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    下町小劇場・芳流

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    POIPOI 41

    大昔のロマサガ1小説。
    ちょっとだけグレイ✕クローディア。
    何故かナイトハルト(いちおう善)が出張ってます。
    SF版ロマサガ1を前提にしているので、ミンサガとの矛盾、イメージ違いがあります。
    2002.8執筆。

    #ロマンシングサガ1
    romancingSaga1
    #ロマサガ
    romancingSaga
    #グレクロ

    月下邂逅 夏の夜は街の眠りも遅くなる。月が高く上っても、街角や酒場からは喧騒が去らなかった。
     王都クリスタルシティもそれは同じである。一際賑わう宿屋兼酒場のホールは、旅人たちに混じり都の住人が、大勢、杯を上げていた。
     宿の扉が、からんと鈴の音を立てた。新たな客の訪れである。店の主人は、顔を上げて客を迎えた。
    「いらっしゃ・・・。」
     しかし、彼はそのまま言葉を失った。主人だけではない。その場にいた誰もが一斉に扉を見やった。会話がとぎれ、異様な静寂が辺りに広がった。
     客は主人に金貨を数枚握らせると、一言も告げず、そのまま個室のある二階へ上って行った。何も見なかったことにしろということか。
     主人は慌てて笑顔を作り、その場にいる客全員分の葡萄酒を出した。
    「これはおごりだ。さあ、飲んでくれ!」
     主人の言葉に、客は皆笑顔を取り戻した。


     宿屋の二階では、大部屋を取った冒険者一行が思い思いに休息を取っていた。若いジャミルは行儀悪く椅子の背を抱え込んで座り、ホークは既にベッドに身を投げ出している。アイシャはバーバラの隣でちょこんとベッドに腰を掛け、シフは壁にもたれ掛かっている。そしてアルベルトは、こんな時でも折り目正しく、背もたれを後ろに椅子に腰掛けていた。
    「ほんと!すごかったんだって!さっすが王宮だぜ。」
     昼間の興奮も冷めやらぬジャミルは、アルベルトと共に訪れたこの都の宮殿の様を熱っぽく語った。盗賊の血が騒ぐのかもしれない。
    「まーちょっと皇太子って奴はいけ好かねえ野郎だったけどな。おっさんも来ればよかったのに。いろいろお値打ちもんがあったぜ。」
    「馬鹿言うなよ。場違いだろ。のこのこ顔出して取っ捕まったんならそれこそ間抜けだ。」
     おっさん呼ばわりされたホークに、シフが感心したような声を上げた。
    「へえ、そんなに有名なのかい?ホークって。」
    「あったり前さ。サンゴ海のキャプテン・ホークって言ったら賞金首もんだからな。」
    「だーいじょうぶよお。海賊がのこのこ歩いて陸にいるなんて、だーれも思わないからさ。」
     バーバラは機嫌よくおおらかに笑った。褒めているんだか、けなしているんだか解らない物言いだ。
     そのとき、彼らの会話を破りドアがノックされた。その音は、規則正しく二回。
    「あれ?グレイたち帰って来たのかな?」
    「グレイじゃノックなんてしないでしょ。」
    「はい、どうぞ。」
     一番扉に近いアルベルトが入室を許可した。すぐに木製のドアはぎいっときしんだ音を立てた。廊下に佇(たたず)む人影を目にした時、アルベルトは思わず椅子を蹴って立ち上がった。長年の彼の習慣がそうさせていた。
    「で、殿下っ!」
     余りにも意外な客人の来訪だった。アルベルトは声を上げた。今日、宮殿に尋ねたばかりの彼の主人。「いけ好かねえ皇太子」がそこにはいた。


