な音を奏でたと嘆いていたが意地の悪い同僚たちでさえ感嘆の声を漏らすほどだった。浮竹は師匠がいたから聞くに耐えぬ音を出すことはなかったものの皆が皆そうであった訳でもなく、そもそも豊作の返礼が色濃くなってきて、そこに京楽の横笛で肥えてしまった耳で素人の音色に用がある者など居らず、二人が官位を戴いて暫くした頃にはそんな風習はなくなっていた。二人揃って若くして隊長羽織を受けた頃には廷内の茶屋が商魂逞しく気張る程度で、隊ごとに内々で屋根に上ったり見晴らしのいい丘へ行ったりすることもあるぐらいだ。今に至っては浮竹なぞ団子を食べる日とさえ捉えている。
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