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    totorotomoro

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    POIPOI 39

    totorotomoro

    ☆quiet follow

    私が鯉博二次創作した時の最初の話です。

    #鯉博
    leiBo

    散文1 目の前に広がっているのは炎と煙。
     感じるのは温い空気に灰の臭い、燃える油の臭い。
     周りには瓦礫と燃えて崩れていく建物。
     逃げ惑う人、銃の音、足音、叫び、悲しみ、痛みを訴える声、声、声。

     フェイスシールドとフードによっていくらか遮られているそれをコートの袖で拭おうとして、どろりとした感触が腕にまといついているのに気づく。
     それが何かなど考えるまでもない。思考が一瞬白くなり、たたらを踏んで気づく。
     
     この足元のぬめりはなんだろうか。

     足を上げて振り払おうとしてよろめき膝をつく。
     足元がずぶずぶと崩れていく。
     そして浮かぶ、白い、
     この、人形の山は───。

     ───ドクター。

     ずるりと足元から伸びる腕、絡みつかれて跪いている下へと引き摺られる。
     沈めば戻っては来れない。その直感があるのに振り払えない。
     この腕が誰かを知っている。

     ───ドクター。ドクター。

     嗚呼、嗚呼。

     ───ドクター!

        ◆◇◆

     ばつんと音がしたかもしれない。
     揺さぶられる衝撃で急に意識が覚醒した。
     瞬きをして、ハッ、ハッと息を吸う。
     サイドテーブルだけの明かりしかないので薄ぼんやりとはしているが、フェイスシールドのない視界は良好で、こぽこぽと聴こえるのは加湿器だろうか。
     部屋の中は静かで、少し寒くて、頬に触れているのは枕。体に触れているのは上掛け。
     びっしょりと汗をかいた不快さにリネンの冷たさで気づく。
    「うなされてましたよ、大丈夫ですか?」
     長身を折りたたむようにしてのぞき込んでくる金色の目に、きらりとサイドテーブルのランプの明かりがきらめいた。
     先ほど見た夢の炎が脳裏にちろりと灯る。
     大丈夫、そう答えようとして、彼の背後の暗闇が先ほどの夢と重なり、ヒュッと息が詰まる。
     触れようと伸ばした手は相手のシャツの袖を握り締め、息のしづらさに吸えば吸うほどヒューヒューとした息が喉からこぼれる。
     リー、と呼ぼうとするのに言葉が出ず、はくはくと口を開け閉めする。辛さに視界がにじんでぼやけた。
    「あらら。落ち着いて」
     リーは得心したように上体だけを起こしていた体でベッドの上に座り直し、「すみませんね」と言いながら掴んでいた腕を引いて体を横抱きに抱きかかえてくれた。
    「よーしよし、おれがここに居ますよ。おれの声、聞こえます?」
     肩口に頭を乗せるようにして、トントンと優しく背中をさすられる。びっしょり濡れた背中を触らせる申し訳なさもありつつ、嗅ぎ慣れた煙草と香の香りに顔を埋めてうんと頷けば「いいですね」とそっと汗ばんだ髪を手櫛でとかされた。
    「おれの声に合わせて、ゆっくりと息をして。───いち…に…うん、じょうずですよ。いち、に……───」