     六人の中央で主のように椅子に腰を下ろし、ナイトハルトはぐるりと全員を見渡した。
    「今日は非公式だ。ゆっくりしてくれ。」
     ナイトハルトの仰々しい物言いに、聞こえないようにジャミルが毒づいた。
    「・・・こいつを前にゆっくりも何もねえよな。」
    「しっ、ジャミルってば!」
     アイシャがぷうっとむくれた。
    「ナイトハルト様、ご用件がおありでしたら、お越し頂かなくても僕が宮殿にお伺いしましたが。」
    「宮殿で出来ぬ話だからこうして私が出向いたのだ。アルベルト、そなたが気に病むことはない。」
    「はい・・・。」
     丸め込まれそうなアルベルトに代わり、バーバラが話を進めた。
    「で、なーに、用件って。王子サマ。あたしたちも聞いた方がいい訳?」
    「うむ。そなたたちはアルベルトの仲間だな?ならば聞いてもらった方がいい。アルベルト、これで全員か?」
    「いえ、いまは出ている人が二人います。」
    「ふむ。彼らにも話しておきたいところだが・・・まあよい。そなたから話しておいてくれ。」
    「はい。」
     ナイトハルトはここでようやく本題を切り出した。
    「実は、折り入って頼みがある。クリスタルレイクの宝玉は知っておるか?」
     財宝には一日の長があるジャミルが悲鳴を上げた。クリスタルレイクの宝玉と言えば、十のデステニィストーンの一つ。秘宝中の秘宝だ。
    「げっ、『水のアクアマリン』じゃねえか。んなもん、どうすんだよ。」
    「あのアクアマリンは我がライマン家の家宝だ。だが、それを狙う不届き者がいるようでな・・・。」
     ナイトハルトとジャミルの視線が、一瞬、交錯した。ジャミルはばつが悪そうに舌打ちして瞳を逸らした。
    「そういうことだ。それを持って来てもらいたい。」
    「は、はい。ご用向きは承知致しました。ですが、それでしたら僕らでなくても・・・。」
    「いや、あれが真に伝説通りの物であればいずれ必ず必要になる。個人的な興味だよ、アルベルト。だから近衛では駄目なのだ。」
    「そうですか。解りました。僕でお役に立てるのでしたら、必ずお持ちします。」
     話がそこまで進んだ時だった。不意に、扉が音を立てた。身構えて振り返ったナイトハルトの耳に、不似合い明るい言葉が飛び込んできた。
    「ただいま。遅くなってごめんなさい。」
     扉を開けたグレイの隣に、クローディアが姿を現した。いつも通り、彼女は穏やかに微笑んでいた。
    「おや、お帰り。」
    「二人とも入って。王子サマが、お話だってさ。」
     シフとバーバラが二人を迎えた。
     しかし、グレイはナイトハルトの姿を認めると、一瞬眉を潜めた。貴族嫌いの彼の性癖が頭を持ち上げたようだった。
    「いや、悪いが話なら後で聞かせてもらおう。連れが具合を悪くしている。下がらせてもらう。」
     反論する隙もなく畳み掛け、グレイはすぐさま扉を閉めた。クローディアを連れ、もう一つ取った隣の部屋に退散した。
     素早いグレイの対応にアルベルトは二の句も継げなかった。皇太子に対しあんまりな振る舞いに、彼はひたすら頭を下げた。
    「す、すいません、ナイトハルトさま。グレイ、悪い人じゃないんです。でも、あの・・・。」
    「冒険者か、彼は。」
    「あ、はい。」
    「そういう気質の人間にはよくあることだ。気にせぬよ。お前から話しておいてくれ。」
     グレイの言葉を耳にしたアイシャが、心配そうな視線でバーバラを見上げた。
    「クローディア、具合悪いの?あたし見てくる。」
    「いいの、いいの、アイシャ。調子悪い訳ないじゃない。グレイってば、王子サマにクローディア見せんのヤなんじゃないのー?」
    「おいおい。あいつら、いつの間にそういうことになってんだよ。」
    「初めっからでしょ?あの二人は。」
    「へー、そうなのかい。」
     年上連中が噂話に花を咲かせている間、ナイトハルトは不意に上った名を耳に留めた。
    「グレイ・・・クローディア、か。」
    「はい?」
    「あの二人の名か?」
    「はい、そうです。どうかしましたか?」
    「いや、いい。そうか・・・なるほどな。」
     いつの間にか、ナイトハルトの面には笑みが上っていた。
     暗灰色の髪と瞳の男。
     ブルネットの髪に、ヘイゼルの瞳の娘。
     アルベルトに相槌を打ちながら、ナイトハルトは二つの名を胸に刻んだ。今まで「アルベルトの仲間」の誰にも名など尋ねなかったというのに。
     その様子を窺いながら、ジャミルは奇妙な不審を感じていた。


