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    dokuitu

    @dokuitu
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    dokuitu

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    グラチルアジトにそうとは知らず住んでるパンピーから見た攻司の話
    後編ですが、前編とは全くもって関係ないです(前後編の意味とは)

    とあるタワマンの怪 人妻の場合その高級住宅塔タワーマンションには、暗黙の了解がいくつかある。

    一つ。上階の子供達の詮索はするな。
    一つ。何か見ても騒ぐな
    一つ。余計な事をするな

    一見すると、それらは当たり前の事なのかもしれない。
    しかし、とても大切な事なのだ。そう──生き残るために

    それでも、禁忌タブーを犯す者はいるもので。
    今回、それは一人の女性だった。

    太陽が地平線に眠り、夕方から完全に夜になろうとする頃。
    晩御飯に必要な材料を買い忘れた事に気付いた女性は、慌ててエレベーターのボタンを押した。
    程なくして、チーンと到着の音が鳴る。
    開く扉。そこには、車椅子に乗った眼鏡の少年と、介助者らしきサングラスの青年がいた。お揃いの学ランを着ているが、それ以外は身長も体格も真逆に見える。

    「あら、こんばんは」

    「こんばんは」

    「うっス」

    女性の挨拶に、少年は笑顔とお辞儀で、青年は軽い会釈で返す。
    扉が閉まり、エレベーターが一階へ向けて動き出す。
    挨拶以外、互いに会話は無い。何故なら、女性は心得ているからだ。

    上階から来る子供達の詮索はしない事。

    例えば、少年の手足が無い事。
    例えば、サングラス越しの青年の目は開いてない事。
    例えば、こんな時間に子供が出歩く事。

    少しでもそれらに疑問の声を出せば、一体どうなるか。……は、実は分からない。
    けれど、女性は知っていた。
    時に、このタワマンからは住民が消える。
    引っ越しただけかもしれない。近所付き合いが希薄な現代で、近隣に何も告げる事なく消える事だってあるだろう。
    だが、それにしては彼らが消えるのはいつだって唐突で、不思議な不気味さがあった。

    沈黙の中、気を紛らわせようと女性は床を見る。すると、何か赤い点が見えた。
    それは純粋な赤ではなく、少し黒ずんでいる。丸い点だが、縁はギザギザだ。
    まるで、高いところから落ちた液体、更に言えば血──

    「どうされましたか?」

    女性の思考を遮るように、少年が声をかける。
    ハッと顔を上げると、少年と目が合った。

    乗り合わせた時から、変わらない笑顔。
    だが、女性は気付いた。気付いてしまった

    ……笑っていない。眼鏡越しの瞳は、一切熱を持っていない。
    氷すらも温く感じてしまうような、絶対零度の視線。

    「いえ、その……」

    冷や汗が背中を伝う。苦し紛れに浮かべた笑顔が引きつる。
    何も気付かなかった振りをするか、それとも……

    「少し、床に汚れがあるのが見えて……」

    女性が選んだのは、あえてぼかして伝える事だった。
    同時に、チーンとエレベーターが一階に辿り着いた事を知らせる音が鳴る。

    「お先にどうぞ」

    後から乗った女性の方がボタンに近かったので、『開』のボタンを長押しして少年達を促した。

    「ありがとうございます」

    感謝アザッス」

    彼らは同時に会釈すると、女性より先にエレベーターを出た。
    少年の重圧から解放され、彼女は大きくため息をつく。
    女性がエレベーターを降りると、「ああ」と少年が青年の背中越しに声をかけてきた。
    びくりと女性は体を震わせる。
    しかし、先程の視線が嘘のように、少年は穏やかな笑みを浮かべていた。

    「その汚れの事、僕達が管理人さんに伝えておきますね」

    「そ……そう? ありがとうね」

    「いえ、どうかお気を付けて」

    にこやかに別れる。入口から出てしばらく歩いた所で、彼女はようやく全ての荷が下りたようにほっとした。

    (なんだ、良い子じゃない)

    あれはきっと杞憂だったに違いない──そう結論付けて、女性は買い物へと向かった。


    その、数日後。
    ガスが抜けた室内で、眼鏡の少年──司令オーダーと、サングラスの青年──攻手アタッカーは死体の検分をしていた。

    「本当にこの人であってる?」

    セーラー服の美少女、舞踏鳥プリマがそう問いかけると、司令オーダーは首を縦に振った。

    「ああ、間違いない」

    「そう。確認ありがとう」

    家族三人分の死体が並んだブルーシートを被せ、舞踏鳥プリマは立ち上がる。

    「それにしてもよォ」

    顎鬚を擦りながら、攻手アタッカーが口を開く。

    「わざわざガス漏れ事故を偽装しなくても、口封じなら他に方法があるんじゃねえか?」

    「言ったでしょ? やるなら徹底的に。少しでも怪しまれたなら、すぐに口は封じないと」

    「……元はと言えば、新入りの尻拭いだけどな」

    「めんどくせえよなあ」

    「……仕方ないじゃない。私達は割れた子供達グラスチルドレン。殺したがりの子供なんだから」

    女性が勘づいた血痕は、エレベーターに乗り合わせた住民をうっかり殺してしまった新入りが残したものだ。
    罰として、そして痕跡を消す練習として新入りにはエレベーターの掃除が命じられたものの、一滴だけ見逃してしまったらしい。
    その新入りが更に怒られたのは言うまでもない。

    「さ、今日の仕事はこれでおしまい。……そろそろ新しいカチコミもあるから、あまり手を煩わせないでほしいんだけどね」

    そう愚痴ると、「先に行くわ」と舞踏鳥プリマは部屋を後にした。

    「…………」

    司令オーダーは、ブルーシートを見つめる。
    物言わぬ死体を覆う、青い幕。その向こうには、僅かだが話をした他人がいる。
    両親を含め、何人も殺した司令オーダーでも、こういう時の心象は

    司令オーダー?」

    「……なんでもない。行こう、攻手アタッカー

    暗号で進行方向を告げ、司令オーダー攻手アタッカーも部屋を後にする。
    沈黙の部屋で、ただとある一家の死体だけがそこにあった。
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