        ◆◇◆

     どれくらいたっただろうか。
     呼吸が調って段々と冷静になってくる。
    「落ち着きました?」
     リーが額にそっと口づけを落とした辺りで、返事の代わりにハァと深く呼吸をした。
    「大丈夫そうですね」
     肩口からそっと体勢を変えられて再びのぞき込んできた目は変わらず優しい。
     この探偵は嘘が上手い。たぶんだが、内心は相応に焦っていたのだろう。見つめ返せばニコリと笑う人の良さそうな顔に申し訳なさが蘇る。
    「……すまない、びっくりさせた」
    「はは。おれはこういうのガキどもの夜泣きで慣れてるんで」
     気にせんでくださいと真意がわからない声音で、それだけ汗かいてたら着替えた方がいいですねえなんて言いながら体を起こしてクローゼットの方に向かう彼は、よく見たら普段着ている帽子と黒い上着だけを脱いだ格好だ。
     視線を巡らせれば椅子の背もたれに畳んでかけられた上着と帽子が見て取れる。
     見慣れた自室の中で普段は無い物に、昨晩は彼は泊まっただろうかと考えて、前後が思い出せずにぐるぐると思考を巡らせるが、何も思い出せない。
     うっすらと漂う薫香に気持ちを預けてゆっくりと息をする。
    「起きれます? ついでに水でも持ってきましょうか」
     自分の着替えを持って戻ってきたリーに、ふるりと首を横に振った。
    「出来ればリーのいれたお茶がいいなあ」
     もう少し側に居て欲しいと手間を選べば、リーはくすりと笑って頷いてくれた。
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    はるち

    DONE二人で飲茶を食べるお話
    いつだってあなたと晩餐を アルコールは舌を殺す。
     酒の肴を考えてみれば良い。大抵が塩辛く、味付けが濃い。それは酒で鈍くなった味覚でも感じ取れるようにするためだ。煙草も同様だ。喫煙者は食に興味を示さなくなることが多いと聞くが、それは煙が舌を盲目にするからだ。彼らにとっては、食事よりも煙草のほうが味わい深く感じられるのだろう。
     だから。
     酒も煙草も嗜む彼が、こんなにも繊細な味付けで料理をすることが、不思議でならない。
    「今日のは口に合いませんでした?」
    「……いや、おいしいよ」
     考え事をしている内に手が止まっていたのだろう。問いかけに頷き返すと、そりゃ良かった、とテーブルの向かいで彼が微笑む。
     飲茶に興味がある、と言ったのはつい先日、彼が秘書として業務に入った時のこと。それから話は早かった。なら次の休みは是非龍門へ、と彼が言うものだから、てっきりおすすめのお店にでも案内してくれるのかと思ったのだが。彼に連れられてやって来たのは探偵事務所で、私がテーブルにつくと次から次へと料理が運ばれてきた。蒸籠の中に入っている料理を、一つ一つ彼が説明する。これは焼売、海老焼売、春巻き、小籠包、食事と一緒に茉莉花茶をどうぞ、等々。おっかなびっくり箸をつけてみれば、そのどれもがここは三ツ星レストランかと錯覚するほどに美味しいのだから。
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    はるち

    DONEやり方は三つしかない。正しいやり方。間違ったやり方。俺のやり方だ。――引用 カジノ
    健康で文化的な最低限度の退廃「抱いてくれないか」

     その人が、ソファに座る自分の膝の上に跨る。スプリングの軋む音は、二人きりの静寂の中では雷鳴のように鮮烈だった。こうしていると、この人の方が自分よりも視線が上にある。天井からぶら下がる白熱灯のせいで逆光となり、この人の表情を見失う。
     どうしてか、この世界の生物は良いものだけを、光の差す方だけを目指して生きていくことができない。酒がもたらす酩酊で理性を溶かし、紫煙が血液に乗せる毒で緩やかに自死するように、自らを損なうことには危険な快楽があった。例えばこの人が、自らの身体をただの物質として、肉の塊として扱われることを望むように。この人が自分に初めてそれを求めた日のことを、今でも良く覚えている。酔いの覚めぬドクターを、自室まで送り届けた時のこと。あの時に、ベッドに仰向けに横たわり、そうすることを自分に求めたのだ。まるで奈落の底から手招くようだった。嫌だと言って手を離せば、その人は冗談だと言って、きっともう自分の手を引くことはないのだろう。そうして奈落の底へと引き込まれた人間が自分の他にどれほどいるのかはわからない。知りたくもない。自分がロドスにいない間に、この人がどうしているのかも。
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