     ナイトハルトは宿屋から出ると、外に控えさせていた供を下がらせた。宮殿までは決して近い距離ではないが、彼は一人、王都の夜道に踏み出していた。
     皇太子ともあろう者、普段は夜の一人歩きなど決してしない。彼を付け狙う刺客にとって、絶好の好機が訪れていた。
     自らを付け狙う影に気付いているのか、いないのか。ナイトハルトは誘(いざな)うように薄暗い都外れを通る道を選んだ。
     砂利の残る舗装されていない道は、その脇に生える木が天井のように蓋をしている。頼りない赤い月の灯は、葉の合間から零れるように落ちるだけ。薄明りの中、ナイトハルトの黒の軍服はそのまま闇に消えて行きそうであった。
     不意に、彼は何もないところで足を止めた。
     人の気配がある。
     研ぎ澄まされた刃のような、ぴんと張った空気。ナイトハルトは、腰に手を当てた。
     闇夜に、白刃が火を放った。ヴェルニーの大太刀が、同じ金属を受け止めた。一瞬、討ち合った重い刀はすぐにまた気配を消した。
     闇から抜け出た切っ先が、再び目前に迫る。数インチの差でそれを叩き落とす。
     だが、今度は相手も逃げなかった。一合、二合。手元にまで剣撃の重さが走る。
     一際大きく討ち合い、二人は互いに後ろに飛んだ。右手には鈍い痛みが残されていた。
     目前の闇で、剣が鞘に収まる鞘走りの音がした。ナイトハルトはそれを聞き遂げると、自らも剣を納めた。かちんと、鍔が鞘とぶつかり高い音を奏でた。
     影は、ゆっくりと口を開いた。
    「失礼。高貴な方には無遠慮な挨拶であったかな。」
    「いや、こういうものは嫌いではない。なかなか楽しめた。」
    「それはそれは。」
    「それに、お前とは話をしたいと思っていたところだ。来ると思ったよ、冒険者グレイ。」
     確信を持って、ナイトハルトは突然の襲撃者の名を呼んだ。殺気はなかった。刺客でないことなど、初めから明らかだったのだ。グレイは苦い笑みを漏らした。
    「俺をご存じとはな。」
    「お前の噂は耳にしている。どんな危険な奥地からも財宝を持ち帰る冒険者。だが誰にも媚びず、どの権力にも与さない。お前を動かすものは金と契約。ただそれのみ。そうだったな。」
     グレイは肩を竦めて見せた。当たらずとも遠からず、というところか。
    「その男が・・・バファルの犬に成り下がったか!」
     突如上った帝国の名。グレイは笑みを消して、皇太子に向き直った。言葉の裏に隠された真実が見え隠れしていた。
    「やはりな・・・気付いていたか。」
    「ヘイゼルの瞳はバファル直系の証だ。それが、今やほとんど産出されない珊瑚の指輪をしているのだ。一人しかおるまい。・・・皇女だな。」
    「恐れ入る。一瞬であの指輪を見抜くとはな。」
     珊瑚の生産量は今ではほとんどない。そのため、珊瑚自体を目にすることが少ないのだ。並の者では見抜くことすら適わなかった。
    「どういうつもりなのだ。皇女をたぶらかし、王位でも狙うつもりか。」
    「馬鹿馬鹿しい。貴様の価値観で物を語るな。」
     グレイは、恐れもせず大国の皇太子を見据えた。
    「俺はプロだ。金と契約次第で、どんな仕事も引き受ける。それだけだ。」
    「ならば、私がお前を雇おう。条件は弾むぞ。」
    「俺はプロだと言ったはずだ。見くびるな。契約途中の鞍替えはしない。」
    「そうか。残念だ。」
     しかし、グレイはこんな世間話をするために来た訳ではない。自分の話など、どうでもよいのだ。グレイは本題に切り込んだ。
    「・・・どうするつもりだ。正体を知った今、あいつの存在は貴様には不利になるはずではないのか。」
    「眠れる獅子が、美しい皇女を得て目を覚ます・・・こういう筋書きか。」
     ナイトハルトは、口の中で低く笑った。しかし、すぐに笑顔を消すと、グレイに射るような視線を向けた。
    「お前こそ、私を見くびるな。皇女の帰還くらいで、今更バファルがどれ程のものになる。そうだな、むしろあの娘が好敵手になってくれるのであれば、それもまた一興というものだ。」
     二人の間に沈黙が舞い降りた。すぐ目の前に対峙していながら、互いの足は全く異なる大地を踏みしめていた。その間には、埋めようもない、大きな溝が横たわっていた。
    「いまは危害を加えるつもりはない、ということか。それなら結構。」
    「待て、それでよいのか?」
    「ああ。後のことは貴様が勝手にやってくれ。俺の仕事の範囲外だ。」
     グレイはそのまま踵を返した。知りたいことはそれだけだ。彼の仕事に支障さえなければ、ナイトハルトが何を考えていようが彼には関係のないことだった。
     孤高なその後ろ姿に、ナイトハルトは感嘆の笑みを漏らした。やはりいい腕を持つ者は、それにふさわしい精神がある。皇太子は、冒険者の背に呼び掛けた。
    「グレイ、その気になったらいつでも来い。私はお前を評価している。」
    「残念だが、お断りだ。貴様の契約書にサインするつもりはない。」
     振り返りもせず、グレイは即答した。金さえ積まれれば、どんな仕事も平然とこなす。だが、それでもあの男の下に就く気にはなれない。彼の作る世界に住むつもりはなかった。
     グレイにとってはそれで済む。その気になれば、二度と会わずに過ごせるはずだ。
     だが、彼女はどうだ。皇女であることを選ぶのなら、あの男に立ち向かっていかなければならないのか。
     グレイは淋しげに笑みを漏らした。それは溜め息のような、嘆きのような、そんな笑顔だった。
    「あの男の好敵手・・・させたくはないなクローディアに・・・。」
     小さな感慨が、ぽつりと唇から零れた。


     宿の前で、グレイは足を止めた。見覚えのある姿が、扉の前にあった。
    「クローディア。」
     幾分の驚きを込めて、グレイは彼女を呼んだ。一人で外に出ているとは思わなかった。ましてや、自分を待って。しかし、クローディアはいつものように変わらぬ笑顔を浮かべて微笑んだ。
    「お帰りなさい、グレイ。急にいなくなるからびっくりしたわ。」
    「ああ、すまない。」
    「何かあったの?」
    「いや、何でもない。」
    「そう?」
     クローディアはしばしグレイを見つめていたが、やがてその瞳が少しずつ、曇り始めた。怯えたような目で、クローディアはグレイに問い掛けた。
    「ね、グレイ。さっきの人・・・誰だったの?」
    「・・・何故、そんなことを?」
    「ううん、少し。グレイとも、ホークとも違う人だからちょっとびっくりしたの。」
    「そうだな。身分のある男だからな。」
    「違うの。そうじゃなくて。何て言えばいいのかしら・・・。」
     クローディアは言葉を探しているのか暫く言い澱んでいたが、やがて躊躇(ためらい)がちに小さく呟いた。
    「ちょっと・・・怖かったの。」
    「怖い?」
    「・・・ええ。」
     人見知りのするクローディア。彼女にとって、街に人間は、皆怖い者だ。
     だが、グレイやホークのような大男達に囲まれても、もう物怖じしない彼女がそんなことを口にするのは、少々意外に思えた。ナイトハルトは、少なくとも外見だけは優男に見えた。
     グレイは意地の悪い笑みを浮かべた。
    「俺やホークも十分怖い人間だと思うが。」
     グレイの質(たち)の悪い冗談に、クローディアは必死で頭を横に振った。懸命に否定する様が微笑ましい。
    「そんなことないわ、グレイ。ホークも、グレイも少しも怖いところなんてないわ。でもあの人は・・・深い血の匂いがする・・・。」
    「血の匂いか・・・。」
    「あの人の剣は、誰よりも多くの血を吸っているんじゃないかしら。なんとなく、そう思ったの。だから、怖いって・・・。」
     グレイは、クローディアの鋭さに舌を巻いた。さすが、森の魔女と謳(うた)われた老婆の愛娘。その目は、誰よりも本質を見抜く。
     グレイの剣も、ホークの刀も、一度の一人の人間しか殺さない。いや、殺せないのだ。しかし、ナイトハルトのその刃は一度に千の、万の命を奪う。彼らの手にするのは、全く異なる剣なのだ。
     グレイは笑みを消して呟いた。
    「・・・そうかもしれないな・・・。」
    「グレイ?」
     クローディアは小首を傾げ、グレイを見上げた。真剣な目差しのままグレイは未来の皇女を見つめた。
     この肩に、あの巨大な帝国が乗せられるのだろうか。それは決まった未来なのか。あの男と同じ世界に行くのか。恐ろしいと彼女が言ったばかりの扉の向こうへ。
     せめて、彼女自身の心で選べるのなら。
     グレイはようやく唇を開いた。暗灰色の瞳は、真っ直ぐなままだった。
    「クローディア、あの男をよく覚えておいてくれ。君がそう感じたこと、いつかきっと役に立つ。」
     その言葉の意味を、クローディアは汲み取ることは出来なかった。彼の真意を察するには、まだ彼女は知らないことが多すぎた。
     クローディアはじっとグレイを見上げた。
     屈強な肉体に相応しい、鋼の精神。それは長い旅の中で培われたものなのだろう。様々な出来事を、人を、心に留めて。誰にも流されず、何者にも与(くみ)さず。穏やかな迷いの森で、包まれるように育ったクローディアにはないものだった。
     その姿に、一歩でも近付けるのなら。
     クローディアは極上の笑顔を浮かべた。迷いも心配もない、晴れやかな微笑みだった。
    「ええ、解ったわ。」
     その様に、グレイも唇の端を上げた。
    「・・・戻るか。」
    「ええ。」
     彼の肩先に、ブルネットの髪が揺れていた。
     小さな姿だ。
     だが頼りなくはない。初めて会った時とはもう違っていた。もう少しすれば、もっと気丈に、強くなるのだろう。
     グレイは、ただの仕事であるはずの彼女に、仕事以上の興味を感じ始めていた。
     だが、彼は、それに気付いてはいない。
     紅(アムト)の月灯(つきあか)りは、まだ二人の行く末を優しく照らしていた。

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    ちょっとだけグレイ✕クローディア。
    年越しの話。
    SF版ロマサガ1を前提にしているので、ミンサガとの矛盾、イメージ違いがあります。
    2004.1執筆。
    このジャンルの作品の中では、新しい方(待て)。
    十二の葡萄 年の瀬のメルビルは、普段の落ち着いた佇まいが嘘のように、賑わっていた。
     北が暑く、南が寒いこの地方では、年末は、夏の盛りである。
     惜しげもなく降り注いだ高い夏の日差しは、今はもう海の向こうに姿を消し、代わって街角を照らすのは、市民お手製のランプである。普段は家の中にしまいこまれている机や椅子を表通りに出し、仄かな灯かりとともにその上を彩るのは、秘蔵のワインにとっておきの魚や野菜。人々は思い思いの格好で、飲み、歌い、そしてちらちらと一定の方向に視線を向けていた。
     彼らの注視する先にあるのは、世界で唯一のエロール正神殿である。マルディアス十二神のうち、最高位に位置する神々の父エロール。それを祭った世界でただひとつの由緒正しい神殿は、森の中に屹立していた。そして、その聳え立つ宮の頂きには、これもまたこの街でただひとつの時計塔とともに、二つの月光を受けて輝く、荘厳な鐘が備え付けられていた。
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